第二小節 - 出会い
第二章です。
優しい滝の音と香ばしい香りを感じ目を開けた。ここは…。と寝ぼけた頭が少しずつ冴えていき、テントを出るとアニマは起きていたようで既に朝食を用意している。
「おはよう」
「おはようございます。丁度朝食が出来るところでした」
「ごめん、ぐっすり寝てしまってた」
「昨日は色々ありましたからお疲れでしょうし、大丈夫ですよ。さ、食べたらすぐ発ちましょうか」
「ああ、そうする。ありがとう」
2人でアニマが作った朝食を食べ夜営の後片付けが終わり、段々遠ざかる滝の音を背に俺たちは慈愛の大滝を後にした。
まずは聖域を抜け街道に出る。そこからフローラルの町から逆方向へ進みヴェーレの森を目指す。
「日が出ている時に街道を進むのはちょっと緊張するな」
「見つかるリスクを考えたら脇の森を進む方が良いでしょうが魔物と出会う可能性が上がりますからね。そうなると必然的に時間を多く取られてしまいます」
「そうだな。眼魔力で遠くを確認しながら進めば問題ない、かな」
「そうしましょう。私も周囲の警戒は怠りませんので」
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「そういえばリゾルートさんとはどんな話をしたんだ?」
街道を歩くことしばらく、目立った苦戦もなくはぐれ者と思われるウルフや小さい群れなどと数回の戦闘を挟み、先の方にも魔物や騎士がいないことを確認し気になったことを聞いてみた。
「主にはこれまでどうしてたとかでしょうか?あの時のことも報告という形ではありますが少し」
「そっか…ちゃんと話せて良かったな」
「ええ、本当に。父の近況や亡き母のことも伺うことができましたし、気になっていたことも色々聞けました」
「気になっていたこと?」
「受けた傷が勝手に治る理由や団長のこととか、ですね。といってもエヒトさんに特に報告するようなことでもないですが」
報告するようなことではない。つまりあまり言い広めたくは無いのだろう。ここで突っ込んで質問してはだめそうだ。
「ま、いつか教えてよ」
「はい、その時はエヒトさんも是非ご自分のことを教えてくださいね」
「はは、思い出せてたらね」
記憶はまだ断片的にしか戻らない。なぜアルマに来たのか、ネルのこと、母の言葉、昔の戦闘の記憶といった一部分は戻っている。このまま旅を続けていれば新しい刺激を得て戻ってくれるだろうか。そんな淡い期待を持ってしまう。
「慈愛の大滝がある聖域を抜けてそろそろ半日は経ちますし。ヴェーレの森へ向かう分かれ道が見えてきます」
そういってアニマは街道から右方向に反れた方角を指差した。
良く見るとそちらに伸びている別の道があった。
「もう見えてるな。この先の道は整備されてないんだよな?」
「ええ、街道のように軽く整っていますがすぐに森のようになりますよ」
「気を付けて進まないとな」
「はい。ここからは聴魔力を使用しながら進んだ方が良いですね」
「あれ?アニマは聴魔力を使えないんだよな?」
「…それはどなたから聞いたんですか?」
「誰って、ローゼンだよ、ローゼン。あ、これは言ったらダメだった」
「団長はまた勝手に個人情報を…おっしゃる通りです。ここはエヒトさんに頼らせて頂きますね」
「まだ不馴れだけどな、できるだけ頑張ってみるよ」
「はい、宜しくお願いします」
そうして脇道を進んでいくと聞いていた通り、お世辞にも整備されているとは呼べない道になっていく。しかし。
「草が切られてるな」
「そうですね…こんな道を使う人はまともじゃないですよ」
「…自虐?」
「自虐です」
少し緊張した面持ちながらそんな冗談を言ってくれるアニマは、先ほどまでと違って常に右腰の剣に手を掛けている。急な警戒体制に少し体が強ばる。
そうして草が払われた道を進んでいくと少し遠くにキラキラと輝くモノが見えてきた。
「なん、か、あそこだけ妙に光ってないか…?」
「あれが目的地のヴェーレの森ですよ」
なんとか何者にも会うことなくたどり着いたようだ。光を反射し美しく輝いているその場所は、お世辞にも森と呼べるようなものではなかった。
一面を多い尽くすほどの光を発し…いや、反射し輝く、夥しい数の結晶に埋め尽くされていた。
