第21話 宿屋の女将さんのお願い
「ダンジョンの入場規制は、さっきの巡礼服きていたそのオリジン教?」
ルイスさん怒ってるな……。
綺麗な顔が能面みたいだよ。
「そうだよ。ひどいだろ? ダンジョンは冒険者を入れてなんぼだろ? まだあいつらがそんなに増えなかったころ、冒険者たちがごり押ししてダンジョンに潜るのもいたけど……戻ってこないんだよ」
「えーとダンジョン潜って戻ってこないって、どのぐらい?」
「一年はいかないけど、季節は3つになったよ」
ウィルさんとルイスさんとわたしとジャック君は顔を見合わせる。
ジャック君もウィルさんやアーサーさんがいるから、理解してる。
ルイスさんみたいに専門の冒険者でも、三シーズン越え――つまり10か月近くダンジョンに潜るとかありえないのだ。
アイテムバッグにもりもり食材や生活雑貨を持ち込んで潜っても、半年以上ダンジョンにいるなんて、そうはならんやろって表情だ。
「ダンジョン規制を宗教団体が行ってる時点で、サザランディア大陸ではまずないから」
ルイスさんが言うには、迷宮都市盟主を持つ地域もあるけど、盟主だってそんなことはしない。スタンピードを防ぐために、モンスターを狩れる冒険者を率先して送り込むし、冒険者はアイテムを換金して生活をする。
「あんな状態じゃスタンピードが起きちまうよ。あんなことしてたら絶対なるから!」
ダンジョン内でモンスター飽和状態で、そりゃなりますわ。
「なんであいつらをそのまんまにしておくんだよ、都市のみんなで抗議できるだろ」
「したさ、でも、あいつらはそれを起こさないために、我々の神に願うのだとかぬかしやがる」
「その、よくあれだな、冒険者だからこう力技で衝突するだろ」
「なったよ! でもしばらくするとあいつらまたやってくんだよ! しかもあいつら、武力を使わないんだよ、数はいるけど、無手の相手に武力で蹴散らすと、こっちも後味悪いじゃないか、あいつらは、力のない者に暴力を振るうとは神の怒りが下りるとか、信仰者っぽいことをいうわけよ」
「あいつら、攻撃に抵抗しないのか⁉」
「そうなんだよ! でもどこからかわいてくるんだよ、ゾンビみたいで気持ち悪いだろ」
ウィルさんは唖然とした。
暴力は振るわないのか……。
やられっぱなしでも湧いて出てくるとか。確かにゾンビみたいだなあ。
「ここらの冒険者もほかの迷宮都市に行くんだけど……やっぱ家を買って拠点にしてるのもいるだろ? 家族持ちとかさ、例えば帰ってこない冒険者を待っている家族なんかも、いつの間にか姿を消してて、気味悪いんだよ。あたしも商売してなきゃ逃げ出したいさ……」
「冒険者ギルドはどうなってる?」
ルイスさんの言葉に、女将さんは頭を抱える。
「噂じゃ、このオリジン教に染まってるらしい。冒険者ギルドにも入れないんだ。あいつらが張ってるから。あんたたちも、ここは稼げないから、とっとと地元に帰った方がいいよ。できればメルクーア大迷宮都市の冒険者ギルドに伝えてくれないかね」
「女将さん、わたしたち、ダンジョンに稼ぎにきたわけではなく、クオーターエルフの6歳の女の子と、二十歳ぐらいの女の人を探してるんです。転移魔法で連れ攫われてしまったの」
「見たことないわねえ、エルフの血が入ってる子? それってベテルジュースの方に行ったんじゃないの? ここもベテルジュースには近いから、エルフの冒険者は見たことあったけど……噂なんだけどさ……オリジン教の連中が、エルフの冒険者を連れ去ったのを見たっていう話があってね……」
ルイスさんは金貨を2枚ほど女将さんに握らせる。
女将さんは金貨に驚いて渡したルイスさんの顔をまじまじと見上げる。
宿屋に泊まるには大盤振る舞い、どこのお大尽様だという感じかな。
「ありがとう、よく耐えてくれました。この件はメルクーアには知らせます。ただ、僕等は彼女が今言った二人を探してる。しばらくここにいることになるがかまわないだろうか?」
女将さんは安堵したように溜息をついて何度も頷く。
「わかった」
隅っこで何かごそごそしていたジャック君が女将さんに進み出る。
そして紙を女将さんに渡した。
「ぼくたち、このふたりをさがしてるの、おかみさんの知り合いの人にもきいてください」
いつの間にか隅っこでジャック君がごそごそやってるなとは思ったけど、似顔絵描いてたのか。しかもうまい。
モノクロだけど。
二人の髪色や瞳の色も文字で、横に書いてる。
「あら、上手だね、声をかけてみるよ」
なんでこんな小さい子を連れてるんだろうって思ったに違いないけど、こういうの見せられると、「あ~こういう特技があるから連れてるのか~」とそんな納得した感じの女将さんだ。
「おねがいします」
女将さんが出て行ったあとで、再び四人になって、互いに視線を合わせる。
「口を割らせるか」
わたしがぼそりと、そう言うと、ウィルさんがぎょっとしてわたしを見る。
「あ、あ、あの、アリスさん?」
「まあ、そうだね、アリスしかいないね」
ルイスさんが言う。
「アリス、怖くない?」
「そうねえ、怖いけど……遠慮なくやってみるわ」
わたしが壁にかけていた錫杖を手にする。
「アリスさん、相手は別宗教の狂信者集団っぽいじゃないか……どうする気だよ」
決まってるでしょ、信仰よりも連中の精神にダイレクトアタックかます、わたしの魅了スキルさんの出番ですよ!




