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第三小節 - 夢

たすけて…お願い…

俺が行く!俺が…俺が助けに行くから!


 暗闇の中を走り続ける。誰かの助けの声が頭に響いている。しかしだんだん声は遠退いていき。

  

…ヒト、エヒト!」


 声に気付きバッと起き上がる。


「ルカ…」

「大丈夫?ずいぶんうなされていたし…汗もすごいわよ」

「ああ…悪い夢を見ていたみたいだ…」

「顔洗ってきなさい、酷い顔をしているわ」

「…あれ?アニマは?」


 俺は立ち上がりながら訪ねる。

 昨晩アニマとルカが共に床に着いたベッドにもおらず、もう1つのベッドも使われた形跡はない。そしてアニマは部屋にいない。


「ちょっと出てくるって。少し前に」

「そっか。ルカは着いていかなかったのか?」

「エヒトだけ残しておけないじゃない!アニマはしっかりしてるから良いけどエヒトは…」

「失礼だな」


 いつもの調子で冗談を言い合いながら俺は顔を洗う。冷たい水のおかげでさっぱりできた。


「今日はどうする?」

「聖域に向かうと思ってたけどアニマがいつ戻るか分からないわ」

「それもそうだよな…どこに行くかは聞いてないんだろ?」

「心当たりがあるのはエヒトしかいないわね!」

「うーん…といっても俺も詳しい訳じゃないし…」


 そう言いながら少し考えてみる。思い当たる可能性は3つだ。

 1つ目は孤児院。嫌な記憶もあるだろうが自分が幼少を過ごした場所を見に行っている可能性はゼロではないだろう。

 2つ目はレイニンさんの所。これは可能性が低いだろうしどこにいるかは分からないはずだ。レイニンさんは謝りたいと、そう言っていたそうだがアニマの気持ちも分からない。

 となるともう1つ知っているのは…。

 そこまで考えて俺は思考を止めた。最後の選択肢はさすがにあり得ないだろう。何のためにそんな場所へ行く必要があるのか。


「思い当たる場所が無いわけじゃないが…」

「どこかしら?」

「3つあってさ。孤児院、レイニンさんの所、もう1つは盗賊団のアジト跡、だな」

「…真面目に考えたのかしら?」

「真面目に考えたよ。アニマがアモールで起きた過去のことを話してくれた時、そこで出てきたのはこの3つくらいしか無かったんだ」

「だからって最後のは…」

「いや、俺も無いなとは思ったけど…そんな所に行く用事なんて無いだろうし」

「そこまで遠くは無いしエヒトやアニマなら半日で往復できるとは思うわ!でもさすがにそれは違うんじゃないかしら…」

「一度門兵に聞いてみるか?もしかしたら街の外に出ていくところを見た人がいるかもしれないし」

「そうね!置き手紙をして行ってみましょうか」


 すれ違いが起きないようアニマ宛に簡単な伝言を書き残し行くか、と立ち上がったその時、部屋の扉がノックされた。

 丁度戻ったのかとほっと胸を撫で下ろす。しかしマルカートが開けた扉の先にいたのはアニマではなく宿屋の女将さんだ。


「あらルカちゃん、丁度良かった!」

「どうしたのかしら?」

「下にレイニン君が来てるから伝えに来たのよー」

「兄さんが!」

「そう!昨日は会ってなかったんですってね!久しぶりなんだし会ってあげなさいよー?」


 そう言って女将さんは部屋から離れていった。


「…どうしたらいいかしらね」

「ルカはレイニンさんと会ってこいよ。俺が探してくるからさ」

「連日家族のことで申し訳ないわ…」

「構わないさ。アニマが言っていた通り、自分のことを優先するのも大切だ」

「本当にごめんなさい、ありがとう!エヒトは地図を持ってたわよね?」

「あ、でもあれはアニマの鞄に仕舞ってあるんだ」

「そうだったわ…あ、私の簡易的なものであれば…」


 そう言ってマルカートは腰に下げたポーチを漁る。そして1枚の紙を取り出した。


「あなたたちの持っているものほど立派な地図ではないけど、一応場所と向きくらいは分かるはずよ!」

