第16話 作業小屋から足踏みミシンはっけーん!!
さて、工務店さんがこの家の修繕を受けてくれて、残置物の整理や屋根修理、床修理、水回り、日々着々とリノベーションされてます。三日に一回はハンザさん自身も来てくれて、進捗具合も確認してくれる。
ハンザさんから直々に塗装や漆喰塗りなんかも教えてもらって、ちょっとずつこの物件、綺麗になってきてる。
「アリスさん、あんた、上達早いな。塗りが上手い」
なんて言われて、わーい! って内心はしゃいじゃったけど、いやいや、これは多分、着ているつなぎについた建築系スキルのおかげだってわかってますって。
昨日も砂壁ゴリゴリ削ってから下地塗って漆喰塗りをした。
でこぼこにならないように頑張って気を付けて塗ってる。
今日も今日とて、砂壁の砂を剥がした壁に下地材を塗るんだけど、腕をグーンって伸ばしてローラーで塗りつけてると、乳酸~乳酸が~っ! 腕に~!!
「あの、アリスさん……無理して背伸びしなくても……脚立というものがあるかと」
「はっ!!」
夢中だった、ハンザ工務店の職人さんに呆れたように言われて我に返る。
「代わろうか?」
見かねたのかな? でも時間的に遠慮はしないで素直にお願いしちゃう。
だって、そろそろお昼の準備しなくちゃー!
「はい! 続きお願いします! お昼の支度しちゃいますね!」
「まかせときー」
下地材とローラーを渡して、あわあわとキッチンに駆け込む。
「どうだいアリスさん。ちったあ家っぽくなってきたんじゃないか?」
「ありがとうございます、水回りは昨日で終わって、綺麗です! 洗面台もなんか新しく作ってもらっちゃって」
「いいや、こっちも飯まで作ってもらってるからな」
「だってここ、サンクレルの街とは違って定食屋もないですし、元は食事処だったからキッチン回りは充実してますから、でも『うさぎの足跡亭』の女将さんみたいな料理上手でもないから、味は我慢してもらうしかないんですけどね」
「いやいや、アリスさんの手料理は美味いよ。うちの連中もいつもより気合入ってるんだわ。二名ずつこっちに寄こしてるんだが、うちの連中が俺も俺もでうるさくてな」
お世辞でも嬉しい。
これも魅了スキルのせい?
ううん。多分このエプロンのせいでしょう。
ぱぱーん。
時空神の贖罪を受けし元聖女が作ったお料理用エプロン
着用時お料理スキルの上昇。魅了スキルの上昇。
器用☆☆
錬金☆☆
調理☆☆☆☆
備考:本人がイマイチな調理をしても補正される。
今日は白身魚のフリッターに、貝のスープ、ピクルスをちょこっと添えて、あとはふんわりふかふかベーカーリーさんのパンです。
ハンザさんがオーブンも手掛けてくれる。
本日リノベーションにきてくれてる工務店の人は2名、ハンザさんを入れて3名。そしてわたしも一緒にお昼を食べる。
初回にお昼を出したら、お弟子さん達がキッチン回りも見てくれて、ハンザさんもまたキッチンまわりを見てくれて、調理器具を選別して、古いものは回収して、新しいのに取り換えてくれた。
包丁とかフライパンとか鍋とか、まな板や調理台天板なんか手ずから作ってもらっちゃった。
いいのかしら? とも思ったんだけど、ハンザさん曰く「うちのがすまねえ、せめてこれぐらいはさせてくれ」と言ってやってくれたんだよね。
思いがけないところを新しくしてもらったので、落ち着いたらお料理も頑張ろう。
お食事処は無理だけどさ。
「それでアリスさんよ、前の持ち主アニスが使ってた作業場をちょっと見せてもらってもいいか?」
「あ、はい。わたしもハンザさんに見てもらいたいなって思ってました。ご案内します」
お食事終わって、ハンザさんを作業場に案内する。
作業場って小さな離れって感じなのよね。
