第45話 バーベキューの招待(ルイス視点)
「おー、若いのがきたきた」
サンクレルとメルクーア大迷宮都市の間の森にぽつんと存在する家。
そこにはプリーストを自称する元聖女が住んでいる。
「たいへんだったのう、あのプリーストがとんでもないもの作りおって」
「おぬしら、よくクランハウスから脱出できたなあ。魅了スキル盛り盛り付与アミュレット身に着けてるルイスのシンパがすごかったじゃろうに」
ドワーフの職人さんが樽の近くでエールを煽りながらそう言った。
「そこは、お迎えにきた女性冒険者がイリーナさん連れでやってきたから」
パーティーメンバーのギブソンが僕の代わりにそう返事を返した。
ダンジョンから帰還してからずっと、グランド・カーラントのクランハウスの内部は、煩かった。
そんな中、ついさっき、冒険者ギルドのイリーナさんと女性冒険者がやってきたので、うちのパーティー・メンバーが「仕事だ! 邪魔するなら、クラン規定違反でクラン除籍にするぞ!!」と一喝すると例のアミュレットを身に着けた女性達がしぶしぶと僕の部屋前からその姿を消していく。
イリーナさんに付き添われた女性冒険者は面識がなかったが「アリスさんの家でバーベキューしてるので、お時間があればとお誘いにきました!」とのこと。
パーティーメンバー全員が僕を羽交い絞めにして「転移魔法を早く! アリスさんのお家に!!」とか大合唱でのたまう。
昨日お邪魔したばかり……というかクレーム入れにいったばかりだし……お詫びなんだろうか。二階のベランダの特注ベッドとイースト・アイランド地方の料理でかなり魔力回復してるんだが……。
「いえ、ルイスさん、アリスさんの家に緊急避難したほうがいいんじゃないかって、ハンザさんが……現状を拝見したところ、あのアミュレットの影響がかなり出ている様子ですし……お話を伺った時はわたしもそれはちょっと……と思ったのですが、アリスさんの浄化結界聖域化は鉄壁ですから、その、万が一間違いが起きようにもアリスさんの結界とルイスさんの魔力なら、ルイスさんがかなりガチにならないと解除できないから、それはいい案かと思うんです。ルイスさんはそんな魔力全開で解除してアリスさんをどうこうしようという性格でもないでしょうし……」
確かにいくらその気になったとしても、そんなことはしない。
そこまでやったら犯罪だ。
その話を耳にしたパーティー・メンバーはというと……。
「えー! その話は聞き捨てならないが! それはともかくバーベキュー!」
「アリスさんちでバーベキュー!」
「肉……! 肉はすべてを解決するから、ルイス! 転移魔法をはよ!」
確かに、自分だけ昨日ご相伴に与ったし、アリスさんの料理は回復するから、メンバーも連れて行くのはやぶさかではないが……。
「手土産は?」
僕がそう言うと、『チェリー・ベリー』の新作タルトをシュルツがダッシュで買いに行き、戻ってくる。その間10分とか、その速さ、うちの遊撃なだけあるんだけど……才能の無駄遣い……。
すでに『蒼狼の風』のメンバーはきていて、バーベキューやらエールやらに夢中の様子だった。ちなみに彼等の手土産も『チェリー・ベリー』の新作タルトで被っていた。
シュルツがその事実に膝から崩れ落ちるけれど、アリスさんは「どうせ、バーベキューのあとみなさんでいただいちゃいますから! 被っても問題ないです!」といつもの調子でそう言って、肉やら野菜やら魚介やらを焼いていてみんなに配っている。
そんな様子を見ていたら、ドワーフの爺様達が、手招きして僕にジョッキを渡してエールを注ぐ。
「聞いたぞ、ルイス、アホなアミュレットでとんでもねえだろ」
ハンザさんがそう言う。
イリーナさんも武器職人のランス氏からエールを貰い、先ほどのクランハウス内のことを呟く。
「実際見てきましたが、クランハウス内部がすごいことになってました」
