第28話 迷子の名前はメルツちゃん
「ほらほら、慌てないでよく噛んで~」
冒険者の子達が食べてる時に、森で倒れていたメルツちゃんが目が覚めたらしくて、わたしはお皿にシチューをよそって、パンも添えて、タンブラーに水を入れてトレイで運んだら、そのお食事に視線釘付け。
もう食べたい食べたいの圧がすごい。
オマケに身体小さいのにきゅりゅきゅりゅきゅるるる~っておなかの音が可愛い音なんだけどすごい音。
これは食べさせないと!
……きっとルイス師匠もわたしが腹ペコになりながらサンクレルでうろちょろしてた時、今のわたしと同じ気持ちになったのかもしれないわ。
どうぞと薦めたら、ガツガツ行くね~。
よっぽど腹ペコリーナだったんだな。
「お代わりもあるからそんなに焦って食べないの、ゆっくり食べて、おなかがびっくりしちゃうからね」
二杯目のシチューを完食したところで、彼女はおちついたようだ。
「あ、あ、の、メルツといいます」
「アリスよ、ここに住んでるの」
「アニス!?」
「いいえ、アリスよ?」
「アニスさんじゃないの⁉ アニスっていうひと、エルフとドワーフのハーフがここにすんでるってきいて、メルツは、ベテルジューズめいきゅうとしからここまできたの!」
「アニスさんは病で亡くなったらしいのよ」
わたしがそう言うと、メルツちゃんはショックを受けたように空になったお皿に視線を落とした。
「嘘だろ⁉ ベテルジューズ迷宮都市ってメルクーア大迷宮都市のさらに北側じゃん!? 一人で!?」
新米冒険者パーティーのジャン君が驚いたように尋ねた。
そりゃびっくりだわ。初心者冒険者のこの子達がここまでくるのも大変だったと思うのよ、
ここはまだわたしがサンクレルまでの街道沿いを浄化魔法かけてるから、出現モンスターもわりと雑魚モンスターばっかりになってるけど、時折ママちゃんが襲撃されたヘルハウンドが出現するぐらいだから、森の深くは、もしかしたらもっと大きいモンスターだっているかもしれないんだし。
それでもまだ安全なここよりも、さらに向こう側からたった一人でここにきたなんて。
そりゃジャン君も驚くわよね。
「ア、アニスおばあちゃま……に……会いに来たの……だって、メルツのこと、みんな嫌いで、メルツのこといらないって、だから、パパのおばあちゃんに会いに来たのに、おばあちゃんいないの! おばあちゃんっ……おばあちゃん……うわーん」
メルツちゃんはそういうと、榛色の瞳からポロポロと涙を流して、それを隠そうともせずに、泣き出した。
わたしはよしよしと背をさすって、お水を勧め、メルツちゃんはお水を咽喉を鳴らしながら飲むけど、泣き止まない。
「あんまり泣くと声が枯れちゃうから、ほら、ジャン君がいうように、遠いところからやってきて疲れたでしょ? ちょっと横になろうか、そうだ、ちゃんとオヤスミできるお部屋が二階にあるから、ね? そっちいこうか」
わたしがカラになったトレイを持って、メルツちゃんを立たせると、ミミちゃんがトレイをひきとってくれた。
ありがとうってお礼を言って、メルツちゃんを二階の客間へ案内する。
ここは先日シャムさんが泊まってくれた時に使ったお部屋なの。
ベッド本体もベッドマットも寝具も、リノベーション時にわたしの部屋同様、おニューで揃えたのよね。
ちょっと大きいけど、わたしの作った予備のパジャマを着せて、休ませる。
メルツちゃんは泣きながらベッドに横になった途端、秒で眠った。
おなかいっぱいになったのもあるんだけれど、これは、多分かなり疲労が溜まっているんだろうと予想できた。
頼むわよ、わたしの作ったパジャマ&リネン……メルツちゃんを回復させてあげて~。
カーテンをひいて、お部屋を暗くして、そーっと、わたしはお部屋を出て、一階に戻ったのだった。
