第80話 元聖女のざまあヒロインはスローライフを楽しんでます。
「アリスおねーさーん」
メルツちゃんがわたしを呼ぶ。
「きゃー、待って、待ってメルツちゃん!」
大迷宮踏破のお祭り騒ぎが落ち着いたころ、サンクレルは本格的な冬を迎えた。
ここは雪はそんなに降らない。でもやっぱり寒いので、作ってみたのよ~。
ぱぱーん
時空神の贖罪を受けし元聖女が編んだマフラー。
防寒にすぐれ、首に巻いて歩いてると寒さ知らず。
春の女神の恩恵で、豪雪の中でも外活動ができる。
こ……これは、付与の効果を抑えるのに成功なのか?
微妙なラインだわね。
え、そこはもっと付与モリモリしてもいいんじゃないの? って言われそうだけど、いや、これで済んでいいことにする! これでいいんです!
だって完全防御アンダーシャツだけでも、とんでもない金額になるんだよ?
『蒼狼の風』のメンバーもあのシャツは分割払いになってるよ。
『シー・ファング』に渡した服とかは値段があんまりにも高額でメンバーのシュルツさんも「分割払いでいいですか?」とか言っちゃうんだよ?
Sランクパーティーメンバーにそこまで言わせるお値段てどうなのさ。
武器も防具も一式でとんでもない金額になってて、ルイスさんも、マジであのとんでもない金額をなんてことないようにさらっと渡すのヤメテ!
じゃあしばらく稼がなくてもいいじゃんってなるでしょうが、そうはいきません!
やっぱり日々、堅実に糧を得てこそ、プリースト、いや、人としてまっとうかと思うのよ。
メルツちゃんの髪色は亜麻色。同じ色にしようかなと思ったけど、子供らしくもう少し明るいレモンイエローのふわふわ毛糸で編んだんだ~。フリンジとポンポンとどっちがいいかなって思って、ポンポンにしてみた。
「わ~あったかーい、このふさかざりかわいい~」
そこの大きい子供も物欲しそうな顔しないの、編みましたからね!
ルイスさんの銀髪よりちょっとトーンを落としたブルーグレー系で。
先端はぽんぽんじゃなくてフリンジで、マフラーというよりストールっぽい感じになった。
うん。大丈夫。いい出来。
モデルの二人がいいからな~。いい出来に見えちゃうのかも?
「アリスおねーさんのは?」
「今。編んでるの」
「ピンクにして!」
「え~?」
そのやりとりを聞いて、ルイスさんはくすくす笑う。
「なんで、え~? なの」
「ピンクにしちゃうと、この法衣服と合わない!」
わたしの場合はマフラーよりも、自身の法衣服作製が先でしょ。
この間の誘拐騒ぎで身に染みたよ。
状態異常完全防御、物理攻撃完全防御、魔法攻撃完全防御の法衣服を作製中なのです。
「今日は、ありすおねーさんも、いっしょ!」
森の家の戸締りをして、メルツちゃんと手をつなぐ。
今日は三人でサンクレルへ行く。
メルツちゃんは学校。
わたしとルイスさんは『グランド・カーラント』のクランハウスに行くのです。
なんでわたしもルイスさんのクランハウスに? って思われるかもだけど、まあその新たなオーダー受けました。
ルイスさんに続く、深層を探索する冒険者用の服のオーダーです。
『シー・ファング』のメンバーはもれなくダンジョンマスターになったんだけど、大迷宮っていうぐらいだから、大元から派生した新たなダンジョンの攻略が始まるので『絶対防御アンダーシャツ』の受注をすることになった。
あと、『シー・ファング』の武器と服の秘匿契約ね。
まあ、わたしとメルツちゃんの安全の為なんだけど。
こんな大迷宮踏破できちゃう武器と装備(?)を作れるとかなったら、他所から金を積まれて強引な製作をさせられたり、下手したら、またまた誘拐とかになっちゃうからね。
「こういう契約しなくても、現状は大丈夫だとは思うけどね」
クランマスターさんはわたしの横に座ってるルイスさんを見てそう言った。
「あの森の家にいる限りは、問題ないけど――」
ルイスさんがそういうと、クランマスターの横に座ってるギブソンさんや両サイドに座ってるザイルさんシュルツさんも腕を組んでうんうんと頷いている。
Sランク冒険者お墨付きの完全防御の家なのね……あの森の家。