「借りて良いのか?」

「これが無かったら盗賊のアジト跡に向かうとなったとき困るじゃない!」

「それはそうだな…ありがとう、助かるよ」

「お互い様よ!で、ここがそのアジト跡ね」


 マルカートは地図の赤い丸が付いた場所を指し示す。盗賊狩りをしていた時に行ったことがあるらしい。アジトというには御粗末なもので廃坑道に勝手に住み着いていたそうだ。


「じゃあ私が先に出て兄を宿から離すから、その間に左方の門へ向かうのよ!」


 そう言ってマルカートは部屋を後にした。

 しばらく窓から外を覗いているとマルカートと恐らくレイニンさんであろう人物が歩いていくのが見える。

 その姿を見送って俺もフードを深めに被り部屋を出た。


 俺たちは昨日下方の門から入れず左方から街に入った。左方の門は昨日通ったあそこだ。特に迷うこともなく進む。

 そこまで時間はかからずに門へ辿り着いた。


「おや?君も出掛けるのかい?」


 声をかけてきたのは昨日ルカと話をしていた門兵、グリレさんだ。


「おはようございます。一晩こちらに?」

「はい、おはよう。もうすぐ交代だよ。君はユース君だったかな?」

「朝までお疲れ様です。ユースです。自己紹介がちゃんとできておらずすみません」

「気にしなくて良いよ!ルカちゃんのお友達でしょ?そうは思えないくらい二人とも丁寧でビックリだよ」

「二人とも?」

「あれ?さっき君の奥さんが散歩にって出ていったけど…知らなかったかい?」

「ああ、いえいえ。街の外に向かったのは知っていたのですが…グリレさんとお話していたと思い至らなかったです」

「新婚さんなんだし早く迎えに行ってあげなね」

「ありがとうございます、行ってきます」


 門を出たということはアニマは盗賊のアジト跡に向かっている可能性がある。そこになんの用事があるかは分からない。分からないが俺も向かうしかないだろう。いないならいないで帰ってくるだけだ。


 マルカートに借りた地図を広げ丸印が付いた場所を確認する。縮尺的にもここからそんなに離れていない。子どものアニマが半日ほどで往復したくらいだし当然といえば当然だが。

 念のため門が見えなくなる距離まで歩き、俺は両足に魔力を纏い一気に駆け出した。纒魔術を使えば追い付けるはず、そう思って。

 

 盗賊のアジト跡まで向かう途中、何度か魔物に遭遇はしたが無視して走り抜ける。恐らくアニマも纒魔術を使って走っているだろうし、いちいち相手をしていては追い付くことは不可能だ。


(もう半分くらいは来たけど…まだ見えないな…)


 眼魔術も使いながら道を走り続ける。しかし一向にアニマの姿は見えてこない。分かれ道を左に向かって行くと次第に道も荒れ始め、誰も使っていない廃道であることが如実に現れていた。

 どんどん道は荒れ周囲は草の背丈も伸び藪になっていく。そこで少し離れたところに違和感を見つけた。

 ある一定の場所から目的地へ延びていくように草が倒れている。間違いない、誰かが最近ここを通っている。となるとそれはアニマで間違いないはずだ。

 倒れた草を辿り進むと周りには魔物の死体がいくつか転がっていた。いつも魔物の死体を処理するアニマにしては珍しいな、と思いながら歩く。

 しばらく行くとポッカリと空いた果ての見えない穴が目に入る。地図を改めて確認し間違いない、ここだと確信する。そうして盗賊のアジト跡へ俺は足を踏み入れた。


 真っ暗だが眼魔術を使えば問題ない。なんとか右に左にと分かれている道を歩き、奥へ奥へと進んでいく。

 滴る水滴の音に不快感を感じながら歩くことしばらく。明かりが目に入った。

 やっと追い付いたか、とほっと胸を撫で下ろし道の角からそちらを覗く。

 しかしそこにいたのはアニマではなかった。見たことの無い風貌の、細身の男性だ。よく見ると唯一見たことがあるものが手の甲に彫られている。紋章のようなもの、それはマルカートが着ていた服に縫い付けられていたカリャカリの一味を示すマークだ。

