第66話 不審者の正体
わたしと同じ転生者のユリシア様は王太子殿下と結婚まで秒読み段階、お二人ともハッピーな感じがお手紙から感じ取れた。
これが一国の王子との結婚じゃなければ、わたしを訪ねて新婚旅行にこっちにきたかったみたいなことも書いてあった。
まあこっちみたいな遠い場所ではなくとも、あの大陸内でなら、お二人そろって外交であちこち行くことになるんじゃない?
で、一番肝心なことは、わたしが情報を渡した、わたしの養家であるドリアス公爵家について。
王太子殿下に渡した情報で、ドリアス公爵にはきつーいお灸が据えられて、表面的にはまあ反省してるみたいではあるのよね。
そんなドリアス公爵家はわたしを探しているんだって。
なんでよ? って思うじゃない?
一応貴族令嬢として養女となったわたし。カネかけて養育したんだから、ちょっとはドリアス家に利のあるおうちに嫁がせたいと思ってるようなんだよね。
は~転んでもただでは起きないというか、使えるものはなんでも使うというか。
ドリアス公爵家はわたしの魅了スキルを知ってるから、どこぞの小国なり隣国なり、大陸内の別の国の王家に嫁がせて、その国まるっと手にできるかも!? ぐらいは思ってそう。
だから「アリス様の周りに、怪しい人がうろちょろしたら、多分ドリアス家だから、要注意」って忠告のお手紙だったのだ。
ユリシア様優しい~。いやいや、こういう情報は王太子殿下が調べてそうよね~それで殿下がユリシア様にわたしに知らせるようにお手紙書きなさいって言ったんじゃないかな。
このざまあヒロインに対してのアフターフォローのきめ細やかさよ。
あの国は、王太子殿下がいれば安泰。めでたしめでたし。
……でもわたしはちっともめでたくなーい。
この森の家にうろちょろしている不審者が、わたしの養家ドリアス公爵家からの使いだったのかー!
物語の、ざまあの強制力がまだ健在ってことじゃんよー!
もちろん、公爵家に戻る気はさらさらないですよ。
わたしは叔父さんから渡された手紙に一通り目を通してから、手紙をエプロンのポケットにしまった。
ダンジョンから戻ってきた『シー・ファング』のみなさんは、お疲れだろうと、お風呂も用意して、各自、お部屋にご案内した。
二階の部屋数の意外な多さに、『シー・ファング』のみなさんはびっくりしていた。
二階だけでも8R+ロフト(グルニエ)なのよ。
一階からの階段を登ったら、中央にホール(ここはスペースがあるのでリビング仕様にしている)
このリビングの左右に4室ずつあるからね。
これハンザさんがリノベの時に部屋を区分けしてくれたのよ~。
で、そのうち2室をわたしが仕事部屋と私室にしてるのだ。
ロフトはメルツちゃんのお部屋。ホールをはさんだ客室用の一室が現在ルイスさんのお部屋。
お掃除大変なんだ。まあわたしの場合、時間が惜しい時は浄化魔法で一発なんですけど。
中央のホールはソファやラグが敷いてるので、みなさんはそこでも十分とか言ってたけど、せっかく部屋があるのでご案内して、パジャマも渡した。
疲労回復パジャマだよ~。今日はもう遅いので、明日、メルツちゃんが作った武器のチェックもしてもらいたい。
そして二階リビングには叔父さんとわたしがいるんだけど、ロフトの階段のそばからメルツちゃんがこっちをじい~っと見てる。
メルツちゃんの視線が強くて叔父さんは苦笑してる。
「アリスが俺と暮らしていた時、ちょうどあのぐらいだったな」
「ああ……メルツちゃんぐらいでしたね」
「なんであの子、こっちずっと見てるの?」
そりゃ、叔父さんがわたしを連れて行ってしまうかもと思ってるからでしょうよ。
「叔父さん、今どういう感じ? 宿暮らしなら、ここに住みます? 部屋数だけならありますよ?」
「お前があれぐらいの年齢だったらそれもありだけど、俺のいない間ちゃんとしっかり育ったし、いい根性してるのもわかったし、ここ、買い物不便じゃねえか?」
「いい根性とは? 買い物不便なのは同意ですけど」
「あーちゃっかりしてるというか生活力が意外と身についているというか。ほら、大貴族に引っ張られて行って、張りぼてだろうがお嬢様生活だったろうに、一人で大陸渡って、家まで手に入れているところとか、もう、俺の姉貴そっくりだ」
へー今世のわたしの実母はそんな感じの人だったのか。ちょっと記憶が薄いけど。
「いっちょまえになったから心配も、もうしてない……つもりだった」
「はは。まあいろいろやらかしてます」
お宅の姪は、魅了スキルまき散らすアミュレット作って、僕はクランハウスにいられなくなりました~は絶対言っただろうな。そうじゃないとここで一緒に暮らしてる説明つかないもんね。
「問題はこの家の周辺に現れる不審者は、ドリアス公爵家からの依頼でお前の身柄をコーデラインズ大陸に戻したい連中だろう」
おじさんの心配はそっちか。
公爵家だもんね~あきらめてくれないもんでしょうかね。
「でもまあ、普通にここの結界は破れないから、ここに引きこもってれば安全かなって思ってるんですけど」
「結界魔法は教会で教えてもらったのか?」
「神聖魔法の基礎を一通りは、預けられた先が教会だったもんで、そこは自然と覚えましたけど……このサザランディア大陸に来てからなんか強化された感じですね」
「ここの結界はたしかにすごいが、お前、ずっと引きこもるわけにもいかんだろう」
「そうなんですよねえ、だけど国には絶対戻りたくないんですよ」
「ドリアス家がなんかしたのか?」
いや~強制力が働いて、寿命が縮まるんじゃないかっていう不安が戻りたくない理由の一番なんだけど、叔父さんに言っても、きっと理解はされないだろうし。
「ユリシア様がお手紙で教えてくれたの。ドリアス家はわたしを政略の駒に使いたいみたいだから」
っていうのが理由としては納得してもらえるかな?
「わたしの魅了スキルは強力だから、わたしを他国に送り込んで魅了スキルで掌握しておいしい思いをしたいんだろうって感じだから……かな?」
血縁者からむりやり引き離して、わたしを引き取るんだから、そのぐらいは考えてそう。
自国がだめならお隣の国でもいっちょやってみるかぐらいは考えてそう。
「今、魅了スキル発動させてないだろうけど、お前の魅了スキルそんなにすごいの?」
「うん、すごいよ。これをレジストしたりできるの、ルイスさんぐらいだよ。わたし自身、制御しようって、いろいろ試してるけどね」
国家転覆をハニートラップでどうこうできるかもしれない超強力スキルだもん。
「公爵家はお前を、エスカトリア神聖国あたりに聖女として放り込むぐらいはしそうだな」
コーデラインズ大陸でも指折りの宗教国家だけど、純粋な信仰の国じゃないし、貧富の差が激しいから、上層部がやばそうなところなんだよね。
「叔父さんもそう思う? 多分殿下もそれを心配してユリシア様に手紙を書かせたと思うんだ。とにかく、ここにいるよ。コーデラインズ大陸には戻らない」
わたしがそういうと叔父さんも「そうだな」と呟く。
「ここ、飯がうまい国だからな」
えー!? 叔父さんそこなのー!?
でも、すごくわたしと血縁っぽい発言だなと思った。




