第13話 安住の地
「イリーナさんみたいなギルド受付嬢でも依頼があったらダンジョンに潜ったりするの?」
私がそう尋ねると、イリーナさんは腕を組んでう~んと唸って俯く。
「昔はねえ~あったのよねえ~最近は少ないかな。まったくないわけではないけどね」
イリーナさんはダークエルフだから……見た目は二十代前半だけど、見た目より長生きしてそうだし、昔といったら昔なのかもな……。
「アリスさんがさ……初めてサンクレルの冒険者ギルドに来た時のことを、私は今でも覚えてる……。ふわふわした砂糖菓子みたいな女の子が法衣服を着て、冒険者ギルドの扉を開けてきた時――……すごくドキドキしてそうで、だけどこれから起きることが絶対に楽しいって信じてるキラキラした瞳で、それが魅了スキルだっていうのはわかってたけど、この子はこの街を最初から好きになってくれそうだなって思ったの。メルクーア大迷宮都市のスタンピードが秒読み段階でも、海外から来た人は、そんなこと知らないから、ひたすらわくわくしてる感じが可愛かった」
そういうこと言われちゃうと。わたしでできることならやります! とか言っちゃいそう。
でもできるかどうかわからないから、できるって自分の中でわかってることしかできないよ~。この間の除霊というか浄化も博打要素が強かったし。
「そんな女の子が、まさかここにきて、レッサーデーモンを浄化するに至るまでになるなんて、あの時の私は想像もしてませんよ」
「……でも、あの、その、そういうことしかできないですよ。行方不明者を探さすとか……」
「実は……行方不明者の半分ぐらいは、ノースサーティー廃ダンジョンの奥で死体で発見されたのよ」
「そうなの⁉」
「嫌な予感がするの、メルクーア大迷宮都市の、ちょっと北よりのシュティーア迷宮でも、行方不明者が増加してるみたいで……」
行方不明者の被害が拡大してるってことか……。
それをわたしに話すってことは、やっぱり、そっちに行って、浄化してほしいって依頼があるかもしれないって、思った方がいいのかな……。
「そのせいなのか、そこよりさらに北のベテルジュース迷宮都市が、都市封鎖を発表してるのよ」
ベテルジュース迷宮都市って、メルツちゃんのママがいるところか。
イリーナさん曰く、エルフだから排他主義というか。
イリーナさんがこのサンクレルに居を構えることになったのは、ベテルジュース迷宮都市が行った20年前の、ダークエルフ弾圧から逃れる為だったらしい。
え~よく無事だったな~イリーナさんもメルツちゃんも。
ここ数年はそういう施政は行ってないらしいけど、最近になって迷宮都市封鎖がサザランディア大陸全土に知らされたんだって。
「昔から、いい印象はないのよね、ベテルジュース迷宮都市……私みたいに、一度、あそこからでたエルフもいるけど、最近連絡とれなくて……行方不明者も北に向かうほど増えてる現状だから、何かあったんじゃないかなって、個人的に不安になっちゃったのよ。無理言ってごめんね」
都市施政のお偉いさん達はメルクーア大迷宮都市がスタンピード阻止に成功したから、何かあればメルクーア大迷宮都市とサンクレルが受け入れ可能だろうからいいだろって、そういう思惑があってベテルジュース迷宮都市が都市封鎖したんだろうっていう意見らしい。
封鎖してベテルジュース迷宮都市にスタンピードが起きたらどうすんだろうね……。
サンクレルとメルクーアはスタンピード阻止成功した街だから、きっと他の迷宮都市からの移動してくる人口も増加されるって予想があって、都市施政の上層部とか各ギルドの上層部が今めっちゃ忙しい様子。
まあ生まれ育った故郷が一番って人は多いだろうけど、子供が小さいと、いつスタンピード起きるかわからないから子供の為に移動しようっていうファミリー世帯が多いそうな。
そうなると、やっぱりサンクレルやメルクーアの冒険者ギルドは、他の迷宮都市に冒険者派遣とかしそうよね。
ルイスさんとかさ……。
転移魔法ですぐ帰ってくるよーとはいっても、ダンジョン内は魔素の関係で、転移魔法使うと通常よりもごっそり魔力が消費されるっていうし。
「冒険者の人は怖くないのかな……」
「怖いけど、スタンピードを止めるのが、未来に繋がるって言ってた人がいたわね。この大陸は王政じゃないから……、みんなでよくしていく大陸だから、自分に力があればそれを使うことは嫌じゃないって」
「へえ~かっこいい~」
わたしがほえ~と呟くとイリーナさんはにやにやする。
「アリスさんの店子さんなのよ、それ言ったの」
ルイスさん⁉
何それ、見た目だけじゃないの⁉ 中身もイケメンか! 惚れてまうやろ!
怖い怖い言ってるわたしが、ダメッ子に思えてくるわ。
「わたし、そんなルイスさんみたいな力はないよ……」
このサザランディア大陸は好き。
サンクレルが好き。
ここにきて良かったなって思う。
ここは、イリーナさんもルイスさんもメルツちゃんも、過去にいろんなことがあってたどり着いた安住の地なのかもな
わたしもか……。
「ダンジョンに潜らない方法で、何かできたらって考えてみる」
「あら、今まで通り浄化でも大丈夫よ」
「自分の為でもあるから、店子さんがカッコいいこと言ってるから、わたし、単純なんで影響されちゃうんですよ」
後日、森のおうちからメルクーア大迷宮都市までの街道をメルツちゃんとルイスさんと一緒に歩くことになった。
わたしとルイスさんの間にメルツちゃんがいて、両手をつないでる。
端から見たら、なんだ、この親子みたいに見えちゃうだろうな。
「メルツ、メルクーア大迷宮都市は初めてかも?」
「そうなの?」
「ママのところからおばあちゃんちに行くとき、外壁周りを回って森に行ったから、街には入ってないの。ただ、外壁の管理人さんにはサンクレルの方向を聞いたのよ?」
あっぶねえ~、この子本当にそうやって都市の中に入らないでやり過ごしてきたんだろうな。
子供だからってだけではなくかなりそうやった遠回りをして森のおうちを目指したから、一年かかったのかもしれない。
メルツちゃんの発言を聞いて、わたしはルイスさんを見ると、ルイスさんも、おんなじこと思ってそう……。
「あー! セッテムゲットがいっぱーい! ルイスせんせー、いるー?」
メルツちゃんが声をあげる。
わたしとルイスさんの手を放して道端に咲いてる花の傍に寄って、しゃがみこむ。
なんでルイスさんいるになるの?
「セッテムゲットはね、魔力ポーションの素材だからだよ」
わたしがキョトンとしてたので、ルイスさんが説明する。
「魔力ポーション!」
「そうだよ! ジャック君のマリアお姉さんはね、ヒーラーだけど、薬草を煎じてポーションも作ってるの! 前は病院におつとめしてたけど、今はジャック君とおばあちゃんのためにおうちに戻ってから、時間のある時に、ポーション作って、ギルドに卸してるんだって!」
……それだ!
わたしにもできそうじゃないの⁉ ポーション作り!