 何者かは分からないしあいつの力量も分からない。盗賊ということは戦闘になる可能性もある。俺は無駄な争いを起こさぬようにそっと踵を返し出口へと戻り始めた。

 数歩踏み出したところで自身の不運を呪ってしまう。暗い足元にあった何かを踏み、それが壊れた音が響く。


「誰だァ?」


 奥から先ほどの男性のものと思われる声が聞こえる。咄嗟に少し先の分かれ道へと慎重に、かつ急いで逃げ、そこから先ほどの道を覗く。

 男は煌々と光る明かりを灯しながら俺を探すために向かってきた。

 

「どこに隠れたァ?こっちかァ?」


 俺が潜んだ場所の反対側へと男は歩いていく。なんとか見つからずに済んだがまだ油断はできない。俺は再度息を潜めながら分かれ道を奥へと。


「みィつけたァ」


 進もうとしたところですぐ後ろから声がかかり振り返る。ニタニタと笑みを浮かべた男がそこにいた。

 慌てて足に魔力を纏って跳躍し、後方へと飛び退く。


「こォんな所で何してんだァ?」

「…」

「おめェ、背のちっせェガキみてェな女知ってるかァ?」


 問いには答えない。こいつが何者であろうとこんな場所に一人でいるやつがまともとは思えない。いや、俺もそうかもしれないが。


「答える気はねェ、ってことかァ?生意気だなァ。口がきけねェのかァ?」

「…先にこちらの問いに答えろ。お前は誰だ、ここで何をしている」

「はァ?くそムカつくなァお前」


 一気に男から魔力が噴出する。禍々しく重々しいそれは狭い空間を満たすように充満していく。呼吸を忘れるほどに濃い魔力に当てられ膝をついてしまう。


「その程度の実力で歯向かうなよなァめんどくせェ」

「な、なにを…」

「はァ?ちっと威圧出しただけだろうがァ。俺に勝てるとか夢ェ見てたわけじゃァねェよなァ」


 頭から爪先まで全てを覆い尽くすかのような、そんな錯覚をしてしまうほどに濃い魔力だ。ちょっと威圧したで済むものか。しかし声が喉を通らない。俺は心底怯えているのだと自覚してしまう。


「ま、どうでもいいかァ。お前みてェな小物の相手してる時間がもったいねェ」


 そう言って男は出口に向かっていく。男の発した魔力が薄れていき、体に力が戻っていく。


「待て!お前、ここにいた赤い髪の女性をどこにやった!」

「…はァ?知らねェよそんなもん。雑魚は大人しく寝てろよなァ!」


 離れていた男の姿がぶれる。次の瞬間には目の前に現れ、首元へと重い蹴りが振り下ろされる。なんとか纏魔術で防ぐものの完全にはダメージを抑えることはできず、俺は地に伏した。


「アイツとおんなじようなこと聞きやがって。知らねェよそんなやつよォ…あー考えるのもめんどくせェ、次行くかァ…」


 男は俺を気に留めることもなく再度出口に向かう。その背中を見ながら俺は意識を手放すのだった。


---


 意識を取り戻した時、目の前は明るい火に灯されていた。ボーッとする頭をすぐに起動させ周囲を確認する。場所は変わらず盗賊のアジト跡…だが様子がおかしい。

 先ほどの廃墟然とした様相からは一変し、灯りが点いているし物があちらこちらに整頓されている。

 似た別の場所なのか?重い体をなんとか立ち上がらせ周囲を確認する。

 その時廃道の奥の方から人の声が微かに聞こえてくる。誰かが探しに来てくれたんだろうか。

 そう思いながら倒れていた場所と反対方向の分かれ道へ足を進める。次第に聞こえてくる声は大きくなり、それは不快な笑い声へと変わっていく。

 俺の目に飛び込んできたその光景は、俺の頭を殴り付けるように頭痛を起こさせた。


「この程度なんてこたぁないだろ~?おら、(こら)えてんじゃねえよぉ」


 男はそう言いながら足元の少女を蹴り倒す。悲鳴とも取れる声を上げ少女は地面に倒れ伏した。


「きゃっ、って。面白みのねえガキだなぁ。いつものように泣き喚けよなぁ」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

