第26話 シェラフの発注キター!
その日、わたしは木工をしていた。
そこへ二匹の子犬がキャンキャン鳴きながら乱入してきた。
「やーん、邪魔しないの! キミ達のおもちゃを作ってるんだからね!」
べビ犬ちゃん――アインとツヴァイ用に木製のフリスビーを作っていたの。
厚みがちょっとあるけど軽めの木の板を用意。
真ん中をくりぬいて、これにやすりをかけて表面に絵でも描いちゃおうって思ってた。
今くりぬき作業の真っ最中よ。
危ないから邪魔しないのよ~って言い聞かせるんだけど、なんだかどうも様子がおかしい。
いつもなら、ちゃんといい子で訊き入れてくれるんだけど、今日に限ってしつこい。
はむっとつなぎ服のズボンのすそを口にくわえると、こっちこっちなの~って言ってるみたいで……。
「うん、もう、しょうがないな~そういうのも可愛いな~可愛いからって、なんでもういうこときくとは思わないように!」
と口に出しつつ、可愛い二匹に引っ張れてデレデレのわたし。
そして引っ張られるまま前庭の方に行くと、庭を囲う木枠のフェンス越し――門扉の前に人がいるのに気が付いた。
面識のない人と商業ギルドの人と、イリーナさんが庭を囲う木枠のフェンス――門扉の向こう側に立ち尽くしていた。
ママちゃんが門扉の前にお座りして、威嚇はしないけど「何の用? 怪しい人じゃないの? でもお肉を食べやすくして持ってきてくれて、うちの子といっぱい遊んでくれた人もいるな?」って感じでイリーナさんにはふんふんと鼻を鳴らして近づいて、アインとツヴァイにわたしを呼んでくるように言い付けたのか。
「イリーナさん、どうしました?」
「ママちゃんに勝手に入ってきちゃメッて感じで阻まれてしまいまして」
「ママちゃん、ありがとう、お客様なのでいいのよ?」
わたしがそういうと、ママちゃんはアインとツヴァイを連れて、庭の裏の方へ行ってくれた。
「こんなカッコでごめんなさい、今、子犬ちゃん達におもちゃを作製してて」
わたしがそういうと、みなさん恐縮してて、なんで? とか思ったんだけど、とりあえず、店舗スペースになってる玄関ドアから皆さんをお招きした。
わたしは一旦自室に戻って、お客様だからいつものようにブルーのワンピとエプロンにお着替えしてお茶を出さないと……。
つなぎのまんまでお茶出しして、お茶が不味いって思われたらいやじゃないですかー。
時間のある時にお菓子作りの腕を磨こうとしていたブラウニーをお茶うけに、コーヒーをお出しする。
この間の全員集合の時も思ったけれど、残置物の食器であるティーセットはある程度残しておいてよかったなあ。
もちろん欠けたりヒビのはいったものは処分して、スッキリしてますよー。迷子のビギナー冒険者がいつ来てもバッチコーイ!
