第64話 イリーナさんの好きな人?
「そんなわけで、メルツちゃんのお父さんは出張中なんですよ」
「アリスさん、それルイスさんの前で言うとまた怒られますよ?」
「怒られますね」
ルイスさん達が出発して早一週間。
今現在メルツちゃん製作モードなので、この週末は作業小屋でランスさんと詰めていて、イリーナさんとケイトリンさんもやってきて、前々から約束していた女子お泊り会開催なのです
「そうは言いますけど、お父さんですよ、あの人。ランスさんがメルツちゃんにつきっきりで安心だけど、やっぱり女子供老人じゃ不安だから、シャムさんかケイトリンさんにお泊りにきてもらいなさいとか言っちゃってさ~」
わたしが肩をすくめてやれやれと両手を広げる。
「不審者多いって話だったからじゃないですか?」
「腕に覚えある女子がいたほうがいいっていうルイスさんの判断ですよね、それ」
「男の冒険者じゃないところがね~」
「自分を棚にあげてね~」
ケイトリンさんとイリーナさんがにやにやしてわたしを見る。
なんですか、二人して!
「イリーナさんにも春がきそうな気配なのに、アリスさんたら相変わらず、平行線というか」
ケイトリンさんがやれやれと肩をすくめる。
な、なんですと!? イリーナさんに春がくるということは、いいお相手との出会いがあったということ!? その話詳しく!
「イリーナさん~何その話~初耳ですけど~?」
「やめて! ケイトリンさん、アリスさんには言わない約束じゃないですか!」
ちっちっちと、わたしは人差し指を立てて左右に振る。
「ケイトリンさんは恋のアミュレットで長い片想いを成就させた人で、そのアミュレットを作った人は誰だと思ってるんです?」
「アリスさん、そういうところですよ! ルイスさんに調子に乗るなとか言われるのは!」
イリーナさんが真っ赤になって叫ぶ。
うわ~かーわーいーいー‼
なんなの、常に仕事出来るバリキャリ受付嬢のイリーナさんが乙女とか!
いいお話聞きたーい!
「なんでも腕のたつ新人なんですって! 新人って言っても、若い人じゃなくて~わたしから見たら、え~おじさんじゃんって感じなんですけど、でも、まあ、見る人が見れば渋くてカッコいい感じではあるっていうお話なんですよお」
イリーナさんが慌ててケイトリンさんの口を塞ごうと、手のひらでケイトリンさんの口を押さえるものの、ケイトリンさん頑張って説明。
うん。
なんか似たような話、イリーナさんに聞いたことあるような?
最近、この大陸にやってきた人で冒険者登録してあっという間にメルクーア大迷宮に行った人で、しかもお名前。
「その人、ライオネル・ロックハートって人じゃない?」
「やだー、アリスさんイリーナさんから聞いてたのー?」
イリーナさんは、あうあうと口を開けたり閉じたりしてる。
わたしと目が合うと、ばっと両手で顔を覆ってしまった。
それは……わたしには言えないというか、隠そうとするわ。
でもイリーナさん。今現在、長い片想いに終止符を打ったハッピーなケイトリンさんを抑えるなんて無理だと思う。
「その人さ、結構、年配じゃない?」
「え? アリスさん知ってるの?」
「同じ名前の人を知ってるというか。その人、今三十代後半ぐらいじゃないの?」
ライオネル・ロックハートと名乗る男がわたしの叔父であるならば、わたしよりも二十は年上だよ?
イリーナさんは見た目二十台半ば。
とはいえ、ダーク・エルフ族だから、実際年齢は多分上かもしれないけど。
「だって……声が渋くて……見た目も渋くて……」
「イリーナさん老け専なの?」
「老け専とか言わないで! わたし、ダーク・エルフ族だから、見た目がそんなに変わらないじゃない!? だからちょっと見た目が自分より年上の人が好きなの!」
あ~そうなの。
ということは、やっぱり年齢も叔父さんぐらいなのか。声も渋いと。確かに声は渋い人だったわ。
うーん、ライオネル・ロックハート氏はやっぱりわたしの叔父さんかもしれないなあ。
「腕も立つんです!」
「叔父さん、確かに強かったと思う。そんで人気者だった。女というよりは男にモテてた」
「ふぁ!?」
「だって軍隊じゃん。男所帯じゃん。まわり男ばっかりじゃん。後輩に好かれるタイプだった。家に部下とか部下とかいつも来てた記憶がある」
「……やっぱり、アリスさんの叔父さんなのね!?」
「同姓同名の別人の可能性もありますけどね」
わたしとイリーナさんの会話にケイトリンさんはどういうこと? っといった表情でわたし達を見てる。
「ライオネル・ロックハート氏はわたしの実の叔父の可能性がある人なんです」
「ええええ!?」
「名前は同じだし、年も同じだし、見た目はここ十年会ってないからわからないけど、叔父さんは金髪に琥珀色の瞳でしたけど……」
「そのとおりよ……」
ああ、類似点また増えたということはますます、叔父さんの可能性がある。
「あ~でも~、アリスさんの血縁なら、イリーナさんが落ちるのも頷ける」
「はい?」
「持ってるのかも、例の『魅了スキル』を」
そうなのかな~これ遺伝なのかな~?
