第62話 金平糖の小瓶
「何、アリスさん迷ってるの?」
「メルツちゃんのお土産ですよ」
サンクレルの多国籍食材店に足を運んで、コメみそ醤油とか買って、ルイスさん用に日本酒も買って(みりんも買ってもらっちゃった! やったあ!)買いそびれたものはないかなって考えつつ、メルツちゃんのお土産どうしよう……という。
あ、ちなみにわさびは入手できませんでした。残念。
「屋台でコットンキャンディーを買ったとき、めちゃくちゃ喜んでくれたんですよねえ。でも、アイテムバッグがあるとはいえ、あれをそのままバッグに入れるのって抵抗があるというか……」
「なるほどね」
お店の中をぐるぐる回って、う~んって唸る。
ルイスさんが立ち止まって小さな小瓶を摘まみ上げた。
「アリスさん、これはどう?」
おお~金平糖だああ‼
小瓶の中に小さな星形の飴が詰まってる。
しかもね、カラーバリエーション豊富なんだよ。
ランダムのもあれば、白黄色赤緑青って、単色グラデーションで小瓶がずららっと陳列されていた。
これはいい!
いや~さすが~ルイスさん~!
イケメン~女心をわかってるねえ!
「可愛い~‼ これこれ、こういうのですよ! あー何色にしようかな~」
目移りしちゃう。なんて思ってたら、ルイスさん籠の中に各種一つずつ無造作に放り込んだよ!? でたあ、大人買い!
「メルツちゃんへのお土産でしょ? なんでけちけちしてんの」
「そ、そ、そうだけどさ、こういうのは、また来た時に別の色を選ぶとかそういう楽しみとかもあるじゃないですか」
「メルツちゃんに一番気に入ったものを次回選んで買うという手もあるでしょ」
それはありだけど!
「次回は次回でメルツちゃんも連れて選ばせるとかね」
お金持ちめ!
「アリスさん想像してみて、メルツちゃんだよ? これをカウンターに並べてどれだけ喜ぶと思う?」
そりゃ飛び上がって喜んじゃうね。
「きっと、喜んじゃって、メルツちゃんのお部屋の出窓に並べると思う、そういうの、きっとわくわくしてやるんだろうなって想像できる。僕がやりたいからいいんだよ。メルツちゃんにはいいでしょ、このぐらい。子供は喜ぶでしょ」
「そこまで想像しちゃう!? お父さんっ……さすがお父さんっ!」
「キミのようなでかい娘は僕にはいません」
いや~さすがにわたしの父親役には確かに若すぎますけど、メルツちゃんならギリギリ。と、いいかけて、ちょっと想像した。
メルツちゃんと同じぐらいだったルイスさんを……。
イースト・アイランド地方でその姿は異端。
メルツちゃんのように小さいルイスさんは、彼を取り囲むすべてが、奇異の存在ルイスさんを排除するようにしてきたに違いない。
ルイスさんもメルツちゃんも頭いいし、きっと物心ついた時には自分を取り囲む環境がわかっていたと思う。
メルツちゃんが、喜ぶだろうって金平糖を選んだルイスさん。
きっと小さいときに、ルイスさんはそういう光景を見たんだろうか。
父親からのお土産に金平糖をもらう子供を。
家族の暖かい幸せの光景を。
そこまで想像すると、視界がにじんだ。
「アリスさん?」
わたしのあのとんでもないアミュレットが原因ではあったけど。
三人でわあわあ言いながらあの森の家で一緒にいることが――。
年の離れた兄弟みたいに、一緒にいることが……。
今はもう本人にも忘れているだろう、憧れた家族の風景みたいになっていたらいい。
「何、どうしたの?」
いきなり泣き出して、驚かせちゃったかな。
ごめん、タイミング悪く、変に想像力が働いただけです。
「もう、しょうがないな――もうワンセット買ってあげるよ、アリスさん用に」
「うう、ありがとうお父さん」
わざと茶化してそういったら、ルイスさんは、わたしがわざと「お父さん」と言ったのがわかったみたいで、いつもみたいに「お父さん言わない」なんて言葉は出さないで、くしゃくしゃとわたしの頭をその大きな手のひらで軽く撫でてくれる。
「うちのでかい娘は、仕方ないな」
なんて、わたしのおふざけに付き合う言葉をかけてくれる。
どんなイケメンだよ、だから女がふらふら寄ってくるんだよ。ばかああああ。
わたしは自分の籠の中に、金平糖をワンセットを入れて、それを隠すようにサンクレルにはない調味料を乗せてルイスさんに気づかれないようにお会計をすませた。
「ただいまーメルツちゃん!」
「おかえりなさーい! アリスおねーさん! ルイスせんせー!」
「すぐにごはんの支度するね! ランスさんもありがとうございます! 今日はもう日が暮れちゃったから泊まっていってくださいね! ランスさんのおうちとお店には連絡しておきましたから!」
わたしがそういうと、ランスさんはうんうんとうなずく。
サンクレルからこの森の家に戻ってくる時に、今日はもう、ランスさんは森の家に泊まってもらおうってことで、お店とおうちに立ち寄って、今日は森の家にお泊りしますとお伝えしてきたんだ。
だって、お買い物で時間がかかっちゃって、日が暮れてたんだもん。
ランスさんもハンザさんと同じでむかしダンジョンに潜ってたけど、お店をサンクレルに持った人。引退した元冒険者だけど、ここからサンクレルまで一人で戻らせるわけにはいかないし。
前回もメルツちゃんの製作物指導ってことで、時々、泊まり込んでたこともあって、おうちやお店の人は委細承知みたいな感じで「うちのご隠居をよろしく~」ってな感じだった。
「やった! メルツ、お泊り用のお部屋、用意してくるね! ランスおじいちゃん、こっちこっち~!」
「メルツちゃんお願いね!」
「はあい‼」
さてさて、いつもの料理用のエプロンをしまして、今日は4人分のごはんを作りますかね。
もうせっかくだから買ったばかりの、イーストアイランド地方の食材や調味料使っちゃう!