「僕等がこれがいいよと思って素材提供しても、作る人って、いろんな素材を見て試作もしたいだろうし、そうなると閉じこもってられないから、アリスもメルツちゃんもサンクレルやメルクーア大迷宮都市に足を運びたいと思う」
「それは確かにクリエイターとしてはそうだよなー」
「アリスさんは別の大陸から来た人だし、メルツちゃんはサザランディア大陸出身だけど、年齢的にまだ素材の良し悪しなんかは勉強中だろうし」
「ルイスがいれば問題ないんじゃね?」
「それはそう」
「大船に乗ったつもりで、アリスさんはガードしてもらってればよくね?」
「いっそ、結婚しろよ。身内に何してくれてんだゴラア!って大手を振ってできるじゃん」
「だめですよ! 結婚なんてしたらルイスさん魔法が使えなくなっちゃう!」
わたしがそう言うとその場にいるみんなが爆笑し、ルイスさんから久々のほっぺはさみが炸裂したことをお知らせしておきます。
そして冬から春に――。
「きれ~い! ふぁあ~」
お仕事部屋にいるわたしのところにメルツちゃんがドアからひょっこり顔を出して、トルソーに着せてる現在作製中の衣装を見て声を挙げる。
「メルツ、こんなに白いドレス見たの初めて! ベテルメージュ迷宮都市で離れたママも、こんな素敵なドレスは着てなかったよ!」
そうなんだ……メルツちゃんのママはやっぱりいいところのお嬢さんなんだね。
ていうかファンタジー異世界だから白いウェディングドレスって、あんまり見ない……いや、わたしが前にいた国は白だった気がするけど。
サザランディア大陸サンクレルでは珍しいかもね。
実は、冬の間に、冒険者カップルの結婚式に出る機会があったんだ。ええ、つまり、神官、司祭、牧師、なんでもいいけどその役割よ。
イリーナさんから、知り合いが結婚するからってことでそういうの仕事で請け負ってた。その時の花嫁衣装はどの式も色とりどりで、もちろん花嫁さんはみんなキレイだったけど。
こういうコルセット締めて、ふわっとスカート部分が広がったドレスっぽいのはなかったんだよね。
「実際こういうのは着ると苦しいよ」
わたしは作業をしながらメルツちゃんに言う。
「そうなの!?」
わたしはメルツちゃんを手招きするとメルツちゃんはベビ犬ちゃんを入らせないように注意しながら、そーっと仕事部屋に入ってくる。
そのメルツちゃんのおなかをきゅっと両手で抑える。
「ここをぎりぎりに締めあげないと、このラインがでないからね」
「はわーいたそう……」
「痛いけどキレイをとるんだよ、女子はそういうものなのよ。ましてや結婚式だから。メルツちゃんはこっちよ」
メルツちゃんに白いレースのワンピースを広げて見せる。
「お揃いだ!」
メルツちゃんはリングガールとかベールを持ってもらったりと、本番にやることがあるからね。
お揃いなのはチュールレースで作ってるからそう見えるだけよ。
「でも、メルツもいたいのきるの?」
「メルツちゃんはまだ小さいからそういうのなくても大丈夫」
ちょっと広がりがあるパニエを用意したんだ。コルセットじゃなくても大丈夫だよー。
メルツちゃんにパニエを着せて、作ったワンピースを着てもらう。
ほうら可愛い。
「わあ~おひめさまみたい~」
その場でくるくると回る。
ただでさえ広がってるスカート部分がふわって大きく膨らむ。
姿見の鏡の前でメルツちゃんご満悦。
「苦しいところはない?」
「ないよ!」
「本番は髪もちょっとアレンジして……花をさして。うん。いけそうだね」
「はっ、メルツも今作ってる! リング!」
「あああ、リングケースも作らないと! でも楽しみね」
「うん! 楽しみだね! けっこんしき!!」
天使の祝福とはこのことかと思うほどのメルツちゃんの笑顔が可愛かった。
そして春のうららかな日――木々の花々が咲き誇る日。
サンクレルとメルクーア大迷宮都市の間にあるこの森の家が挙式会場。
参列者は顔なじみの冒険者とイリーナさん含むギルド職員数名、ハンザ工務店さん一同。
一応、招待者が座れるようにベンチ、作りました。
これはね、ハンザ工務店さんがご祝儀で作ってくれたんだ。あと宣誓する祭壇も。
この祭壇はわたし買取ですけど。
花々がベンチの端にブーケ状にして白いリボンで飾られてる。
真ん中の祭壇に立つのは――……この冬に法衣服を新調したわたしよ!!
