第40話 ハッピーエバーアフターに乾杯を!
わたし達がサンクレルに戻ったのはそれから一か月後だった。
なぜそうなったのか。
あのあと、すぐにサンクレルには戻れなかったのです。
ルイスさんがサンクレルとメルクーアの偉い人から足止めくらってしまい、転移魔法が使えなかったことが理由その一。
その間、わたしも、プリーストとして、邪教信者の状態異常を解除というか……改宗作業をしていた。
最初は普通に邪神なんかを祭らないように、かといってわたしもなんちゃってプリーストだからさあ、当たり前のこと? 人を生贄に供物を捧げて願い事なんてしないようにって説教するぐらいだったんだけど……。
「埒あかないよ、アリスたん! ライブやろうよ!」
って、言い出した奴がいた。
人に向かってペロペロとか言っていた冒険者よ。
ほんと、お前どこのイベントプロモーターだよと思ったね。
ペロペロ冒険者の一言で、シュティーアからベテルジューズまで一緒にきてくれた冒険者達もノリノリになり、イリーナさんからも「確かに埒があかない。あの狂った連中はここから出すな言われてるし、申し訳ないけど、アリスさん、なんとかして」
いやだから、説法してるじゃん……。
しかしここで、メルツちゃんが声をあげる。
「メルツ、ジャック君から聞いたよ! アリスおねーさんが、シュティーアで歌って踊ってメルツとマリアおねえさんを探すようにいってくれて、あのへんな信者も態度を変えたお話、メルツも見たいよ!」
「……メルツちゃんも一緒にやるならいいよ」
「わかった! ジャック君もやろ! みんなでやれば、いいと思う!」
意外なところからノリノリの意見が。
でも、メルツちゃんのママのこともあるから、少しでもそれでメルツちゃんが元気になるならいいのかな?
「アリスおねーさん、ママのお墓に、いつもお祈りしてくれてるから、きっとママも見たいよ! メルツ、アリスおねーさんが、ミシンしてるとき、ふんふんーんって鼻歌歌ってるの、大好きだもん!」
そこまで言われてしまえば、やるしかないでしょ。
てなわけで、場所と時間とかのセッティングはペロペロ冒険者が率先して、あれこれしてくれたけど……目的を間違えてないよね?
その舞台の演出効果(ライトとか火魔法での花火っぽい効果)、なぜ思いつくの?
狂信者改宗の為にやるんだけど? わかってるのかな?
最初はその舞台セッティングに驚いたけどさ、ソロで二、三曲歌った後はメルツちゃんや、ジャック君や、イリーナさんや、マリアさんもステージに上げて、歌ったり踊ったりした。
踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃソンソンですよ。
最後は調子に乗った冒険者や、他のギルド職員とかも舞台にあがって、みんな笑顔。
その結果――狂信者の改宗、はるばる遠方から再建の為にやってきた人達の息抜き、ベテルジューズにて同胞を亡くしたエルフや、それまでひっそりと暮らしていたエルフ以外の住人も、元気になったよ。
恥ずかしかったけど、まあいい方向にいくならヨシ!
そのあと、シュティーアに向かったの。ルイスさんの転移魔法でまっすぐサンクレルに帰れないのは……ルイスさんが偉い人から今回の件でいろいろと事後処理を頼まれるからなんだよね。ギルドやら行政部やらに顔がきくと大変……。
わたしもちょっと気になっていたシュティーアの宿屋の女将さんに顔を見せて、「その後、シュティーアどうですか?」って尋ねると、「以前みたいに戻ったよ」って、にこにこして、メルツちゃんを見て、「あら! よかった! 無事に見つかったんだねえ」なんて言って温泉チケットをくれた。
シュティーアって温泉あるんだ。
ダンジョンで傷を負ったりした冒険者が湯治にも利用するぐらい効能がいいらしい。
マリアさんとメルツちゃんと一緒に温泉に入って、宿屋の女将さんの美味しい食事でなんとか全員一息ついた感じ。
ルイスさんの用事がそろそろ終わるかなってところで、シュティーア冒険者ギルドから、なんとわたしに指名依頼がきて、シュティーアダンジョン浄化をしろって。
そりゃ、メルツちゃん達を捜す為にシュティーアダンジョンの入り口付近にちょこっと入ったけど、また入るの嫌すぎる。
どうして指名依頼よと思ったら、あそこも邪神教の祭壇入り口に作られていたじゃない?