「で、今日はどうしました? イリーナさん」
「実はですね、こちらの方は『グランド・カーラント』のクラン・マスターのオスカーさんからのご依頼で、アリスさんの作ったシェラフを4パーティー分発注したいそうなんですよ」
「あ~あれですか、お役に立ちそうですか?」
「立ちます、是非お願いします」
オスカー氏、かなり食い気味で言ってくる。
なんでも、メルクーア大迷宮ダンジョンの最前線攻略組に使わせたいとのことだった。
「わールイス師匠から、もう使用感が届いてたんですか? ダンジョン最深部にいるのにどうやって連絡とってるんですか?」
と言ってみたけど、どうも違うようだ。
イリーナさんが、冒険者ギルドの方で販売するので正式な価格を商業ギルドに持って行って相談していたら、丁度、この『グランド・カーラント』のクラン・マスターであるオスカー氏がいて、この付与バリバリのシェラフ、言い値で買うとか仰って、できれば4パーティー分欲しいっていうことで、製作者であるわたしを訪ねてきたということだった。
「アリス嬢はうちのルイスと知り合いなのか?」
「あー、えーと、はい。魔法の講義を受けてます」
「この物件浄化のクエストの時に、サンクレルまでキャリーしてもらったことがありまして、その縁でいろいろ相談に乗ってもらってたり、魔法の講義なんかもお願いしてもらってます」
「そうだったんですか」
「はい。ルイス師匠が、結構有名というか実力のある魔法使いの方で、そんな方に教えを請うにも、その、恥ずかしながらお金がなくてですね……お詫びに、今回のダンジョンアタックに、そちらのシェラフを人数分、ご用意してお渡ししました」
「え、じゃあ、うちの所属パーティーである『シー・ファング』は、すでにこれを持ってるということですか?」
「はい、お渡ししたので……ルイス師匠が今回使用してくださってれば、使用感とかもわかるんじゃないでしょうか?」
「じゃあ、『シー・ファング』の分はいらないな……このシェラフ、すごくよくでてきていて、本当に感心しました。それで是非、うちの最前線攻略組用にあと3パーティー分お願いしたいんですよ」
「あ、はい……」
「商業ギルドとしてもね、できましたら劣化版を作って欲しいんですよ」
れ、れ、劣化版!?
なんで!?
わたしが小首を傾げたところで、イリーナさんが説明する。
「あのね、アリスさんが作ると、付与がいっぱいついて、その高額になってしまうの、そりゃ冒険者の人は大枚叩いて、購入しちゃう人もいるけれど、その、もう少しお値段が優しい感じにならないかなって」
あ~そういうことか。
「付与を抑える……感じですか?」
「そうですね」
うーん。ルイス師匠に教えてもらった魔力制御を思い出しながら、やってみようかな。
「出来るかどうかわからないけど、頑張ってみます。もし、このバリバリ付与付きシェラフしかできなかったらどうしましょう?」
「それはそれで! メルクーア大迷宮都市の方へ売り出しますから!」
商業ギルドの人が目がキラキラしてる……。
「とはいえ、まず、えーと、『グランド・カーラント』さんからご依頼の、3パーティー分ですね、12個ですか、頑張って作りますね」
「よろしくお願いします」
いえいえこちらこそ、ご注文ありがとうございます。
お互い頭をペコペコ下げてる。
「どれぐらいで出来ますか?」
「えっと、全部だと、一月ぐらいですか? お急ぎとかだったらごめんなさい。なんなら、1パーティー分出来上がったら順次ご連絡するという形でいいですか?」
「そうしていただけると助かります」
「じゃ、出来上がったら、サンクレルの冒険者ギルドにお持ちしますね」
「よろしくお願いします」
「アリスさん、サンクレルの街に来てもらって大丈夫ですか?」
「全然、大丈夫です! ママちゃんが頑張ってお留守番してくれるので」
「いえ、一時間半ここからサンクレルまで一人でっていうのは……」
「多分、鼻歌歌いながら歩けば、神聖魔法がかかるので」
イリーナさんは納得したように頷く。
「こちらに新米冒険者の人はやってきます?」
「時々? 想定したより少ないです。わたしも不思議に思っていて、本当に冒険者なり立てのパーティーは迷い込んできますが、討伐依頼を始めた冒険者の方はあんまり来ませんね」
そうなんだよねー不思議なことに。
例えば、わけあって女の子だけで組んだパーティーや、かなり若いパーティーまだ十代半ばぐらいの子達だけで組んでるパーティーとか。
「あ、イリーナさん。あと、冒険者じゃない子も迷い込んできます。危ない」
「ああ~……生薬欲しさで子供がお小遣い稼ぎにサンクレルの外壁越えてしまうことがあるんです。ここまで来ちゃうのは問題ですね、サンクレルの代表委員に申告しておきます」
「よろしくお願いします」




