第70話 ルイスさん達、メルクーア大迷宮踏破する。
ルイスさんたち『シー・ファング』がメルクーア大迷宮最深層攻略へ向かって、一か月経過。
季節はそろそろ冬に差し掛かりそうだった。
サザランディア大陸サンクレルは、温暖な気候と思ってたけど、冬になると意外と寒い。
ルイスさん達に、もっとあったかい服を作ってあげればよかったかもと心配になってきたけど、イリーナさん曰く、外の気温と迷宮の中の気温は異なる、エリアごとで灼熱とか極寒もあるから、あまり意味はないとのこと。
その話を聞くと、まあそういうこともあるかとわたしも納得。
ルイスさん達が出発する時、わたしはちゃんと法衣服を着て、錫杖もって、メンバーを前にして無事を祈った。
以前、下層で救援を必要の時もやったけど、今回は本格的な攻略だし、わたしもなんちゃってプリーストではあるけど、やらないよりはやった方がいいはずとか思って。
メンバーの人達は感動してたみたいだけど、ルイスさんは複雑そうな顔をしていた。
ルイスさんの気持ちはわからないでもない。へっぽこプリーストの祝福、その効果は果たしてどうなることか不安だったのかもしれない。
わたしとしては、「真剣に祈ったんですよ、失礼だな、もう!」って言ったら、「ごめん」って謝ってたけど。
そんなある日、ケイトリンさんが息を切らして、わたしのところへやってきた。
この時、わたしはのんびり編み物なんかしてた。
ちょっと寒くなったから、メルツちゃんに毛糸の帽子とか、マフラーとか手袋とか作っちゃおうかなって思ってたのよね。
自分とお揃いにしてみても楽しいし。
そんな暢気なわたしのところへやってきたケイトリンさんは、サンクレルから猛ダッシュしてきたのがわかるくらい息切れしてた。
「あ、いらっしゃい、ケイトリンさん。慌ててどうしたのよ」
「アリスさん……」
わたしは編み物を籠にいれて、ケイトリンさんにちょっとぬるめのお茶を用意してみた。
寒いしあったかいお茶はこのぬるめのお茶を飲んでか淹れ直すことにしよう。
ケイトリンさんはぬるめのお茶を一気飲みして、息を整える。
「やったよ、ルイスさんたち」
「はい?」
「メルクーア大迷宮、攻略した‼ サザランディア大陸千年超える大迷宮ダンジョン踏破したのよ‼ ダンジョンマスターになったの‼ 迷宮都市もサンクレルも、大騒ぎよ!」
え? ちょっと待って、ルイスさん達は確かにそろそろダンジョン攻略切り上げて戻ってきそうだなとは思ってた。
だいたい迷宮潜って一か月ぐらいは攻略してるっていう話だから。
そりゃ最前線攻略組って言われてたけど、踏破? ダンジョンマスター?
「ごめん、ケイトリンさん、大迷宮踏破されるとどうなるの?」
「モンスターウェーブ……スタンピードの危険がなくなるの!」
「う?」
「三百年周期で発生するスタンピードが抑えられるの!」
「それって、何?」
わたしの言葉に、ケイトリンさんはがくっと体勢を崩した。
ごめん、この大陸にきて、一年経ってないので、よくわからないのよ。
大迷宮っていうダンジョンがあって、ダンジョンで討伐したモンスター素材や鉱石や魔石で生活が便利になっていくので、そこを中心に人が集まって、街ができてて、生活してるっていうのはわかってる。
「ダンジョンからモンスターが溢れて地上にでて、街も人も被害甚大になるのがスタンピードなの! メルクーア大迷宮は千年超える大ダンジョンで、約三百年周期でそれが起こってるのよ、今は前のスタンピードから280年とか言われてて、スタンピードのカウントダウンに入ってたの! それが阻止されたの!」
……ダンジョン……活火山みたい……富士山の噴火抑えられました的なこと?