「なんだこれ…」
「ようやく着きましたね。ここがヴェーレの森です」
「ガラス…?」
「えぇ、全てガラスで出来ています。なぜこうなっているのか、いつから出来上がったのかも不明な謎だらけのガラスの森、それこそヴェーレの森です」
説明を聞いてもいまいち掴み切れないその内容に言葉がでない。しかもこの森は異質だ。
「ガラスなだけじゃない。なんだ、眼魔力がおかしいのか?」
「正常です。一つ一つに魔力が宿っているように見えているのですよね」
「おかしいって!なんでこんなに魔力を帯びたガラスが一面に張り巡らされてるんだ」
「先ほども言ったように分かりません。一説ではこれもアクラルネ様による御技と言われていますが…」
そう言いながらアニマはガラスの裂け目へと進んでいく。
「ここが森の入り口です。完全に透明ではないのと眼魔力で道は追えると思いますがぶつからないように気をつけてください」
「あ、ああ。わかった、ありがとう」
「…やはり何者かが立ち入っている可能性が高いですね」
そう言いながらアニマは地面を見やる。そこには足跡がくっきりと残っていた。
「でもこれ、一人か?」
「恐らく。とにかく進んでみましょう。一人ということは騎士ではないはずです。敵か、は分かりませんが」
ひとまず話の結論を付けガラスに囲まれた落ち着かない空間を先へ先へと進んでいく。所々木々も生えてはいるがほとんど全てをガラスで多い尽くされ、更に魔力を帯びている不思議な光景。思わず眼魔力を使いたくないと思うほどに酔いそうな風景が辺り一面だ。
「ここは魔物がいないんだったよな?」
「4年ほど前と2年ほど前に訪れた時はそうですね。特に遭遇することもなくそのまま町の方向へ抜けましたよ」
「予定ではここで2日もかかるのか…」
「やはり道が分かりにくいのが難点ですね」
「地面が見えてはいても方向感覚が分からなくなりそうだよな」
「前回は団長がいたのでなんとかなったようなものですね」
「やっぱローゼンってすごいんだな」
「そうですね」
話をしながら進んでいるとアニマがピタリと足を止めた。日も少し傾き始めている時分。そろそろ夜営地か?とアニマの顔を見やると強ばり強く噛み締めた表情をしている。
不思議に思い横から覗いてみるとそこには一人の少女が座っていた。
「アニマ?どうした?」
「なぜここに…」
「知り合いなのか?」
「いいえ…少し戻りましょう、説明します」
そう言って元来た道をしばらく戻る。その間もアニマの顔は浮かない表情をしていた。
「で、あれは何者なんだ?」
俺の問いにアニマは息をふーっと吐き落ち着くようにして話し始めた。
「まずあの方は知りません」
「さっきも言ってたな」
「はい。ただ……彼女は恐らく盗賊団の一員です……」
ドクンと心臓が跳ねる。アニマの過去を聞いたのは一昨日のことだ。あんな話を聞いて、お互いに盗賊に対して良いイメージを持っているわけがない。
「なんであの子が盗賊だと思ったんだ?」
「服です。左腕の袖のところにカリャカリという盗賊団を示すマークが付いていました」
「あの髑髏が天秤に載ってたやつか」
「それです。私はアルマ中の盗賊団を団証込みで覚えています。それにカリャカリはアルマで最も有名な盗賊団です、見間違える訳がありません」
「となると、平和的に解決とはいかなそうだな」
「ええ、なぜ一人でいるかは不明ですが…こちらから仕掛けましょう」
「わ、わかった」
本当に大丈夫か?と少し不安はある。だがたくさんの人を傷付けているであろう盗賊団に慈悲はない、というのがアニマの信条なのだろう。
「まず私からいきます。何かあれば援護を頂ければ」
「了解」
アニマは腰の剣を抜き先ほどの視認できる場所まで戻った。その少し後を着いていく。
盗賊の少女を視界に収めてすぐ、腰を下ろし足に魔力を込め、ドンという地面を蹴る音と共にアニマは少女へ向かって駆けていく。
こちらに気付いたその少女は慌てふためきつつ手元の物に手を伸ばした。しかし間に合わない。結局手元の武具らしいものも手に出来ず首に剣を当てられ少女は硬直している。
思わず感嘆の声が漏れてしまう。それほど洗練された動きだ。俺が森で追い詰められた時を思い出す。
2人は剣を突きつけ突きつけられながら話をしているようだ。
