オヤジ墓参る
―― そうだ、月命日が近いし、天気もいいから……
今から行ってくるか。
オヤジがそうつぶやいて立ち上がったので、俺も慌てて立ち上がった。
剣をどうしようか迷ったが、とりあえず腰につけてオヤジの後を追う。
ここにだって、何があるか分からないからな。
かなり久々の休息だった。
俺はあの日から初めてのことだったが、実家に寄っていた。
オヤジは相変わらずだったし、俺のことなど全然見ようともしない。話しかけもしない。
それでもいい、少しでもオヤジについて居られれば、と俺は寺の階段を上がるオヤジの後についた。
ずいぶんと、上がるのに時間がかかるようになったな。
オヤジはおぼつかない手つきで箱から線香を出し、これまたおぼつかない手つきでライターをひねった。
しょっちゅう煙草を吸うくせに、だんだんとライターの扱いもたいへんになってきたようだ。何度も失敗していたので、俺はさりげなく手を貸した。
「近頃は、火のつきが悪くてかなわん」
オヤジはそう舌打ちをしただけだった。
墓の前でしかし、手も合わせずにいつにない表情でオヤジは墓石に向き合って立っている。
横からのぞき込んでみたが、かなり神妙な顔だ。
「もう15年か」
つぶやいたことばに、俺はつい後退る。
「アイツが……いなくなってもうそんなに経つんだな、母さん」
墓石の脇に建つ墓誌には、20年前に亡くなったオフクロと、15年前に亡くなった息子の名が刻まれている。
「シゲトシ……」
オヤジの目から、すう、と透明な水が落ちた。
「母さんに会って、さんざんオレの悪口言ってるんだろうな、アイツはいつ、くたばるんだろうねー、って、さ」
いやいやいや、俺は首を横にふる。
いつもお母さんおかあさん、と何かとうるさかったシゲトシは、あの世でオフクロに会ってはいない、つうか、オフクロが事実を知ったら
「えっ? シゲトシ?? まったく……相変わらずのアホだねー」
と呆れた声を出すだろう。声まで聞こえそうだ。
俺は黙ってオヤジの後ろに立つ。オヤジは続けた。
「部活の帰りにあんな道通らなきゃ……トラックに轢かれずに済んだのにな、まだ15だったのに」
オヤジは墓の前に座り込んだ。肩が震えている。
「もっと……オマエの声を聞いてやれば、もっとオマエと話し合っていれば、そんなことには」
そこは確かだ。オヤジと二人暮らしだった当時、俺は部活が終わったらすぐに家に帰るように厳命されていた。時々部活帰りに寄っていた友人のことを、オヤジは快く思っていなかったようだ。
「ゲームしかやらないんだろう? ゲームなんか無駄だ、ゴミだ、そんなの友だちじゃねえ、」
その日も、オヤジはまくし立てた。
「なんで? 伸也くんは大事な友だちだよ」俺は久しぶりに反論した。「なんでダメなの?」
「暗くなる前に帰れ、そんだけだ!」
言い放たれて、俺は更に反抗したんだ。
その結果、遅くなった末、急いで帰ろうと広い道に出たとたん、大型トラックにはねられたのだ。
そして気づいたら……異世界の勇者になっていた。
この歳になるまでに、俺は勇者の中でも数々のタイトルを持つまでになっていた。
「シゲヨシ……すまん」
「いいって」俺の声は全然、届いていないようだがそれでも俺は、そっとオヤジの肩に手をかけた。
わずかにぴくり、と肩が上がる。
「オマエ……ここにいるのか?」
いや普段はいないんですがね、と答えるがやはり、聞こえていないようだった。
急に生臭い風が吹きつけた。
「!!」
オヤジもさすがに気づいたようだ、急いで立ち上がり、身をこわばらせたまま空を見上げている。
俺も、身構えながらゆっくりと剣を抜く。
やっぱり、この世でもアイツらは徘徊しているらしい。
空気が電気を帯びた匂いを発しはじめた。かなり危険な香りがする。
「オヤジ……」
勇者の中の勇者、深紅のオーラを纏いし疾風の原神、死解世使は高らかに宣言する。
「大丈夫、オヤジには指一本触れさせねえ!」
剣持ってきて良かった。
(了)