(さえ)ずるなようるせえなぁ。なに謝ってんだよぉ」

「やめろ!」


 ナイフを取り出した男から少女を守るため声を張り上げる。しかし俺の声は届いていないようで男も少女も反応しない。


「さぁて、今日はどこを刻んでやろうかなぁ」

「もうやめてくださいごめんなさいお願いします助けてください」


 少女の顔は恐怖に歪み、一層声が掠れ始める。


「やめねぇよ?こんな面白いおもちゃ、遊ばなくてどうすんだよ」


 男はナイフをちらつかせながら徐々に蹴り飛ばした少女の元へと足を進めていく。俺はすぐに駆け出し男へ拳を振るう、がそれも通らない。

 全く手応えはなく俺の拳は霧に触れたかのようにすり抜けてしまった。頭は混乱を一層強め頭痛を酷くする。

 直後、少女の前に女性が立ち塞がった。


「もう…もうやめてよ!なんでこんな小さい子にそんなことを毎日毎日…!!」


 涙を流しながら立ち塞がった女性を男は無言で殴り、そのまま蹴りつけこれでもかと暴行を加える。


「お前は!いつも!いつも!うるせぇな!!」


 男は止めることなく女性を蹴り続ける。呻き声を上げていた女性は次第にそれもなくなってしまう。


「あ?殺しちまったかぁ?…生きてんじゃねぇか」


 息を切らしながら舌打ちをし、男は女性の服を掴み奥の方へと投げた。


「リーベさん…リーベさん!」

「…あたしは大丈夫だから…ね…」

 

