第60話 叔父さんの情報をイリーナさんから聞かされる。
「イリーナさん、いらっしゃーい! 待ってましたよ!」
バーベキュー途中参加のイリーナさんもやってきた。お休みなのにごめんね、たくさん食べてくださいね!
「こんにちは……って、シャムさんが出来上がってる……」
今回は『蒼狼の風』のみなさんのお祝いなので許してあげて~。
「そうそう、アリスさん……あの、ライオネル・ロックハートって方、ご存じですか?」
イリーナさんの質問に首を傾げつつ、記憶をさらう。
ロックハートって、今世のわたしの元の苗字なんだよね。
ドリアス公爵家の養女となる前の苗字なんだけど。
ライオネル・ロックハート……。
あ、おじさんだ!!
え? おじさんの名前をイリーナさんが知ってるってことは、おじさんがサンクレルに来てるってこと?
今世、両親が無くなって、神殿に預けられる前、おじさんが独りでわたしの面倒を見てくれていたんだよね。でも王国軍にいたおじさんは、辺境の砦に配属されちゃって、わたしを泣く泣く神殿にあずけたんだわ。そして神殿からドリアス公爵家の養女になったという経緯があるんだけど……。
いやーでも、本当におじさん?
だっておじさんは王国軍に在籍してるから退役でもしない限り、海を越えたサザランディア大陸までやってこないでしょうよ。
「その人、サンクレルの冒険者ギルドに来たんですか?」
「ええ、ちょっと前に冒険者登録して、でも、ほら、なんていうか若い冒険者じゃないから、ちょっと絡まれたのよ、まあ絡む人は若かろうが自分より年上だろうが絡むんだけど」
あ~はいはい、冒険者ギルドのお約束ですね。
わたしもこのサンクレルの冒険者ギルドを初めて訪れた時は絡まれました。っていっても魅了スキルさんのせいなんですけどね!
「誰ですか?」
ルイスさんが尋ねる。ここでメルツちゃんじゃなくてルイスさんが尋ねてくるのは珍しい……いやいや、きっとルイスさんが留守中に、またまたわたしがやらかしてる相手なんじゃないかって心配してるんだろう、きっと。
「ライオネル・ロックハートはわたしの実の叔父にあたる方の名前ですが……本人かどうかはわからないですね」
「アリスおねーさんに、おじさんいたの!?」
メルツちゃんが驚いて声をあげる。
「アリスさんはメルツちゃんぐらいの時にご両親をなくして、おじさんに育てられた。でも仕事の都合でアリスさんは教会に預けられたんだよ」
ルイスさんがそうメルツちゃんに説明するけど……ルイスさん、記憶力すごっ。わたしの生い立ちの説明、一回しかしてないのに覚えてるんだ。
やっぱり魔法使いだから頭のできが違うんだろうな……。
「その人曰く「コーデラインズ大陸からきたアリスという名前の子を探している」らしいのよ。でも、最近この森の家の周りに不審者が多く出現してるし、警備隊の方にも捕まってるでしょう? 本当にご親戚かどうかわからないのに、ここにいるとはお伝えしてないの。ただそういう人物がいるっていうのは、アリスさんの方にはお知らせしておこうと思ったの」
は~イリーナさんやっぱり仕事できるギルドの受付嬢なのよね~。
「ありがとうございます」
「冒険者登録されたなら、そのうちここにも訪れるかもしれない」
ルイスさんの言葉にうなずくけれど、それが本当に叔父さんだったらの話よね。
「叔父さんだったら……とは思うけど、わからないんですよねえ」
「うん?」
「仕事で遠方に行くからわたしを教会に預けたとお話したじゃないですか。叔父さんの仕事は王国軍に所属する軍人なんですよ。あの時は、辺境の砦に配属されるからってことで、わたしを手放すことになったんですよ。年齢的には退役するにはまだ早いし……イリーナさんのお話だと、本当に叔父さんなのかは謎だから気を付けますね」
本当にライオネル叔父さんだったらいいけどな。
久しぶりに会いたいし。
わたしもメルツちゃんぐらいの頃に叔父さんと一緒に暮らしたから、叔父さんはほぼ父親同然ですよ、え? わたしを引き取った公爵家?
