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元聖女のざまあヒロイン、強制力から逃亡しスローライフをおくりたい!  作者: 翠川稜
 

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第68話 切れないスケルトンスパイダーの糸


 ルイスさん除く三人の新たな武器を慣らす為と、ルイスさんの壊れたロッドを新たに新調する為、メルクーア大迷宮攻略、最前線組パーティー『シー・ファング』はただいま調整中ということで、メルクーア大迷宮への攻略を止めている。

 普通のロッドやワンドを持って、ある程度なら迷宮にも潜れるそうだけど、万全の態勢でないと、下層のアタックはしない方がいいとのこと。

 そんなわけで、ルイスさんとランスさんとメルツちゃんは、新たなロッド、もしくはワンドを作るので作業小屋に籠っていることが多い。

 その間、わたしは、ルイスさんがメルクーア大迷宮都市でお土産で買ってくれたスケルトンスパイダーの糸で縫製開始! と思ってたんだけど――……。


「糸が切れない……」


 これどうやってモンスター素材として商品化してるの?

 ハサミで切れないってどういうこと?

 なんか特殊なハサミでも使ってるの?

 仕事部屋でスケルトンスパイダーの糸を前に、床に座り込んでしまった。

 糸は透明。

 ビーズアクセサリーに使用するテグスみたいなもんですけど、それよりは細くて、質感が縫い糸なのに……。


 切 れ な い‼


 どうやって切るのよこれ。

 せっかくのモンスター素材なのに使えないとか!

 あまりのショックでうずくまったまま二時間。

 おうちのお掃除もしないで庭の手入れもしないで、二時間。

 いつもなら敷地内をうろちょろするわたしの姿が見えずに、変に思ったメルツちゃんとルイスさんが仕事部屋のドアをノックして開ける。


「何うずくまってるの、アリスさん?」

「アリスおねーさん! ぐあいわるいの!?」


「切れない……見えない糸」


「いときれないってなーに?」

「……ああ、まあ強度は強いから……」


 強すぎるにもほどがある。糸なのに……。

 メルツちゃんが、わたしが握ってる糸を掴む。

「これが、きれないの?」

「ごめんごめん、お昼の支度するからね」


 はあっとため息をついて天井を見上げる。

 あとは縫うだけなのにさ……。こんなオチがあるなんてひどいわ。

 わくわくした気持ちを返して。

 あーちょっと前のメルツちゃんの気持ちがわかるわあ。

 ほら、救助のための迷宮に自分の武器を持って行ってほしいけど、結局間に合わなくて、わたしがアンダーシャツを渡した時の状況よ。

 立場逆転じゃん。

 わたしはもう一度ため息をついて、一階に降りて行った。

 その様子を見て、ルイスさんがメルツちゃんに内緒話をしていたのは、もちろん、この時落ち込んでいたわたしは知らなかった。


 お昼ごはんを食べてるルイスさんとメルツちゃんとランスさんをよそにわたしは何度目かのため息をつく。


「アリスさんごめん……ハサミも一緒に買ってくるべきだった……」

「いえ、とんでもないです。わたしが直接買い物に行っても同じように糸だけ購入してますから……」

「ランスおじーちゃん、スケルトンスパイダーのいとを切るハサミってサンクレルに売ってる?」

「うーん、聞かねえなあ。その素材自体、サンクレルでみたことないな新素材なんだろ?」

「最近加工が成功したって話を聞いてたので、アリスさんなら使うかもって、提案してみて、この間メルクーア迷宮都市で購入したんですよ」

「じゃあ、そのうちサンクレルにも流れてくるだろうけどなあ」


 じゃあそのうちという話ではなく、わたしとしては今! 今、欲しいのですよ!


「メルクーア迷宮都市に行ってみるかな」


 わたしがそう呟くと、ルイスさんが「それはやめて」と即座にいう。

 なんでですか。

 ルイスさんの懸念はわたしの魅了スキルのせいってわかってますけども。


「僕、今から行ってくる」


 ルイスさんがそういうと、メルツちゃんが「え‼」と声をあげる。

 いやいや、たかがハサミごときで、大魔法使い様をパシリになんかできませんよ。


「いいですよ、そんな今すぐではなく、また迷宮都市に行く機会があればで。今回の縫製は普通の糸でやります」


 わたしがそう言うと、メルツちゃんがルイスさんとわたしを見て、あうあうと何か言いたげ。

 まあねえ。

 ルイスさんの武器作製中のメルツちゃんからしてみれば、そんないい素材があるのにって気持ちなんだろうけど。アンダーシャツでも相当な付与がつくんだから、なんとかなるんじゃないかな?