そうしてしばらくして、遠目にアニマが剣を納めたのが見えた。こちらへ手招きしている。
「お待たせしました」
「いや大丈夫だけど、随分話し込んでたな」
「ええ、この方が盗賊の一員か否か、なかなか判別が出来ずでして…」
「私は違うって言ってるのに!なんでまだそんなこと言うの!?」
「えーと、君は?」
「先に名乗りなさいよ!」
「彼はユース、彼女はマルカートというそうです」
「なんであんたが紹介してるのよ!」
ユース、ね。偽名となるとアニマはレイヤーか。そんなことを考えているとシンとした空気を最初に壊したのはマルカートだった。
「で、あんたが飼い主?ペットの躾くらいちゃんとしなさいよ。危うく殺されるところだったわ!」
「えーと?」
「私は先ほど申し上げたようにレイヤーです、ペットではありません」
以前慈愛の大滝で使ったものと同じ偽名か、と一人頭を整理する。それにしてもこのマルカートと言う子のペースが掴めない。
「で?どんな話を?」
「なんでここにいるのか、盗賊団カリャカリの一員かなど確認していました」
「だーかーらー!カリャカリとはもう無関係なの!あんなゴミ集団血を吐いてくたばれば良いのよ!」
「と、こんな調子でして」
「なんでそんなイカニモな服を着てここにいるんだ?」
「それは」
「それは私がカリャカリから抜け出して来たからよ!良いわ、ユース、あんたにも説明してあげる」
そうしてマルカートは語り始め…ることはできなかった。
「あなたの話は長い上に要領を得ませんので私から説明します」
「なんですって!?」
「おいおい、喧嘩するなって」
「ひとまずマルカートのことは置いておきましょう、説明します」
後ろでキーっ!と声を出し悔しがりながらマルカートはアニマを睨んでいた。
マルカートの話を信じるなら、とアニマは語り始めた。
まずなぜここにいるのか、それはカリャカリに追われているらしく、身を隠すのにうってつけのこの場所を選んだそうだ。
次にカリャカリの一員か、これは本人も言っていたようにそもそも盗賊団員ではないそうだ。
ではどんな関係性か。マルカート曰くこの子は盗賊団専門の賞金稼ぎをしているそうで、今回は件のカリャカリに潜入していたらしいが逃げてきた。そして変装として着たカリャカリの服のまま着の身着のまま逃げ出し、ここまで直行したためにこの格好だそうだ。
「これも信じるならですが」
「本当って言ってるでしょ!なんなのよあんた!」
「まぁまぁ、落ち着いてくれ。まずマルカート、君はどこから来たんだ?」
「あんたレディへの対応がなってないわね」
イラッとしなくもないが仕方ない。話して貰わないことにはなにも進展しないのだから。
「…ごめん、マルカートさんはどちらからいらしたんですか?」
「堅苦しくてキモチワルイわね」
「どうしろっていうんだよ!」
「まずは呼び方よ!マルカートなんてダサい呼び方じゃなくてルカと呼びなさい!」
「はぁ、分かったよ。で?ルカはどこから来たの」
「私の出身はアモールの町よ」
「アモール、ですか…」
「どこ?」
「あんたアモールを知らないの!?アルマのお酒といえばアモールの酒ってくらい有名なのにとんだ潜りがいたもんね!」
「ぐっ」
大陸民だから仕方ないだろ!と言えるわけもなく、マルカートの言葉を受け止める。
「地図を出して頂いても良いですか?」
「わかった。………ああ、ここか」
「そこよ!…随分立派な地図ね」
「順当に行けばスプレンドーレの次の…」
ここでハッとなる。アニマの顔を見るとこちらに目を向け小さく頷いた。
アニマが拾われた孤児院のある町、それがアモール。
「私はアモールを出て1年前までスプレンドーレに住んでいたのよ!盗賊狩りのために離れたけど」
「盗賊狩りって、まだ子どもなのに一人でか?」
「失礼ね!私は21歳よ!?」
「「ええ!?」」
思わず驚嘆の声が漏れアニマと被る。年下にしか見えないその風貌は、実際の年齢を聞いて違和感を拭えない。
「なんで盗賊狩りなんてやってるんだよ」
「私の兄のため、かしらね」
「なるほど、お兄さんと盗賊に因縁があるんだな?」
「そうよ。私はなんとしてもある盗賊を探し出して捕まえないといけないのよ」
