第78話 叔父さんのこと、心配したのに~!
ハンザさんの伝手でサンクレルの船大工トムズさんから拝借した魔道船の甲板の上で、沈んでいく船と救助とともに捕縛されてる人がいる風景を見ていた。
サンクレルに戻る魔道船は早くて、だんだんとその風景が遠ざかる。
「処分しちゃってもよかったんだけど、ライオネルさん無事だし。そういうの、アリスさん……アリスは嫌でしょ?」
物騒なことをサクっと言ったわね、ルイスさん。処分って何!?
あと大事なこと!
あんなたくさんの人に襲い掛かられて海に投げ出された叔父さんの無事よ!
「叔父さん無事なんですか!?」
「うん。あの人達、知らない土地だから詰めが甘いっていうか、急いでサンクレルを離れたかったのか……あとはライオネルさん自身が海に投げ出されても、上手く停泊してる船底に隠れながら泳いで移動して追っ手に捕まらず致命傷に至らなかったというのがよかった。すぐに漁師に発見されて速やかに治癒院に送られたよ」
「よかったああ~!」
両手で顔を覆ってはあ~と息をつく。
「ただ傷はふさがってるけど出血がひどくて、貧血状態。明後日ぐらいまでは治癒院にいるよ。戻ったら会いに行こう」
「うん……叔父さんに会いたい……」
ルイスさんは大丈夫、大丈夫と、声にしなくてもハグして背中をとんとんと軽く叩いてくれる。まるでメルツちゃんを甘やかすように。
「メルツもとんとんする!」
メルツちゃんはそういって、両手を広げて背伸びした。
わたしとルイスさんは顔を見合わせる。
あ、ルイスさんの瞳の色が、いつもの赤い色に戻っていた。
ルイスさんはメルツちゃんをさっきと同じように抱き上げて、わたしとルイスさんがメルツちゃんの背をとんとん軽く叩くと、メルツちゃんは両手を広げて、わたしとルイスさんの肩をとんとんするのだった。
サンクレルの治癒院って、お医者様と冒険者稼業を引退した回復魔法の使い手が半々なんだよね。回復魔法って万能に見えるけど、外科的なのは得意だけど内科にはいまいちって感じの人が多いんだわ。魔法が使えない国からこのサンクレルに移住してきた人の中に医者がいて、そういう人が流行り病の原因を究明し治療に貢献して、お医者様の地位は回復魔法使いと同等になった歴史がサンクレルにはあるって、ルイスさんが説明してくれた。
お医者さん内科医、回復魔法使いは外科医、的な立ち位置なのかな。
病室のドアをノックして入室すると、叔父さんは看護師さんぽい制服を来た女性に囲まれていた。
……めっちゃモテモテじゃんよ。
魅了スキルってやっぱり遺伝なのか。
なんだよ、どれだけ心配したと思ってるのよ。
あと看護師さん、そんなに叔父さんの傍にいなくてもよろしいんじゃないの?
「検温しまあす♡」とかいっておでことおでこくっつけての検温とか聞いたことないわ。
「脈拍測りまあす♡ あら~低い~大丈夫かなあ」とか言いながら、叔父さんの手を自分のおっぱいに触らせる必要はどこにあるのか。そりゃそんなことしたら脈も速くなるわ。
フェロモンとエロスの看護師に囲まれた叔父さんも鼻の下のばすんじゃない!
わたしの記憶にある転生前の平成のイメクラのイメージを目の前で展開するとか……。
大丈夫かこの治癒院……。
そしてわたしの心配を返せ。
夕闇の中で剣で刺されて海に投げ捨てられる場面がわたしの中で鮮明なだけに、この状況はカオス!
「叔父さん……あんな状態で海に投げ出されたからどうなるかと思ってたのに元気そうじゃない」
「アリス! 無事だったか」
無事だったかじゃないよ、こっちはメルツちゃんがいるんだよ! 教育上悪いモノみせられないよ! 何やってんのよ!?