なんていってもお豆腐、お豆腐ゲットできたんだよ~。
お味噌汁にも入れちゃうし、冷奴にして、ランスさんとルイスさんのお酒のアテにもだしちゃうぞ。
鯵でなめろうも作っちゃうんだから!
ランスさんがいるから、いきなり生食で魚をドーンっとやっても、忌避感あるだろうし、ここは珍味っぽいものならいけるでしょ。
鱗とってぜいごとって、頭落として内臓とって、皮もきれいにぺりぺり剥けたわ!
醤油とみそ、ネギにしょうがで……。
うんいい感じ。
あとは肉じゃがと、やっぱりお肉もメインで出しとく?
まあ無難にキノコと鶏肉のソテーなんかどうかな~。
「わあ~いっぱいごはん~」
「いや~買ったからついつい作りすぎちゃった」
「ルイスさんとランスさんは、ちょっとお酒これで」
お猪口と徳利をカウンターに出したらお酒の香りにランスさんは目を光らせる。
「おいおい、ルイス、おまえ、何買ってきちゃってんの?」
「ランスさんたちが好きそうなの買ってきちゃったんですよ」
「かー、おまえ、わかってるなあ!」
「今回のメルツちゃん指導料として、こいつのハーフボトルも買ってきてますから受け取ってください」
「金はいらねえが酒は別だ」
ドワーフっぽいセリフだなと思いながら、みんなでごはん食べた。
後片付けが終わったら、ルイスさんはメルツちゃんに「いい子で留守番してましたね」って、例の金平糖の小瓶をカウンターに並べて、メルツちゃんは大喜び。
「すごいすごい、いろんな色がいっぱーい! これなに?」
「飴」
「かわい~おほしさまのかたち! ありがとうルイスせんせー! メルツのお部屋にかざるの! ちょっとずつ、だいじにたべるね!」
「ほら、そこの大きい娘も持っていきなさい」
「アリスおねーさんもおそろい! いっしょに飾ろ!」
メルツちゃんは小瓶を抱えて、二階にあがっていく。
わたしも、ルイスさんに渡された金平糖が入った小瓶、お仕事部屋に飾る。
メルツちゃんにお風呂を入るように、ロフトの梯子を登ったら、嬉しそうに、屋根の出窓に小瓶を並べて、うっとり見入ってたんだろう。そんな状態で寝落ちしてた。
仕方ない。お風呂は明日だな。
メルツちゃんを寝具に寝かせて、布団をかける。
梯子を降りると、ルイスさんがランスさんを客室に案内してた。
「アリスさん、メルツちゃん寝ちゃった?」
「寝ちゃいました。はい、これ、ルイスさんの分」
巾着型のアイテムバッグから、わたしが後で買い足した同じ数の金平糖の小瓶をルイスさんに渡す。
ルイスさんは驚いたように目を見開いた。
きっと、メルツちゃんと同じ年だった頃のルイスさんが、憧れてたんじゃないかなって、勝手に想像しただけなんだけどさ。
ほんと、わたしの勝手な想像なんだけど、その過去を思うと、切ないんだわ。
「あ……ありがとうアリスさん……」
小さいルイスさんにお土産を渡せたみたいで、なんかわたしも嬉しい。
「だから、わたしを『おかあさん』って呼んでもいいですよ?」
そう言ったら、ルイスさんはめちゃくちゃいやそうにこう言った。
「僕より年下のおかあさんはいませんけど?」
あれー?




