第3話 ジャック君がやってきた。
「その称号って、どこかの誰かと似てるよね。こっちもそれを見ちゃったから、ただの小さい子じゃないって思ったんだけど、言動は年相応に幼いんだ。でも、知的好奇心はメルツちゃん並みに旺盛で」
――魔力と魔素の違いは何?
に始まり、
――詠唱の時にモンスターにやられちゃわないの?
――ダンジョン内のモンスターと地上のモンスターは討伐した時の違いは何故?
――ぼくのうちのミニダンジョンお話してくるの、ほかにもこういうダンジョンあるの?
なぜなにの幼児の質問コーナーにルイスさんは答えたんだけど、時折、「あ、ちょっと難しい言いまわしとか表現があったかも……と焦った場面でも、メルツちゃんのお友達、ジャック君は理解してる様子だったとか。
うーん……大人に囲まれてると、年齢よりも早熟な子になりやすくない? うちのメルツちゃんもそうだし。
「似たようなことは冒険者をやっているお兄さん達に質問してるとは思うんだけど」
そうよねえ。
まずメルツちゃんが遊びに行ったことも、ジャック君のご家族としては驚いただろうけど、保護者として大陸陸一の大魔法使いがやってきちゃったもんだから。ジャック君のお兄さんがB級冒険者なら、ルイスさんのことは知ってるでしょ。普通の冒険者でもなかなか声をかけられない存在だもん。
そこにジャック君のなぜなぜ攻撃ですよ。
もうあわわとなってるお兄さん達の情景が浮かぶ~。
「それで、ジャック君のおうちのミニダンジョンに危険はないの?」
「うん」
「ルイスせんせーもおふろはいれるよー、バスソルトもいれたよー」
メルツちゃんがお風呂からでて、カウンターの方へくると、うちのベビ犬ちゃんたちが足元にまとわりついてる。
メルツちゃんはいかに楽しかったかを、かなりハイテンションで語ってくれた。
なんでも、ジャック君はテイマーの素質があるみたいで、小さいスライムを使役してるんだとか。
テイマー……。
動物やモンスターを使役する能力だけど……。
なんだろう。
時空神の贖罪とか時空神の祝福とか……魅了とかテイマーとか結構類似してない?
対人とか対象物にかける状態異常系のスキルじゃん。
類似する魔法やスキルについての論文とかルイスさんが以前書いてクランに報告してた気がするんだけど……。
ほら、わたしが魅了スキル持ちで、そのメルツちゃんのお友達になったジャック君はテイマーって……なんか似てない?
ルイスさんはそこも気になってるのかも知れないな――。
そして、メルツちゃんなんだけど、最近作業小屋に籠るようになっていた。
わたしにひとしきり、初ダンジョンの冒険譚をお話し終わって満足したように見えたんだけどさ、なんだろうお話し終わったあと、だんだん無口になって考え込んでるのよ。
もっと頻繁にジャック君のおうちのダンジョンに行くかと思ったんだけどな……。
よーし、ここはいつもの?
バーベキュー大会開催といこうじゃありませんか。
ドワーフのお爺様方を呼んで、メルツちゃんが何を作りたいのか聞いてもらおうか。
ルイスさんがこの森のおうちに住所を移してからは、毎週あったドワーフ爺様の飲み会は減っていたんだけど、今日はバーベキューやるよ~ってお知らせしたら、まあ集まるわあ。
武器工房を持つランスおじいさんが窯の前にいるメルツちゃんと何やらお話してる。
わたしがセッティングはじめると、ルイスさんも『シー・ファング』のメンバーのみなさんも手伝ってくれる。
ライオネルおじさんとイリーナさんも呼んだんだけど。
イリーナさんが特別ゲストを連れてきた。
ハンザ工務店の作業服を着てる人と、あと、犬に乗った小さい子。
ジャック君である。
おお~噂のジャック君を連れてくるなんて!
「え、え、イリーナさん! その子もしかして、まさかの、ジャック君⁉」
「そうなの、メルツちゃんに会いたいからって、冒険者ギルドまでやってきたのよ」
わあ~!
いろいろ聞きたいと思ってたんだあ~! 嬉しい~!
もちろん、ジャック君一人できたわけじゃない。
ハンザ工務店の作業服を着ていた人は従業員の一人のユジンさんだった。なんと、ユジンさんとジャック君は兄弟なんだとか。
一人でサンクレルの学校は慣れたけど、そこからここまではまた距離があるから、心配で付き添ってきたんだって。
それにしても世間は狭いな。
「はじめまして、わたしはアリス。遠いところ、よく遊びにきてくれたね、ジャック君」
わたしが挨拶すると、ジャック君は乗っていた大型犬から降りるとわたしを見上げる。
「こんにちは、ジャックです」
アッシュブロンドに青い瞳の小さい男の子がそう言った。
勝手に鑑定ってマナー違反とはわかってる、わかってるけどね、ジャック君をじっと見ると見えましたよ……確かに、『時空神の祝福を受けし愛し子』の称号が。
「ぼく、メルツちゃんに、ぼくのうちのミニダンジョンであそぼって、さそったんですけど、メルツちゃんは、なんか考えてて、なんかいやな思いしたのかなって、気になって、ちゃんとお話したくてきました」
「そうなんだ。今日はね、ドワーフのご隠居様達がきて、うちでバーベキューしてるの、よかったら食べてって、ユジンさんも!」
わたしがそういうとベビ犬ちゃん達はジャック君がつれてきた大きなワンちゃんに近づく。ママちゃん以外の犬が珍しいのかはしゃいでる。
「先日、ジャック君のおうちからお礼に頂いたハムとかソーセージとかチーズを、みんなに大放出しちゃうつもりでバーベキュー開催中なのよ!」
わたしがどうぞどうぞと、ユジンさんとジャック君を庭でわいわいやってるバーベキュー会場に誘うと、大型犬はジャック君にぺったりくっついて並んで歩きだす。
すごくなついてるな……うちのママちゃんやベビ犬ちゃん達はここまでぺったりしないわよ。やっぱりテイマーだからなのかな。
ジャック君はドワーフのご隠居様達にぺこりとお辞儀をして挨拶してる様子が見えた。
そしてルイスさんに、何かお話してるみたい。
多分ご挨拶とメルツちゃんはどこ? って尋ねてるんだろうな。
ルイスさんは作業小屋を指さすと、ジャック君はまたお辞儀をして、作業小屋にむかって歩いていく。
作業小屋は扉が開けっ放しで、ちょうどメルツちゃんとランスさんが何かを話しながらでてきたところだった。
そんなメルツちゃんはジャック君を見て、文字通り飛び上がって驚いた様子。
「わー! ジャック君! メルツのおうちに遊びにきてくれたの⁉」
可愛い~。
ジャック君が来て喜んでるということは、ダンジョンはやっぱり楽しかったのか。
じゃあなんで、あんなに眉間に皺を寄せて考え込んでたんだろうか。