そんなわたしの様子にフェロモンとエロスの看護師さんたちは病室を出て行った。
その間、ルイスさんがローブでメルツちゃんの視界をかくして、メルツちゃんもルイスさんを見上げて「かくれんぼみたい~」って喜んでる。
さすがだ。メルツちゃんのパパ。全方位に漏れがない。
「あれからどうなった」
「ルイスさんが船ごと海に沈めたわ!」
そんなケロっとした顔できいてくるなあ!
こっちは心配したのにぃ!
「サンクレルの警備隊に引き渡せるようにはしましたけどね」
ルイスさんの言葉に、叔父さんは意外そうな顔をした。
「え、そうなん? ルイス君、絶対殺っちゃうかもとか、おじさん思ってたけど」
「なんでルイスさんがそんな感じの印象なのよ? どこからどう見ても、そんな感情まかせの人じゃないでしょ!」
わたしがそういうと、叔父さんはルイスさんをじっと見る。
「うん。まあそうだね」
何よ、その間は、ほんと失礼しちゃう!
後ろにいるルイスさんを見ると、メルツちゃんとローブでかくれんぼをしている。
見よ、この微笑ましい若い父と娘の光景を。
まあ……叔父さんとわたしもこんな感じの時もあったなー。
はーでもよかったー。
「二、三日、入院するだけだから、たいしたことじゃないぞー、お見舞いなんかもうこれ一回でいいからなー着替えとかもいらないからなー」
そうするわ。
イリーナさんに着替えを持たせて送り出すわ。
イリーナさんの叔父さんに対する幻想を砕くようで悪いけど、現実は早く知った方がいいのよ。
「無事を確認できたから、よかったです! お大事に!」
「はいはい、ありがとなー!」
ほんと軽い!
もう、わたしとしては森の家に戻って『シー・ファング』大迷宮踏破生還おめでとうバーベキュー大会の企画と準備をしたいんですよ!
それにさ、ルイスさんだって、大迷宮踏破したばっかりなのに、海域に落とし穴作るとかとんでもないほど魔力消費してるはずじゃないの?
いやーわたしもわたしで、なんだか疲れてるけどさーここはルイスさんへのお礼と労いで、イーストアインランド地方のご飯でも作らないとって感じなのに!
「あの叔父さんの暢気具合はどうなのか」
わたしがぽつりと呟いて歩いていると、左側と左下から、視線が……ルイスさんとメルツちゃんがわたしを見る。わたしとメルツちゃんとルイスさん三人にで手をつないで歩いてたから。
「……え……」
なんで二人して「お前が言うな」な突っ込み視線でわたしを見るのか。
理不尽な。
そんなわたしの表情を見て、ルイスさんが吹き出す。
「おなかすかない?」
「うん、メルツおなかぺこぺこなの、ルイスせんせーなんでわかるの?」
いや、うん、ここにいる人達みんなそうだよ。
「なんか食べてこう」
ルイスさんの言葉に、メルツちゃんはわたしの手を振り上げて、ばんざいのポーズ。
「やったあ! さんせー!」
「ええ!?」
「きっとアリスさん――……アリスは「森の家に帰って、ご飯作らなくちゃ」とか思ってるんだろうけど、アリス自身も疲れてるんだろうから、もう食べに行こう」
「わー行こう! アリスおねーさん! 行こ――!!」
メルツちゃんがキラキラした瞳でわたしを見上げる。
う、この瞳にはめちゃ弱い~心身ともに疲れてるのは事実。
「アリスの料理が一番美味しいのはわかってるけど、サンクレルの美味しいお店は僕は詳しいよ」
メルツちゃんはその場でうさぎみたいにぴょんぴょん跳びはねてる。
「一番最初にルイスさんに奢ってもらったお店みたいに?」
「うん、ほかにもあるよ。僕はしばらくダンジョンアタックもないからね」
そりゃそうでしょ、大迷宮は踏破しちゃったんだから。
「ごはん、ごはん、みんなで、おそとで、ごーはーん!」
メルツちゃんが、不思議な節を付けて、歌うようにそう言った。




