第15話 ざまあヒロインの「ひどいわ」ご清聴ください
ドワーフの店主さんはメルツちゃんに謝って、気に入ったインゴットがあれば一つ上げるよと言ってくれた。
メルツちゃんは、ここぞとばかり、ヒヒイロカネのインゴットを希望した。
「メルツこれで、ジャック君の武器、つくるの」
子供と思って舐めてたんだろう。
うちのメルツちゃんは、現役引退のご隠居様とはいえ、サンクレルの武器職人ランスさんと一緒に武器を作っちゃうんだよ。素材の良し悪しの目利きはお手の物ですよ。
ドワーフの店主は涙目だった。
えーヤダー、たった今、言ったじゃないですかー。
店主のドワーフさんよりも、わたしの涙は魅了スキルさんがたっぷり効果をもたらすのよ。
ドワーフの店主に負けじと、わたしはうりゅりゅっと瞳に涙を浮かべる。
「店主さん……今、ご自分で言ったばかりなのに……メルツちゃん可哀そう……」
わたしがそう零すと、店内にいるお客さんたちがわたしに釘付けになる。
「おい、店主、こんな若いお嬢さんを泣かすもんじゃないよ」
「だいたいさっきの態度もよくないんだからさあ、気前よくインゴットの一つや二つポーンとくれてやれよ」
……気前よくとかお客さんが言うけど、そのインゴット、多分普通の冒険者二か月分の生活費はあると思うけどね!
ルイスさんさりげなく状態異常レジストして、気配を消しはじめて逃げの態勢。その速さといったら……。
「アリスおねーさん、メルツ、こういうの、やつあたりされたっていうの?」
わたしは気づかれないように呼吸を深くしてから一言。
「そうね! 《《ひどいわ》》!」
はい、ここにいる皆様、ご清聴くださいませ。
元ざまあヒロインから「ひどいわ」発言ですよー!
ささ、遠慮なく、魅了スキルさん、やっちゃってください!
この発言で魅了スキルさん効果爆上がりするのは経験上からわかってます。
ここで瞳で貯めた涙を一滴零すと、他のお客さん達が店主をにらみ、わたしとメルツちゃんを宥め始める。
「わかった! わかった! 悪かったよ、お嬢ちゃん! ほらもってけ!」
ドワーフの店主がヒヒイロカネのインゴットをメルツちゃんに渡すと、メルツちゃんは「わーい! ありがとうー!」と声をあげる。
気配を消してたルイスさんがメルツちゃんが持ち上げてるインゴットをメルツちゃんのリュックにしまってあげてる。
まあね、ちょっと同情するところもあるから祈っとくか。
「ありがとうございます。ご店主の今後の健康をお祈りしてます」
そう言ってちゃんと祈ってやる。
エルフに誘拐されて、廃ダンジョンに捕らえられたっていうし、そういうへんな悪運がついてこないように。どうかこの店主さんに平穏無事な日々が訪れますよーにっ!
わたしとメルツちゃんとルイスさんがお店から出ていくとき、店主とお客さんがドアで見送るような状態だった。
店から離れるとルイスさんは呟く。
「とんでもない……魅了スキル……アリス、それをあまり使いすぎないように。特に一般市民には」
ルイスさんの苦言にわたしは首をかしげる。
「えーと、それじゃあ、冒険者にはやっていいってこと?」
「モンスターにはいいけどね」
「モンスターに効果はなさそう~。でも~ちょっと試したいわあ」
ごり押ししてくる冒険者ギルドの依頼なんかね。
「イリーナさんにやってみるのもいいかしら?」
「あの人の魔道具、状態異常レジストもできるから」
「あの眼鏡、そんな効果もついてるの?」
「うん」
え~すごーい。
「じゃあ他に無茶ぶりな依頼持ってきた人にする~」
そんなこんなで、その後、わたしは手芸店に入って、いろいろ生地や糸なんかを見たり、スナップボタンやバックルやDカンとか、ファスナーを発見して思わず買っちゃった。これで手芸の幅が広がるわ。
このお店、また来よう!
「なかなかお買い物天国ですな」
わたしがそういうと、メルツちゃんも「ですな」と真似っこする。
「なんかいっぱい買っちゃったな~」
「でもメルツのリュック、まだ入るよ~アリスおねーさんが作ったリュックいっぱい入るの」
わたしとメルツちゃんのお買い物は今メルツちゃんのリュックに入ってる。
さすがアイテムボックス容量(大)
「そうねえ、ルイスさん」
「うん?」
「せっかくだから、おすすめの食材を売ってる店を教えてください」
「わ! アリスおねーさん、美味しいのつくってくれるの⁉」
うふふ。
美味しいの作ってメルツちゃんのおなかをぱんちくりーんにしちゃうぞ。ルイスさんもね!
でもルイスさんは全部魔力に還元されちゃうんだろうなあ。