「踏破されると、迷宮の中のモンスターとかどうなるの? みんないなくなっちゃうの?」
「いや、残ってるよ、だけどモンスターの増殖とか氾濫が地上に出てこなくなる。だからダンジョン周辺の街の安全性が上がるわけ」
「いままで結構危なかったってこと?」
「めっちゃ危なかったの! だって、前のスタンピードから280年ちょっと経過、三百年周期だったら誤差でしょ!?」
まじか。
ダンジョンに潜らなくても、強制力が働いて、スタンピードにまきこまれてざまあヒロイン死にましたって、ありそうだったわけだ。
そのスタンピードをルイスさんたちが防いだと。
「ルイスさんすごい……命の恩人……」
「そうよ! サンクレルとメルクーア大迷宮の都市合同計画もこれで進むかもって話もあがってて、踏破生還凱旋パレードの企画が立てられてるのよ!」
ケイトリンさんがいうには、サンクレルとメルクーア大迷宮都市って、元はメルクーア大迷宮のお膝元にダンジョンの宝を求めて人が集まってたけど、スタンピードで一度街は壊れてるんだって。
避難した人たちがサンクレルに集まって、海を臨む土地だから人口も増えて街が復興されて、街の規模が大きくなって、スタンピードが収束したころ、メルクーア大迷宮都市の復興があって……そういう歴史もあって、このサンクレルとメルクーア大迷宮都市は距離が近く、二つの街での冒険者同士の諍いも少ないのか。
そりゃケイトリンさんがメルクーア大迷宮で、新人冒険者引率なんて仕事もできるわけよ。普通なら、お膝元のメルクーア大迷宮都市に在住の冒険者ギルドや冒険者が幅を利かせるじゃない? そういう話をきいたこともないし。
もともと住んでた人達だもん、この二つの街は一つの街といってもおかしくないわけだわ。
危険があるとはわかってるけれど、ダンジョンから採掘される資源は人の生活を向上させて潤すから、人は集まるんだとか。
異世界の人類、たくましい。
そしてルイスさん達『シー・ファング』がメルクーア大迷宮を踏破したから、いよいよ、都市合同しても問題ないぐらいになってきたと。
そりゃ二つの街がお祭り騒ぎにもなろうって感じよね?
「踏破凱旋パレード……」
そりゃ、戦争勝ちましたの凱旋パレードに匹敵するわ。
「イリーナさんはもう、ここんところギルドに泊まり込みよ」
「大変じゃん!」
差し入れしないと! お着替えも必要よね!?
「学校はしばらく休校にした方がいいって噂もあって、メルツちゃん、多分そろそろ帰ってくると思う。生鮮食料や生活必需品を取り揃える商店はいつもどおりの営業だけど、パレード当日はクローズよ。遊興系の店はクローズ開始してる。あと、他の店はあけてたり開けてなかったり、エドのいるハンザ工務店もパレード終了まで仕事の受注はなしだって」
「……遊興系の店って?」
「賭場とか、体験遊興よ。例外は娼館。これはあけてるらしいわ」
賭場あったんだ……娼館も、まああるとは思ってた。
体験遊興って何だろうと思っていたら、ゲーセンみたいなものらしい。
ダーツとかテイマーが経営してる可愛いもふもふを触らせてくれるミニ動物園みたいな。
あとは迷路とか。
へ~今度メルツちゃんと行こう。
メルツちゃん、学校でそういうのあるって聞いてないのかな?
まあ、メルツちゃんの場合は、ガチでアイテムクリエイトの方に全振りしてるというのもあるか。
「この森の家は場所的にもある意味治外法権じゃない? 日中アリスさんしかいないし、こんな状況だけど、絶対情報入ってこないと思って、ハンザさんとエドが、アリスさんに知らせてこいって」
「わ~ありがとう、ケイトリンさん。それで冒険者はどうなってるの?」
「メルクーア大迷宮への中層階までの探索許可はでてる。でも、下層階より先はクローズよ」
「そんなことできるの!?」
「ダンジョンマスター権限で可能らしいわ。ルイスさん所属クランの『グランド・カーラント』が『シー・ファング』に通達したっていう話だから」
「え、ダンジョンのコントロールが可能なの?」
「だから、ダンジョンマスターって言われるのよ」
なんだろう……いろいろ、情報量多すぎ。
ルイスさんなんていうか、神の領域じゃんよ。
大魔法使い様だとは思ってたけど。
「まって、じゃあ、えっと、そんな状態なら、メンバーもクランからこっちに一時避難してくる?」
恋のアミュレット騒動とは規模が違う。
あの時はルイスさん一人だったけどメンバー全員込みなら、もっと大変な状況になるんじゃないの!?
「それはわからない。パレードやれば、みんな満足するんじゃないかってギルドでは思ってるみたい。ダンジョンマスターなんて権威なんだから、迷惑はかけてこないとは思うけど」
一か月前に武器完成打ち上げバーベキュー大会を開催して、食料大放出したから、そろそろ買い出しに~とは思ってたけど、そんな街がごったがえしてるなら、ちょっと今から行かないとまずくない!?
メルツちゃんが帰ってきたら一緒にサンクレルに行かないと!
あと、イリーナさんが心配!
「ケイトリンさん、メルツちゃんが戻ってきたら、一緒にサンクレルに付き合ってほしい!」
わたしがそう言うと、ケイトリンさんは頷く。
そこにメルツちゃんがベビ犬ちゃんたちにまとわりつかれながら、カウベルを鳴らして、帰ってきたのだった。