花嫁と花婿が祭壇の前に腕を組んでやってくる。
花嫁のベールをメルツちゃんがちょこんと持って、しずしずと進む二人の歩みに併せて後をついていく。
「この春の日に――一組の家族が誕生します。エドアル・ターナー、ケイトリン・ギュリスは共に、共に神の元へゆくまで、苦難も幸福もすべてを受け入れ、心を寄せ、愛し敬うことを誓いますか?」
「「誓います」」
「では誓いのキスを」
わたしが結婚式で司祭役をする時って、誓いのキスをっていうから、恥ずかしいけど結婚するカップルには自分たちのラブラブ具合がわかるから、それはそれでいいかもっていう認識が広がって、わたしが司祭役をやる結婚式で密かに人気になりつつあるって、イリーナさんが言ってた。
エドさんとケイトリンさんはやっぱり照れちゃって、ちょんって感じのキスをしてわたしに向き直る。
「夫婦の証として、リングを交換してください」
メルツちゃんがしずしずとリングケースを二人の前にもってくる。
二人はリングケースから指輪をとり、互いの指に嵌める。
「では、この若き二人の夫婦に――祝福を」
シャランっと錫杖を鳴らして、賛美歌っぽく転生前の記憶にあるウェディングソングを歌う。実はこのわたしのソロソングも人気なんだって。
まあ、ファンタジー的な祝詞と思ってやってみたんだけど、何が受けるのかわからないものよね。
なんちゃってプリーストでこの大陸にやってきたわたしも、こういった場数を踏んで『なんちゃって』の部分がとれてきてる。
「おめでとう!」
イリーナさんが立ち上がって、感極まって泣いてる。
そして、ルイスさんが、花吹雪を……魔法でゆるくフラワーシャワーのように降らせてくれた。
花嫁のケイトリンさんも嬉し泣き。
サンクレルの冒険者の中でも、これはこれでちゃんとした式な方だから、感動したらしいの。
参列者の拍手に送られて、二人は庭から一度、森の家の店舗スペースに控えてもらって、あとは立食形式のパーティー会場に庭のセッティングをしなおす。
ベンチで座って食べれるように、スペースを作ったり、テーブルセッティングをしたりで、これは出席者全員が総出でやるのだ。
ウェディング業者とかサンクレルにはいないからね。
それでも、こういったガーデンウェディングは出席した女性陣には受けたっぽい。
今回お友達価格で割安で受けたけど、オファーがあれば、やりますよ?
おめでたいことですから。
お葬式よりはいい。
食事もみんな持ちよりで、再び花嫁と花婿を会場に呼んで、みんなで宴会。
披露宴だ。
まあね、金をとるならここらへんの企画ももっと前世知識フルに使って、華々しくできるけど。今回はこのぐらいのアットホームさが売りだ。
「ルイスさんもフラワーシャワーありがとう!」
「おめでたいことだからね」
「アリスさん、あの祝福の歌、すごいね! あれだけでも式に呼ばれるかもよ!」
イリーナさんに声をかけられる。
「イリーナさんの時もやりますよ! 任せてください!」
どんと胸に手を当てると、ドワーフのお爺様達が「お前らはいつ結婚するんだ?」とか言い始めた。
「アリスは、結婚したら僕の魔法が使えなくなると思ってるから」
「なんで?」
「普通に使えるじゃろ」
「わたし、わたし結婚したら、わたしの魔法が使えなくなっちゃうかもだし!」
いきなり結婚言わないでよー!
そうでなくてもルイスさんの距離の詰め方には日々あたふたしてるんですから!
「多分、使えると思うけど、試す?」
ルイスさんはそういって、さっきのエドアルさんがケイトリンさんにしたように、本当に軽いキスをわたしにした。
はああああ!?
ちょ、人前!
え? 何?
「……うん、大丈夫かも」
「何を見てそういうのかな!?」
「鑑定に異常は見えないから」
ルイスさんはにっこりと笑う。
だからー! 距離の詰め方よ! まじで魔法が使えなくなったらどうするよ!?
「アリスおねーさん! ルイスせんせー!」
メルツちゃんがわたしの名前を呼びながらとててとやってくる。
「メルツちゃん、よくできたね! ありがとう!」
「えへへ、じょうずにできた?」
「うん!」
「じゃ、メルツにもちゅー」
メルツちゃんが両手をわたしの方に広げてそんなことを言う。
わたしはメルツちゃんを抱き上げて、メルツちゃんの右頬に、ルイスさんはメルツちゃんの左頬にキスをした。
わたしはアリス。
元聖女のざまあヒロインだったけど、どうやらうまく強制力から逃げ出して、スローライフ楽しんでます。
ゆるゆるスローライフを書きたくて書いたんです。
わたしが書いて好きなのと、なろうユーザーの好みの差があったかもしれない。
でもまあ満足した!
ジャンルは恋愛じゃないから、
アリスとルイスの関係はゆるくふわっとした感じで締めました。
しばらく忙しいので沈黙しますが、また、新しいお話をお届けしたら、
お付き合いくださるとうれしいです。
最後まで読んでくださった方、
評価の☆をためらいなく5個ぐらいつけてくださってもいいのですよ⁉w
今月、別作品。
転生令嬢は悪名高い子爵家当主2巻発売されました。
そちらの方もぜひよろしくお願いしますm(__)m