いや~あそこはねえ、どこの馬の骨ともわからない子供扱いだったからなあ。
もちろん、わたしに向かってその発言はなかったけど、使用人とかはそういう雰囲気バリバリ醸してましたよ。ええ。
それを思い出せば、ここの大陸にきてからの自由な感じは、本当に癒されるっていうか。
神様も今世はここで、まったり過ごしてくださいって思ってくれるのかも?
強制力も働いてないみたいだしさ。
「メルツちゃんご機嫌ですね」
メルツちゃんは本日後からこちらにやってきたイリーナさんと一緒に、べビ犬ちゃん達を抱っこしてにっこにこだ。
「そらもーお父さんが帰ってきてからべったりですよ」
わたしがそう言うと、ルイスさんに「誰がお父さんだよ」と即座に言われてしまった。
さて、そんなこんなでバーベキュー&『蒼狼の風』のみなさんの武器防具のメンテナンスを終えて、メルツちゃんが希望してるルイスさんの武器作製にとりかかり始めた。
とはいえ、魔法使いの武器は魔法だから触媒にするワンドとかロッドとか……要は杖なわけで、メルツちゃんが楽しむ工程や要素が少ないと思うのよ。
そうわたしが思ってることを呟いたら、メルツちゃんは「いずれ、ルイスせんせーみたいな魔法使いからの依頼があったら、作れるようにしておきたい」とのこと。
ランスさんとルイスさんに挟まれて、杖についての講義を受けている。
もちろん、そんなメルツちゃんと、メルツちゃんを指導するお二人にお茶やお菓子を作っていそいそと、差し入れしてるわたしです。
本日はコーヒーと、ドライフルーツの入ったパウンドケーキです。
「一息、入れてね~」
「アリスおねーさん!」
「メルツちゃん頑張ってるね」
「えへへ、だけどメルツの作った武器は、この森の周辺で使うことになるとは思うけどね! でも、やってみたいの! 頑張るの!」
わたしも頑張りたい……。
いや、わたしが頑張るととんでもない方向にいきそうだからっていうどこかの誰かさんの声が聞こえてきそうだけど、気のせい気のせい。
「あの、わたし、サンクレルに行こうかと思うんですけど……」
わたしの発言にランスさんとルイスさんは顔を見合わせる。
その顔を見合わせてる二人をメルツちゃんが見上げている。
ちょっとサンクレルの街に行って、冒険者の服を見ておきたいし、できるなら工房の方にも足を運んで見学とかしてみたい。
『シー・ファング』のお三人様のサイズを測ったり、好みのデザインや色をリサーチしたりしたい。
とにかくルイスさん所属のパーティーの衣装を作るためにいろいろ準備したいし、ついでに食材や雑貨の買い出しにサンクレルに行きたいんだよな~。
「……すみません、じゃあ、ランスさんお願いします」
ルイスさんがそう言って立ち上がると、ランスさんはOK、OKと親指と人差し指で輪を作る。
「メルツちゃんごめんね、でも、だいたい僕の方向性はさっき言ったとおりだから」
「うん……あ、はい! わかった!! メルツがんばるね! そだ、ランスおじーちゃんちょっと待ってて! アリスおねーさん! きて!」
メルツちゃんがわたしを引っ張って作業小屋から森のおうちに入る。
「何? メルツちゃん」
「え、だって、アリスおねーさん、デートなんだよね!? メルツ、おようふくえらぶの!!」
「なんで?」
「ルイスせんせーが、一緒にいってくれるんでしょ?」
「……はい?」
「もう~アリスおねーさん、ときどき、とぼけるんだから~。ルイスせんせーが、サンクレルに行くアリスおねーさんのごえいをしてくれるってことは、デートだもん!だからメルツがアリスおねーさんの可愛い服こーでねーとするの!」
……はい?