 ルイスさんがお土産で買ってきてくれたスケルトンスパイダーの糸は、そのうち切れるハサミがサンクレルにも売り出されたら、購入しよう。


 ようし、そうと決まれば、気持ちを切り替えて、テンションを上げるために、なんか甘いもの作ろうかな。

 メルツちゃんも頑張ってるし。

 お昼の後片付けをしたら、おやつのために下ごしらえ。

 牛乳300㎖とお砂糖120gを鍋にかけて弱火でゆっくり混ぜ混ぜ。

 お砂糖120gってすごい量でドキドキするけど、ここは、ここはね、甘いお菓子を作るのには必要。

 お菓子のお砂糖は正義なのよ!

 スイーツは正義、スイーツはジャスティス、おいしくなあれ~。

 卵を4個、卵黄と卵白にわける。

 このおやつには卵黄だけ使います。卵黄を溶いて鍋にかけた牛乳を少しずつ加えて混ぜ混ぜして~ざるでこします。

 なめらか? なめらかよね? このこした液をまた鍋に入れて中火で混ぜ混ぜ。

 とろーりしてきたら、また鍋からボウルに移して……さっき、ルイスさんに魔法で作ってもらった氷水に浸けて冷やす。

 別のボウルに生クリームを入れてまぜまぜ。つのが六分たてになったら、冷やしていたボウルの中身(牛乳と卵黄ね)を合わせて混ぜ混ぜしたら、香りづけにバニラエッセンスを入れてまぜまぜして、バットに移して30分冷やす。

 一度取り出して、スプーンでかき混ぜられる硬さだから一度かきま混ぜて、再び魔道冷凍庫で一時間……。

 この魔道冷蔵庫と魔道冷凍庫は~前の持ち主が購入したものをそのまま使ってるのだ。

 前々前世の現代日本の縦型冷蔵庫とは違って、こう、業務用?

 水回りの反対側のカウンター下に設置されてるのよね。カウンタースペースとか広く取れて慣れたらなかなか使い勝手はいい。

 これでアイスクリームができあがりなのだ。メルツちゃんよろこぶよね?

 おやつどころか、お風呂上りに食べたいやつよね?


 残った卵白もついでにスイーツにする。

 オーブン予熱して、卵白をメレンゲにしたところにお砂糖。

 ……さっきよりもお砂糖強め。200g……にひゃくぐらむううううう。

 いいのです、スイーツは甘くていいのです!

 よし、まぜたら天板にシートをしいて、そこにこの卵白をしぼり袋に入れて、いい感じの大きさにしぼりだして、ちょんちょんちょんとのせていく。

 できたらランスお爺さんにお土産で持って行ってもらおう。

 お世話になってるし。

 さて予熱であったまったオープンに天板をセット。焼きあがりまで、お掃除しますか~。



 そんなこんなでスイーツを作って、鬱憤を晴らし、その日からわたしは普通の糸で縫製作業に入った。

 意外と順調。

 そんなこんなで、メンバー全員分の服が完成間近になったある日、メルツちゃんがわたしの仕事部屋にやってくる。


「アリスおねーさん」

「どうしたの? メルツちゃん、おなかすいた?」

「ちがうの、あのね、メルツ、つくったのこれ」


 メルツちゃんもじもじしながらわたしに渡すのは、牛系のモンスターの皮……牛革ケースに入った小さな糸切りハサミ。


「あらーケース、オシャレ。今、ルイスさんの武器の為に刻印やってるものね? わたしもレザークラフトでたまにやるけど、これは犬の足跡を刻印してるのね」

「うん、これで、みえない糸を、きってみて!」


 ……うん?

 わたしはカバーから外した糸切ハサミをじっと見る。

 この重さ、この金属の輝き。

 もしかしてまさかの……。

 わたしは引き出しにしまっていたスケルトンスパイダーの糸を取り出して、メルツちゃんが渡してくれたハサミでちょんと切ってみる。

 うん。

 切ってみる……切れたよ。

 切れた!?


「メルツちゃん、これ、切れる!」

「やったあ! 世界でいちばん、なんでも切れるハサミ、メルツ作れた~!」

「なんで!?」

「ルイスせんせーがね、自分の武器を後回しにしていいから、作ってみてって、あだまんたいとをくれたの!」


 ぱぱーん

 大魔法使いの義娘の作ったアダマンタイトの糸切ばさみ。

 これで切れないものは世界中探しても存在しない。


 鑑定したら、なんかすごいフレーズ出てきたけど!?


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