第55話 ルイスさんおかえりなさーい
「アリスさん……ただいま」
「わ~! ルイス師匠! じゃなくて、ルイスさん、お帰りなさい~!」
「ルイスせんせーおかえりなさーい!! メルツかばん持つね~!」
メルツちゃんがルイスさんの肩にかかってるショルダー型のアイテムバッグを受け取ろうと、ぴょんぴょん飛び跳ねている。
その様子を見てべビ犬ちゃん達もキャンキャン鳴きながら、メルツちゃんとルイスさんの周りを飛び跳ねていた。
静寂を好む大魔法使い様が、こんな出迎え方をされていいのだろうか。
すれ違いざま、初心者冒険者パーティーの方々が「なんだこれ、長くダンジョン潜ってた父親が戻ってきて大歓迎してる娘たちみたいになってるよ?」そんな視線をわたし達に投げている。
そうね、長期出張もしくは短期単身赴任から帰ってきた父、もしくは兄、みたいな感じになってるよね。
わたしは、本日最後のアイテムを購入してくれた冒険者の人にお釣りを渡した。毎度ありがとうございまーす。本日のアイテム販売これで終了~!
最近売れ行きが良くて、すぐに売り切れちゃう。
やっぱりしばらく製作時間をとって、休憩所だけやろうかな~。
わたしは表玄関の札をクローズにして、振り返ると、メルツちゃんの様子にルイスさんが苦笑して鞄を渡すところだった。
それを受け取ったメルツちゃんは、すごい勢いでルイスさんのお部屋に鞄を置きにいく。ああ、そんな階段駆け上がって転んだら大変だよ、メルツちゃん。
「聞いたよ、不審者が来てるんだって?」
「はあ、まあ、その件に関して調べたいんですけど、サンクレルに行くと、また魅了スキルさんが大活躍しそうなんで、行くに行けないというか……、どうせ向こうからやってくるんだから、この森の家で籠城して迎え撃つ方がいいかと」
わたしは、カウンターに座ったルイスさんに玄米茶を差し出す。
甘味に白玉を作ったのでそれを添える。
黒蜜をたっぷりかけたかったが……そこはね、ちょっと手に入らなかったので、砂糖と醤油でみたらしを作ってみたのだ。
これをメルツちゃんに食べさせると、リスがなんか口の中にもきゅもきゅ木の実を入れてるみたいでずっと見ていられる……。
ルイスさんも玄米茶を口にして、完全にチル状態。
いや~お疲れ様です~。
「うん。それでいいと思う。一度サンクレルに戻って報告書を渡した後に、警備隊の方に行ってみた」
え、そうなんだ、まっすぐここに戻ったわけじゃなかったのね。
「やっぱりルイスさんですか⁉ サザランディア大陸指折りの魔法使いだもの、元居たお国がルイスさんの魔法を求めて、ルイスさんに接触しようとしたんでしょ!? そういうのはさ、先触れのお手紙をまずは寄こしなさいよって思いません? 依頼ならそういう手順がマナーってもんでしょ?」
「……」
「ほんと失礼しちゃうわ! どうします? クランハウスに戻った方が、そういう方面では安全が確保されるならルイスさんは一度クランハウスに戻ります?」
「……いいや……あのね、安全性を言ったら、ここの結界、サンクレル一だから」
わ、わたしの結界、大魔法使い様のお墨付きだ!
すごーい!
これまで付与魔法と魅了スキルのへっぽこプリーストと言われてきましたけども、ここにきてようやく神聖魔法を使えるプリーストっぽくなってきたってことよね?
やればできる子よ、わたし!
「ルイスせんせー、はいこれ、お着替えね、お風呂ね、入れるよ!」
メルツちゃんがパタパタとルイスさんのお着替えを持ってくる。
勝手にお着替え持ってきちゃダメじゃないの?
そういうところ、ルイスさんは潔癖症っぽいからいやがるでしょ?
そう思ってお着替えの服に視線を落とすと、うん、あれ先日の女子友サンクレルお買い物ツアーの時に、買ったやつだわ。
ちょうど各国民族衣装フェアなるものが開催されていてゲットしたのよ。
何をって? 浴衣ですよ~。
温泉旅館で用意してるような浴衣なんですけど。うっかり買っちゃったんだよね。
メルツちゃんはこれが上手く着付けられなくて、しょんぼりしていたから、サイズ測って、作り直してあげた。
丈が長すぎて、帯で抑えるにも限度があったからさ。
普段は着ないけど、ルイスさんがイースト・アイランドびいきなのを知ってるから、用意してきたんだと思う。
「メルツと、アリスおねーさんが、スースーするバスソルトつくったの! おふろにいれたからね! きっとさっぱりだよ!」
メルツちゃんがこの森の家に初めて来たときは、長旅でかなり服も身体も髪も汚れですごかったけどね、ルイスさんぐらいの魔法使いだとさ、長期間ダンジョンに潜っていても、汚れなんかは魔法で落としてると思うんだわ。
ダンジョンに潜る人をこの森の家で見かけるけど、やっぱりルイスさんはじめ「シー・ファング」のみなさんは、モンスター倒して服に返り血とかもありそうなのに、それがないもの。
まあお風呂に入って、ゆっくりしてねというメルツちゃんの優しい気遣いなので、ルイスさんもうんうん頷いてる。
そんなメルツちゃんの気遣いを見てるとわたしも、やっぱりルイスさんが好きそうな料理を作ろうかと思う。
うん、今日の夕飯はぶり大根にしよう!
お米も炊いて~久々の和食よ~。
お米を洗って土鍋にセットしたところで、顔を上げてはっとした。
あらやだ、もう外は暗いじゃない。窓の外は、遠くにオレンジ色の空がわずかに見える。
夜の結界強化しておかなきゃ。
キッチンの魔導コンロを弱火にかけて、わたしは窓のカーテンを閉め始める。
最後に、ウッドデッキに出られるガラス戸の前に立った。
神様、お願いします。
モンスターとか盗賊とか不審者がやってきませんよーに!
ここのガラス戸の一部をステンドグラスに張り替えてから、この場所に立って結界魔法をかけるようにしているのだ。
ここで結界魔法かけるのが、一番、効果があるのよね。
前庭の門扉にある小さな外灯がともる。
この明かりが灯ると、森の家の営業は終了の合図。
これは冒険者ギルドと商業ギルドに通達しているので、この明かりが灯った状態になると、ここへの訪問者はサンクレルに戻ることになる。
まあめったにこの時間は人こない、そしてこの結界をものともしないのが現状ルイスさんぐらいだ。
――あれ?
門扉に人影が……冒険者かな?
門扉に手を伸ばしてるけど、掴めないみたい。
うん、結界がばっちりかかってるからね。
「どうしたの? アリスさん」
ルイスさんがわたしの後ろから声をかける。
「ああ、ルイスさん、お風呂どうでした?」
「うん、最高でした。メルツちゃんが今入ってる。お客様がきた?」
「……あ、うん、でも時間帯的に、もうクローズだから……」
わたしとルイスさんが再び窓から門扉の方に視線を移すと、ここを訪ねようとした人影はクルリと門に背を向けて、来た道を戻っていったのだった。
うーん……きっと、急ぎならまた明日の朝一にくるでしょう。
「そうだ、お腹すいてるでしょ、なんか食べたいな~っていうリクエストあるなら、受け付けまーす」
「まって、すぐには思いつかないし! あ、ちょっと調べものがあるので、部屋に行くよ」
「はーい! ごはんできたらお知らせしますね!」
ルイスさんはお部屋へ、そしてわたしはキッチンへと向かうのだった。