「だろうなぁ、ルイスよ、お前自身は魅了スキルとかは持ってねえよな?」
「全くないとは言えないですね。美醜によって先天的につくスキルの一つだし。でもアリスさんのとんでもない魅了スキルと比較するとないと言っていいです」
「まあ、あのプリーストはいろいろおかしいから……」
ハンザさんの言葉にイリーナさんも後の二人のドワーフの爺様二人も頷く。
そうだよね、おかしいよ、あの魅了スキル。普通にはモテるねの範囲だけど、あの魅了スキルは洗脳の類だから……そんな強力な魅了スキル見たことない。
「サンクレルに出歩いてるって聞いて、もう馬鹿なんじゃないかと思いましたよ……」
「それでな、ルイス、あんた、ここに匿われてみちゃどうだね」
「魅了スキルの大元と暮らせと?」
「アリスさんの浄化結界聖域化も、魅了スキルと同等と見ちゃいるんだが、サンクレルのクランハウスがすごいことになってるなら避難しちゃどうだ。お前の魔力はこの大陸でも指折りだし、レジスト可能じゃろ? わしらがこうやって週一でやってくるし、メルツもいる。環境としては静かでいいんじゃなかろうか?」
「僕がアリスさんをどうこうするとか考えないんですか?」
「お前さんは手を出すなんてしないだろうよ、だから言ってんだよ」
ハンザさんはアリスさんの周りにチョコチョコ歩いてる小さな女の子――メルツちゃんを見つめている。
「あの子がこの家の持ち主の孫娘っていう子ですね」
「メルツな。ベテルメージュ迷宮都市からたった一人で祖母を訪ねてきた子だ。数年後には冒険者になるかわしらみたいな生産者になるかわからんが、どっちになっても大成するとみてる」
「ベテルメージュ迷宮都市……あそこはエルフ至上主義だから……」
「母親と無理矢理引き離されて、あの土地じゃ珍しいドワーフに預けられたらしい。預けられるまではかなり虐待めいたこともされたんじゃないか? 六歳って本人は言うが、小さいだろ……飯もろくに渡さなかったんだと思うんだ」
「……」
「アリスさんがな、時々、あの子が夜中に泣きながら目を覚ますって言うんだよ」
あの元聖女なら、心を砕いて一緒に寝てやるぐらいはしそうだ……。
その傷が、修復するのに時間がかかるのは――僕自身、身をもって知っている。
「ハンザおじーちゃーん!」
ハンザさんの視線に気が付いて、パタパタと走ってくる。
「おじーちゃん達にあげる~」
「そうかそうか」
そんな傷を受けたようには見えないぐらいに人懐っこい感じではあるが。
この子は生きる為にいろんなことを見てきて、学習してるはずだ。
アリスさんも「すごく頭いいの!」とベタ褒めだったが、それは……その年で自身を守れるものを知っているから。
榛色の瞳が僕に向けられる。
「あーえーっと……こ、こんにちは、えっと、えっと、メルツです。えっと、ししょー?」
小さな子がもじもじしながら挨拶をする。
師匠ってなんだよ。アリスさんの影響だな。
「アリスおねーさんが言ってた! あの、メルツも、ししょーに教えてもらいたいの、魔法」
もじもじしてる小さい子を膝に乗せて、ハンザさんは僕を見上げる……。
「ハンザさん……貴方、爺馬鹿、全開ですね」
「否定しない。お前が『グランド・カーラント』のオスカーに救われたように、この子を助けてくれやしないか?」
「……」
「今でも自分だけで精一杯だってツラだな。ここは――……あの娘の作った聖域だから、この子もお前さんも、救われると思ったんだがな」
「……」
膝の上に座ってる小さな女の子は、白い子犬を思いっきり撫でまわしている。
楽しそうにバーベキューをしているパーティー・メンバーやアリスさんの友人達に視線を向ける。それがあまりにも僕が憧れた風景に似ていてるからだと思う。
だから馬鹿な返事をしてしまった。
「考えてみます――」
ぽろっと言ってしまったあとで、自分が言った言葉のはずなのに「え? 今、僕、何を言った?」と戸惑ったのは言うまでもない。