わたしじゃ、何をどうしていいかわからないから、ハンザさんが使えそうな物があれば持って行ってもらってもいいかなって思ってたんだ。
「あいつ……ラーゴの会社と一緒に魔導具作成してやがったのか……」
作業小屋に入って、ハンザさんはあちこち埃を払う。
小屋の中の作業台にある埃をかぶっていたなんか図面みたいなものが書き込まれていた用紙を摘まみ上げてそう呟く。
ハンザさんがいうには、以前ここにお住まいのアニスさんは、サンクレルで有名な魔導家電の第一人者と共同で、いろいろ個人で作ってたみたいだ。図面以外にも契約書とかも出てきたのよね。
この作業部屋の中をハンザさんは部屋の作業台から棚、小さな炉、そして部屋の片隅にある布が被せられたもう一つの小さな作業台……多分作りかけか何かの物体があるんじゃないかな……。布に覆われて、台の上にこんもりとした、いかにも何か置いてますよっていう形が見える。
ハンザさんはその布が覆っている小さな作業台に近づいて、わりと勢いよく布を外した。
わーん! ハンザさん!! 埃がっ!! わたしは慌てて小屋の窓を開け放つ。
はー折角だから、この作業小屋もお掃除しないとなー。
「アリスさん」
ハンザさんの声に、開け放った窓から視線を部屋の方に戻す。
肩越しに見えてるのは……。
「え……これ、ミシン……?」
ハンザさんが小さい作業台からバサアッって外した布からでてきたのは、足踏みミシン!!
黒い本体に飴色の台座、台座の両サイドには小引き出しが二つずつついて、右側には大きなバンドホイール。
窓際から、ミシンの前まで近づいて、マジマジと見つめる。
「魔導ミシンがサンクレルの街では主流だし、各国に流通してるから、こいつはいわゆるアンティークってやつだな。レッグ部分も踏板部分も問題ないがベルトは劣化して伸びきってる。糸も経年劣化してるが……ボビンなんかは大丈夫だ。針も問題ない」
ハンザさんがいろいろチェックしてくれてるけど、解説が耳にはいってこなーい!!
テンション爆上がりなんですけどー!!
ひゃ~すっごい可愛い~アンティーク感がめっちゃお洒落だよお!
レッグ部分と踏板部分は同じ素材、鉄? 真鍮なのかな? 唐草っぽい模様が透かしのように入ってて、本体と同様黒く塗装されてる。
はわ~古いのに小引き出し部分はスルっとスムーズに動く。
中はボビン、糸、針、鋏がそれぞれ入ってて糸は残念、強度が……。
「椅子がねえな」
「いや、作ります! 作りますから!! わたし!!」
白木で丸いスツールとか可愛いよね⁉ いやいや、台座と同じ色に合わせた飴色にした方がお揃い感が出る?
「この作業小屋に置きっぱなしだと、使いづらいだろう。おーい、お前等、ちょっといいかー!」
ハンザさんが小屋から出て、本日家の修理に来ている職人さんに声をかける。
職人さん達はハンザさんに呼ばれてすぐに作業小屋にきてくれた。
ハンザさんがミシンを指さして言う。
「こいつを家に運んでくれ、この小屋に置いておくと、アリスさんが入り浸っちまう」
そ、そんなことはないですよ? ない……んじゃないかな? 自信ないわー。
「ういーす、どこに運びます? 2階っすかね?」
「アリスさんの寝室の隣の部屋でいいだろ、二階はホールに部屋も四室もあるんだ。一室作業部屋にした方がいいだろう」
「了解っす」
職人さんは二人がかりで、ヨイショヨイショとわたしの部屋の隣にミシンを置いてくれた。
わたしの隣の部屋は、一番最初にハンザさんがいろいろと壁紙の塗装とかを教えてくれたお部屋なので、壁や窓枠、棚なんかは、わたしの今使ってる自分の部屋よりも綺麗なの。
まあ、何もないお部屋なんですが、そこにミシンがあるだけで、なんかここがわたしのお仕事場って感じになったよ!
やったあ。