「あら、みんな食器片づけてくれたの⁉」
一階に戻ると、新米冒険者の子達は、自分達の食べた食器(メルツちゃんの分も含む)を洗い終えて拭き終えたところだった。
「ご馳走様でした」
「おいしかったです」
「せめてこれぐらいは」
「ね?」
やーん。なんていい子達なの⁉
オマケに、ご飯代がないからって庭の草刈をやってくれた。
うわーありがたい。
最近はシェラフ作りでなかなか庭の手入れができてなかったのよ。助かる~。
わたしは彼等が草刈している間に、イリーナさんあてへの手紙をしたためて、今朝できたばかりの1パーティー分のシェラフをいつものちっさい巾着袋型のアイテムバッグに詰め、書き終わったお手紙を添えた。
「さ、そろそろサンクレルに戻らないとダメだと思うよ。この門扉を出てまっすぐに行くと、大きな街道に出るわ。左に進むとサンクレル、右がメルクーア大迷宮都市なの、今から歩いて帰れば、サンクレルにはちょうど夕方になると思う」
「ありがとうございます、アリスさん」
「草刈もしてもらって、心苦しいのだけど、お願いがあって……この手紙と巾着袋を、冒険者ギルドの受付、イリーナさんに手渡してほしいの」
「それぐらいお安い御用です!」
「よろしくね」
「はい」
彼等は揃って返事して頷いていた。
ママちゃんとアインとツヴァイもわたしの側にとてとてとてとやってきて、新米冒険者達を見送る態度。
「じゃあ、今度は迷わないように気を付けてね」
「はい、ありがとうございました!」
「また来てもいいですか?」
「いいよー、でも留守にしてたらごめんね、わたしもサンクレルにちょいちょい出向いてるのよ、留守の時はサンクレルにいるかもって思ってね」
「はーい」
「それでは道中、気を付けて! ご安全に!」
そして新米冒険者たちを送り出して、ウッドデッキ近くの水栓でママちゃんと子犬たちの足をあらい、ウッドデッキの階段を上ってお家に入ってもらう。
子犬たちはまだよちよちで階段は降りれても昇れなかったりするので、抱っこしてお家に。
ママちゃん用に用意した餌を置くと、ママちゃんは美味しそうに食べ始めて、べビ犬ちゃん達はママと一緒だ。
さて、夕飯の支度までまだ少し時間があるから、メルツちゃんの様子を見て、シェラフ作製の続きをしよう。
メルツちゃんは、身動き一つしないで眠り続けていた。
よかった。わたし作製のパジャマ&リネンがお仕事してくれてるみたいで。
こんな可愛いのに、追放処分とか……大陸移動して思ったけどさ、異世界厳しいぃー!
空想二次元異世界転生を繰り返したわたしの立場も相当だけど、実際こういう世界観の子供って生きるの難しそうだわ。
さっき、新米冒険者の子達に頼んだのはイリーナさんあてのお手紙。
サンクレル冒険者ギルドの受付お姉さん、イリーナさんに、どうやら元の持ち主の遺族っぽい子が現れたのですが、この場合はどうすればいいのか。
問い合わせのお手紙です。
イリーナさんは近々こっちに足を運んでくれるはず。
この子は着てるものも結構傷んでいたから、シェラフを作りつつ、可愛いお洋服つくっちゃお!
目が覚めたら、お風呂に入れてあげよう。
ハンザ工務店さんのお弟子さんが独立した水回り関係の施工会社、頑張って素敵お風呂にしてくれたし。
お風呂用おもちゃとかあったら喜んじゃうかもね。
おばあちゃんを求めて三千里してきたメルツちゃん。
おばあちゃんの面影が薄い家になっちゃったけど……きっとおばあちゃんが天国で見守ってくれるはずだもの。
なるだけメルツちゃんが健やかに生活できる環境を整えないと!
よっしゃあ、稼ぐわよう。
とりあえず、お仕事お仕事、シェラフの続きを作らなくっちゃ!