確かに話の筋は通っている。盗賊狩りをしながら尋ね人を探し出すためにカリャカリに潜伏、何かしらの問題が発生し追われる身となって逃亡、そして隠れるのにうってつけのヴェーレの森を選んだ、と。
「ユース、彼女の言葉をそのまま信じてはいけませんよ。嘘を付いている可能性もあります」
「ほんっとにあんたは失礼ね!そんなに疑わしいなら……ほら!これで計りなさいよ!」
そういってマルカートは鞄から天秤のようなものを取り出し、それをアニマに向けて差し出す。
「間違っても盗むんじゃないわよ?高級品なんだから」
「それなに?」
「これは嘘絶の天秤という魔具です。彼女のいう通り高級品で相手の言葉に嘘がないか分かります」
「良いわよ、それ使いながら質問しなさい!いつまでも疑われるのも面倒だしこの方が手っ取り早いわ!もし全て本当なら私もあんたたちに質問の数ぶん天秤を使うわよ?それでもいいなら使いなさい!」
そう言ってふんっと鼻をならしマルカートは元居たところに座り込む。
「どうしましょうか?」
「ルカが何を聞いてくるかによるよな…これ、さっきまでの話は全て本当か?って聞いたら1個の質問でいけるのか?」
「それだと仮に嘘があってもどこが嘘か分かりませんのであまり良くないですね」
「確かにそれもそうか…」
「大事なところに絞りましょうか。盗賊狩りのことと出身のこと、あとここに至るまでの理由が全て本当か、3つの質問をしたいと思います」
「分かった、レイヤーに任せるよ」
アニマはこくりと頷いてマルカートに向き直り、決めた3つの質問を投げ掛けた。しかしどれも秤を動かすことはなく3つの質問全てが真実であると証明される。
「だから言ったじゃない!私は嘘をつくなんていう低俗なことはしないのよ!」
「疑って悪かったよ」
「分かれば良いのよ。で、あんたたち3つ質問したわね。私から3つ質問するから答えなさいよ?」
「分かりました」
「じゃあまず、あんたたちの名前は本当?」
「本当です」
アニマが嘘を付いた瞬間、虚絶の天秤が大きく傾く。
「あんた、これがどんなものか分かってるのに自信満々に嘘付くわね」
「マルカートの質問に3つ答える事が交換条件なので。仮に偽名とバレてもなにも影響はありません」
「信用を築く気はないと、そういうことね」
「はい」
「そのさっぱりした性格は好きよ。次、あんたたち自身は盗賊団の一員じゃないわよね?」
「そんなわけありません、汚らわしい」
天秤は一切反応しない。もちろん本当だからだ。
「あら、なら本当にヴェーレの森観光でこんなところに来たのかしら?物珍しいカップルもいたもんねぇ」
「カップルではありません」
「そうなの?それはどっちでもいいけど。…あと一つはそうね、少し考えさせて。どうせもう夜も遅いし、ここで一晩明かすんでしょ?」
「そのつもりでしたが危険がないとは言いきれなくなりましたので」
「この期に及んでまだ私があんたたちに何かすると思ってるわけ!?降参よ降参!喉に短剣突きつけられた時点でもう戦意なんて微塵も残ってないんだから!」
「…さっき接近しようとした時、その手元のハルバードを握って抵抗しようとしてましたよね」
「当たり前じゃない!私は身を追われてるのよ!?おちおち家に帰ることもできないのにあんな風に強襲されたんじゃ抵抗するに決まってる!」
「何もできてなかったけどな」
「ユースは黙ってなさい」
「本当のことですよ」
「ふん!まぁ良いわ、私は少し離れたところで寝るから…あんたたち夜襲なんてしないわよね…?」
ハルバードと呼ばれた斧のような槍のような武器をギュッと抱き締めながらマルカートはこちらを見やる。
「しないよ、誓う」
「アクラルネ様に誓いなさい」
「わかったわかった、アクラルネ様に誓ってルカに攻撃はしません」
それを聞いてマルカートは満足したのか少し離れた所に1本だけ生えている木の根本に荷物を移動した。
「なんか場所を奪ったみたいで申し訳ないな」
「私たちがあちらでも良かったのですが…優しいのかなんなのか、いまいち掴みかねる方ですね」
「だな」
そうして夜営の支度を進め食事の用意をする。今日は道中に狩ったウルフを使った料理のようだ。既に下ごしらえは済ませている。火を通せば出来上がりだ。