でもイリーナさんは、状態異常防止の眼鏡してるんだよね。
魅了はあんまり効かないとは思うけど。
「違うの~! 仕事できる人なのよ~今回のメルクーア大迷宮の救助とかって、ソロで入ってたライオネルさんが救助の人の第一発見者だったのよ~」
「え?」
「そうなの?」
「そうなのよ……よその大陸からきて、冒険者登録する人はいきなり迷宮潜って、大怪我してその後冒険者の活動とか上手くいかなくなることも少なくないの。でもライオネルさんは、サンクレル周辺でできそうなクエストからちょいちょい引き受けて堅実にランクUPして、迷宮に行って、初めての迷宮なのにそんな人命救助にあたるとか、ソロで潜ったのに、周辺には新人冒険者しかいなくて、たいへんだったろうに、メルクーアの冒険者ギルドに迅速に連絡取ってとか、仕事できる~」
おう……イリーナさん自身が仕事できる人だから、新人なのに仕事できる人~っていうのに弱いのかもしれないわね。
「そういう初動がよかったから、もしかしたら、思ったより早くルイスさん達は戻ってくるかもしれませんよ?」
戻る前に、新素材、ルイスさんよろしくお願いしますよ~。
「いずれ、本当に叔父さんなのか、そうでないのか確認したいですよね。さて、メルツちゃんとランスさんにもおやつを差し入れいかないと~」
今日はリンゴのカップケーキだよ~。
「あ、わたしも持ちますよ」
「わたしも~」
カップやお茶をそれぞれ持って、作業小屋に行くと、メルツちゃんとランスさんがうんうん唸っていた。
今、メルツちゃんとランスさんは素材の割合で頭を突き合わせて相談してる。
「はーい、おやつですよ~。メルツちゃんどお? 順調ですか~?」
「うん。でもね、ルイスせんせーの素材だけがきまらないの」
あらら。
「剣とは違うからな。ルイスの魔力と合う感じの素材がなあ」
ランスさんもふーやれやれといった感じ。
ザイルさん大剣、ギブソンさん長剣、シュルツさんは二刀流なので同じ剣を二本って感じなんだけど、ルイスさんは魔法使いだから剣じゃない。
「打撃での攻撃もなくはないから、それなりの強度は欲しい」
「魔法使いって木製のロッドってイメージなんですけど」
「まあ一般的にはな。けどな、アリスさんよ。魔法使いの木製ロッドは、ただの木製ロッドじゃねえ、魔法使いが使うロッドは一応トレントなんかの木製素材なんだよ」
「へーそうだったんだ……」
「もちろん、それだけじゃねえよ? 鉄とは言わねえが木製以外の素材で作ったロッドももちろんある。水晶なんかで作ったロッドとかな」
めっちゃキラキラしてそうだ。
「ルイスの魔力は、かなりのもんだから、魔法発動でぶっ壊れることのない魔力に合う素材がいいんだ」
難しそう……。
「ルイスせんせーなら『ゆぐどらしるの枝』でももってこないと……」
メルツちゃんがぽつりと呟く。
世界樹の枝!?
いや、ルイスさんなら使いこなせるだろう素材だけど。
「軽量化したちょっと重い素材でもこの際いいんじゃないかと思うんだが」
「メルツ、ふよまほうできない……」
「え~っと、軽量化は~わたしがロッドに意匠を施すことでできそうだから! 魔力伝達のいい素材でやってみるのはどうかな?」
あ、納得してない顔だメルツちゃん。
「メルツちゃーん、そんな顔しないで~ほらほら、リンゴのカップケーキ食べて~」
わたしがなだめすかして、メルツちゃんにリンゴのカップケーキをわたすと、メルツちゃんは、もぐもぐとテンション低めに食べる。
そして一個だけ食べ終えると、榛色の瞳を光らせて、鼻息荒く立ち上がる。
「メルツ、できることからやる!」
「そうじゃな」
「がんばる! アリスおねーさん、ごちそうさま!」
頑張れ! メルツちゃん‼