それは冒険者のみんながぶっ壊したんだけど、最近入り口付近に、結構アンデッド系がわっさわさ出るらしいのよ。これは邪神教のせいなんだろうけどさ。
このシュティーアはなんか獣人系の冒険者に人気あるのよね。
ほら、獣人の人はアンデッドあんまり得意じゃないから。
シュティーアのダンジョンアタックは初速が必要とされる。そこには、獣人の人の速度が必要らしいのよね。
ルイスさんもウィルさんも言ってたけど、潜ったら速いのが獣人パーティーなんだって。
それにシュティーアダンジョンの一階層。
拉致られて生贄にされてる人がいたっぽいし……。
それを聞いたらやるしかないでしょ。
とりあえず、被害者の魂にお祈り、そして浄化魔法の天使の梯子をかけて、シュティーアダンジョンに入ったらすぐにアンデットとエンカウントっていう事態は回避できた様子。
これでシュティーアも以前のようにダンジョン攻略が捗って、スタンピードが回避される確率を高めるに違いないよね。
そんなこんなでわたし達が無事サンクレルに戻ったら、あんなに暑かった夏の空気はどこかに行ってしまい、秋の空気になっていた……。
「マリアさん、デイジーさん、こっちの串焼き肉と串焼き野菜、持っていってくださーい」
「「はーい」」
今日はジャック君のお宅の人と、ベテルジューズから戻ってきたドワーフのご隠居様と、一時帰宅してるイリーナさんと、『シー・ファング』のみなさんと、ケイトリンさん夫婦を交えて、久々のバーベキュー大会です!
4つの都市にまたがるベテルジューズ邪教事件は終息し、現在はようやく通常運転に戻ったことで、森のおうちでお疲れ様会を開催しようということに。
それでも残念ながら不参加の人もいるけどね。
例えば、「蒼狼の風」のメンバーなんかは現在シュティーアダンジョン攻略中らしいし、ユジンさんはハンザ工務店が請け負った依頼で、ベテルジューズ再建のため、そっちに出張中だったりね。
「イリーナさんも長期出張お疲れ様でーす。たくさん食べてね!」
「あ、ありがとう」
「イリーナさん……やつれてるわ」
「冒険者ギルド、ブラックなんじゃないかと思ってたけどねー」
「いやいや、イリーナさんが、仕事抱え込むタイプだからだろ」
みんな一時帰宅のイリーナさんをねぎらう。
「ステラおばあちゃん、柔らかお肉も焼くし、シーフードも焼くので、食べられるの食べてくださいね!」
「ありがとうアリスさん」
メルツちゃんとジャック君は相変わらず、ドワーフの御隠居様達に囲まれてる。
ステラおばあちゃんも一緒だ。
「アリスさん、おにぎり持っていきますね」
「お願いしまーす」
今日はステラおばあちゃんがスイートポテトを作ってもってきてくれた。
これはもう絶対美味しいやつだわ。
バーベキューの最後にみんなでいただこう。
わたしは庭の様子を見て、ああ、いつもの時間が戻ってきたなって実感した。
「アリス、乾杯だって」
下ごしらえをしてたらルイスさんがわたしに声をかける。
「え、もう始まってない?」
「まあそれとこれとは別なんじゃない?」
「え~」
「『え~』じゃなくて、早く」
森のおうちのいつもの庭に、この大陸にきてから仲良くなった人達が、わたしを待ってくれてた。
この風景が、わたしは好きだ。
わたしはグラスを持って、庭にでる。
アルコール抜きのリンゴのシードルがグラスにつがれて、みんなわたしを見てる。
では僭越ながら!
「わたしもみんなも、元気で楽しく幸せで日々をおくれますように!! 乾杯!!」
二部かもしれない、これにて完結。
完結済つけておきます。お付き合い、ありがとうございました。
のんびりだらりスローライフものですが、二部はなんか冒険色強くなりました。
三部もしかしたらやるかもですが、時間がかかるので。一応キリが良いところで完結マークを。
ブクマ、☆評価等々、まだの方ぜひよろしくお願いしますm(__)m