「独特のエグミと臭さから敬遠されがちですがウルフはちゃんと処理すれば美味しいんですよ」
とはアニマ談。そんな雑談がてら肉を焼いているといつの間にかマルカートが横に居た。
「うわ!いつこっちに来たんだよ!」
「わ、私も気付きませんでした」
「……く…」
「え?」
ボソリと呟くマルカートは涙を浮かべている。
「肉を、食べだい……」
そう言ってついに涙を流し始めた。
「肉を、恵んでぐだざい」
「わかったわかった!分かったからしがみつくな!」
「お願いじまず!もう長いごどまどもに食べでないんでず!」
「ア、…レイヤー!3人分…より少し多めに焼いてくれ!」
「分かりました、仕方ないですね」
そう言ってアニマは2人分を越え4人分ほどの肉を焼いた。並べられたのは簡単な千切り野菜のサラダと味付きウルフ肉だ。今にも飛びかからんとする勢いを自制しているのか、マルカートは泣き止んだかと思えば荒めの息遣いで料理を見ている。
「さ、頂きましょうか」
「ありがとう、食べよう。マルカートもいいぞ」
「頂きます!!」
凄い勢いで料理を一口放り込んだマルカートは、うっすらと涙を浮かべながら美味しい、美味しいと呟きどんどん食べ進めていく。
「まるでペットですね」
さっきペットと言われた意趣返しか、そんなアニマの言葉に苦笑いしながら俺たちも食事を取った。
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「あなたたちは命の恩人よ!」
「随分大袈裟だな」
「あんなに美味しい肉、久しぶりに食べたのよ…実家を出て以来かしら」
「ってことは盗賊狩りを始める前か」
「そうなるわね」
全ての料理を平らげ、2人分の肉で満足したらしいマルカートは雑談を始めた。現金なやつ、とは言わないでおこう。
「なんで盗賊狩りなんてやってるんだ?」
「始めたのは7年前にもうなるかしらね。元はと言えばアモールで孤児院のファザー殺しが起こったことが発端よ」
質問を間違えたか。まさかここが繋がるなんて。アニマの顔をチラリと見るとそんなことを意に介さないと涼しい顔をしていた。
「ま、そのファザーがとんでもない大悪党だったんだから自業自得とは思うわ。その時現場に居合わせたのが私の兄、まぁ養子の兄だけど、兄がそこに居合わせたのよ」
「お兄さんはなんというお名前なんですか?」
「変なこと聞くわね。兄はレイニン、レイニン・アマービレよ」
アニマの表情がサッと深刻なものになる。もしかして現場に最初にきた元孤児院の…。そんなことを思案する間も与えずマルカートは話を続ける。
「その兄がね、犯人を教えてくれたの。孤児院で仲良くしてた妹みたいな、大切な兄妹みたいな人だったんですって」
「…それで?」
「そのファザー殺しの犯人を探してるのよ!そのために町を転々としながら盗賊狩りをしているの」
「…なんでその犯人は盗賊だと思うんだ?」
「特級犯罪者よ?話を聞いて私だってそうするかも…いえ、特級犯罪者になると分かっていても絶対同じことをするだろうと心から同情はできるの。でもそうなった以上、まともに市井で暮らしていくことは不可能だわ」
「だから盗賊になっている、と」
「そうよ!惨い話ではあるけど盗賊に売られてしばらくその一員のようにされていたってことだから、きっと盗賊として生きていく方法を選ぶ方が簡単だと思うの。もう生きていない可能性はもちろんあるけどね!」
「酷ですがその人を探すのは諦めた方がいいです。私も話に聞いたことはありますがもう死んだと、そんな噂しか聞きませんよ」
「レイヤーは嘘をつくのが下手ね。声がさっきまでと全然違う、隠せていないわよ」
「嘘なんてついてませんよ」
「…分かったわ、今虚絶の天秤を使う。そもそもアルマで珍しい赤毛の時点で怪しいのよ、貴女は」
まずいことになった。もしかしたらアニマがその本人であることが露呈しかねない。どうする?どうしたらいい…。しかしマルカートの前から逃げるわけにもいかず、かといって相談することも難しい。そうこうしているうちにサッと鞄から天秤を取り出し、そしてマルカートはその言葉を口にする。
「レイヤー、貴女に聞くわ。"ファザー殺しで特級犯罪者になったアニマ"を貴女は知っているわね?」