 少女は泣きながら女性にすがりついた。それを面白く思わないのか、男は少女の髪を引っ張り手繰り寄せる。


「興が削がれた、今日は背中で勘弁してやるよぉ」


 男は少女の着ている服を剥ぎ、傷1つ無い背中にナイフを押し当てる。


「……!!!」


 声を必死に抑えながら少女は涙をこぼした。


「おら!いつものように泣けよ!おとうさぁーんってよぉ!」

「うぅ…やめてください…お願いします…たすけて…お願い…」

「ちげぇだろ!!」


 男は再度少女の髪を掴み持ち上げる。


「てめぇの親父は薄情もんだよなぁ!」

「な、何のことですか…」

「お前を探してアモールまで来たくせに見付けられず、結局そのまま帰っちまうんだからよぉ。自分の娘一人探し出せないでなにが英雄だよ、なぁ?」

「そんな、そんな話知らない…!」


 少女は涙を更に流し男に答える。


「ははは!こいつは笑いもんだ!お前、ジューンに売られる予定で育てられてたってんだからなぁ。知らなかったのかぁ、可哀想になぁ」


 それを聞いた少女の手が髪を掴んでいた男の手から落ちる。男もそれに合わせて髪から手を離した。


「おら、もっかい背中出せよ。どうせ傷なんて消えんだろぉ?気持ちわりぃけどおもしれぇよなぁお前」


 少女は震えながら男に背中を向ける。その顔は涙でぐちゃぐちゃではあったが、怒気を孕んだかのような瞳は廃道の壁に立てられた灯りを反射し燃えているように映っていた。

 そして男の握ったナイフは少女の背中を切り付ける。薄く、ナイフを研ぐかのように刃先を擦りつけ、それが動く度に少女は苦悶の表情を浮かべる。


「はははは!おら、もう治ってんぞ!ほんとにおもしれぇおもちゃだなぁお前!」


 男はそう言って少女を再度蹴り飛ばし、牢の鍵を閉め、俺が来た道の暗闇へ笑いながら消えていった。


「…るさない許さない…!全員殺してやる…!」


 少女は復讐の火を灯し立ち上がった。そしてリーベさんと呼ばれた女性の元へとすぐに駆け寄る。


「リーベさん…!」

「良かった、殺されなくて…だんだんエスカレートしていくから、いつか、"アニマ"が殺されちゃうんじゃないかって、それが怖くて…いつも余計なことして、ごめんね…」

「うぅ、リーベさん…ごめんなさい…」

「謝ること無いわ…アニマは、何も悪くないもの…」


 そういってリーベさんは少女の、アニマの頭を撫でる。そして気を失うように眠りに落ちてしまった。


「……あいつら全員殺してやる…」

「アニマ!アニマ!!」


 煌々と燃えるような瞳は一層輝きを増していく。俺のかける声は届かず、次第にその姿は暗闇へと飲み込まれていった。


---


 次に視界が開けた時、目の前の光景は先ほどまでと全く異なるものだった。

 周囲には何人かの死体と思われるものが転がっており、そしてナイフを握ったアニマが笑い声を上げている。


「あはははは!あなたたち弱すぎないかなぁ!」

「や、やめてくれ!もう、もう勘弁してくれ!」


 先ほどアニマに暴行を働いていた男だ。尻もちをついている男は後ろへと逃げていくがもうそこは壁だった。


「私も、みんなも、何度もやめてくれって言ったのに!一度も聞き入れなかったあなたを許すわけないでしょ!」

「ひっ」


 アニマは男の顔にナイフを押しあてゆっくりと刃先を滑らせる。男は悲鳴を上げ痛みに咽び泣いた。


「こんなもんじゃない…!私たちの受けた痛みは!こんなものではない!!」

「もう、もうしない!許してくれぇ!」

「許すわけがないじゃない!!」


 そう言ってアニマは男の胸元にナイフを突き立てようとして…だがその手をリーベさんに掴まれる。男は気を失ったように倒れてしまった。


「なんで、止めるの…」

「アニマ、もう、もういいの…これ以上はダメよ…」

「なんで!?あとはこいつだけなのに!」

「あなたの今の目がこいつらと重なってしまう、同じになってはダメなのよ」

 

 そう言ってリーベさんはアニマを抱き締め頭を撫でる。


「ごめんね、アニマ…辛い思いも大変なことも、全部あなたにさせてしまったわ…」

「リーベさん…」


 カランと音を立てナイフが落ちる。それをリーベさんは即座に拾い上げそのまま男の胸に突き刺した。


「あなたにだけ背負わせるわけにはいかない。こんな弱い私でも、あなたよりお姉ちゃんなのよ」


 そう言ってリーベさんは震えながらナイフを押し込む。

 人を殺すこと、それは一体どれだけの重責を感じるのだろうか。いくら相手が憎き犯罪者であれ自分の手を汚し、そして復讐の果てに殺すことが、それでも辛いことには変わり無いだろう。

 しかしアニマは既にこの盗賊団を殲滅し、そして最後の一人というところまで殺し尽くした。幼い少女が、ただ一人で。

 リーベさんはその重責を共に分かち合おうと、最後の一人だけであろうと自分の手を汚すことを決めたのだ。


「あなたにはまだやり残したことがあるのでしょう?」


 握っていたナイフを盗賊の男から引き抜きアニマに手渡す。それを受け取ったアニマは頷いた。


「みんなを解放する、それが終わったら行ってくるよ」

「ええ、それはアニマだけの復讐だから…手伝うことができなくてごめんね」

「ううん、ううん…」


 アニマは涙を流しながらその言葉を否定し、そしてリーベさんの腰に抱きつき言葉を続ける。


「ありがとう…」


 その言葉が頭に響くように鳴り続け、次第にまたその光景も暗闇へと飲み込まれていく。

 これが、アニマの過去。なぜ俺はこれを見ているのか、それは分からない。分からないが酷く悲しく辛いその景色は俺の頭に焼き付き涙が溢れる。

 頭痛はいつの間にか消えていた。暗闇に取り残され、先ほどのアニマの姿も薄れていく。


 気がついた時には目の前に見覚えのある光が浮いていた。ヴェーレの森で見たあの光。それは徐々に輝きを増していき、そして俺を包み込んだ。

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