悪✖️悪✖️悪 2
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緊急クエストに絡む問題は全て解決した。
陰謀に加担した大人たちは、全て織田信秋が決闘で負かしてしまった。織田信秋包囲網には何人かの能力者も絡んでいたが、その名前も、織田が大人たちから聞き出すだろう。織田が要求した魔法契約の内容は『織田信秋への忠誠と服従』だ。決闘に負けた者は、織田の質問に対して嘘を言う事はない。それどころか、率先して情報を上げる事になる。
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チーム明智の面々は、学校近くのレストランで夕食を共にした。時間は、もう夜の七時を過ぎていた。
「てか、なんでこの人がここに居るっすか?」
羽柴秀実が口を尖らせる。
秀実の視線の先では松永久枝がパスタをもぐもぐやっていた。
「何よ? 文句あるの?」
久枝が睨みを利かせると、池田せんりが「ひっ」と、声を漏らし、秀実の陰に隠れた。すると秀実は益々不機嫌そうに、久枝を睨みつける。
「まさか、幸人が百足会のメンバーを匿ってたなんてね」
光も、幸人にジトっとした視線を向ける。
「し、仕方ないだろ。この人、百足会から狙われてた訳だし」
「だからって幸人が庇ってやる必要なんてある? 松永さんがこれまで何をして来たか、知らない訳じゃないでしょ?」
「わかってるよ。僕も本願寺君の件では松永さんから被害を受けたからね」
「じゃあ、どうして?」
「放ってはおけないだろ。実際、松永さんの能力は何度か役に立ったし」
「それはそうだけど……」
光と幸人が言い合っていると、松永久枝は食事を終えて、席を立つ。
「そんなに私が気に入らないなら出て行ってやるわよ。それで良いんでしょ?」
久枝は金色に染めた前髪をかき上げて、気怠げに背を向ける。
「待つっす。行く前に、これまでの事をせんりちゃんに謝るっすよ!」
秀実も立ち上がり、久枝に立ち塞がる。
「何よ?」
「謝るっす……」
秀実と久枝は睨み合い、緊迫した空気が漂う。だが……。
「悪かったわね。もう、バカにしないわよ」
久枝は暫し逡巡したが、結局は、せんりに謝罪した。
そうして、久枝は踵を返す。
「待ちなさい」
今度は光が言う。
「何よ。まだ何かあるの?」
「せんりちゃんはどうするの? 松永さんは謝ったけど、和解するつもりはある?」
光に問われると、せんりはじっと松永久枝を見つめ、こくりと頷いた。
「そう。じゃあ、二人共握手でもしたら?」
「な、なんで私がこんなこぶ……池田せんりなんかと」
「あら。否なのかしら?」
「……」
久枝は光に気圧されて、不機嫌そうにせんりに手を差し出した。せんりも少々躊躇いはしたが、結局は、松永久枝と握手を交わす。
「じゃあ、これで仲直りっすね。松永さん、せっかくだから、一緒にデザートも食べるっすよ」
「そ、そんな空気じゃないでしょ」
「ん。松永さんは嫌っすか?」
秀実はシュンとした調子で言う。
「別に嫌って訳じゃないけど……でも、やっぱり、あんたたちとは馴れ合う気にはなれないわ。特に明智光。あんたとはね」
「あたし? どうしてかしら」
「それは……」
久枝はちらりと幸人に目をやって、黙り込む。
「どうしても。だよ……」
言い残し、松永久枝はふっと姿を消した。瞬間移動を使ったのだ。
取り残された秀実が、肩を落とす。その肩に、せんりが触れる。そうして、チーム明智は気を取り直し、再び夕食に手を付けた。
★
一時間後。
幸人たちは食事を終え、それぞれ寮の部屋へと帰宅した。
幸人は部屋に帰ると、すぐに紋章を鏡に映して、妖精を亜空間から出してやった。
「幸人しゃま、幸人しゃま幸人しゃま、幸人しゃまああぁっ! 心配してたんでしゅよ! 迷宮ではあんなに大ピンチだったのに、どうしてカレンを呼び出さなかったんでしゅか?」
カレンは鏡から出るなり、目に涙を浮かべて言う。
幸人の腕の紋章は謎の亜空間に繋がっている。カレンは大抵、その空間に潜んでいるのだが、亜空間からは外の様子がわかるのだ。カレンは亜空間の空に映し出される映像を見て、幸人が死にかけたり、ブラックホールを発生させる様子も見ていたのである。
「ごめんごめん。でも、カレンは本当に僕の切り札だからね。どうしても、隠しておきたかったんだ」
「だからって、あんなに傷だらけになって……カレンがどんなに辛くて悔しかったか分かりましゅか?」
カレンは幸人の胸に飛び込んでポカポカやる。すると幸人はどさりと、仰向けにベッドに倒れ込む。
「ごめん……。色々言いたい事はあるだろうけど、今日は本当に疲れたんだ。このまま眠らせて貰えると助か……」
言い終わる前に、幸人はもう、寝息を立てていた。
「もう……お疲れ様でしゅ」
カレンは呟いて、幸人に妖精の癒しの粉をふりかける。そうして、パタパタ飛びながら毛布をかけてやった。
★ ★ ★
幸人が眠りに落ちた頃、東京の地下深くでは、再び、事態が動き出していた。
南品川の隕石落下痕には、大きな穴が空いている。穴は【品川ゲート】と呼ばれ、今も、謎の霧とモンスターを吐き出す危険地帯と化している。
品川ゲートの奥深く、迷宮の中層では、赤黒い溶岩流が、今もドロドロと流れ続けている。そこには多くの竜が住み、人間や魔物の往来を阻害している。
ドオ。と、溶岩の大河を割り、巨大な竜が姿を現した。竜は溶岩の河を抜け出して、畔に上がって来る。
赤い眼に、翼の無い巨大な体躯。地竜だ──。
その勇壮な生き物は、数時間前、本願寺を丸呑みにした個体だった。地竜は溶岩の大河に沿って畔を歩き、視界に、大きめの洞窟を捉える。そこは地竜の巣穴だ。巣穴には、地竜の眷属である、無数の竜が住んでいた。
ごお。と、巣穴の奥からは竜の炎が見え、それに照らされた無数の竜の姿が浮かび上がる。
ドシリと岩を踏みしめて、地竜は巣穴へと入る。広々とした巣穴では、何匹もの竜が道を開け、地竜に頭を垂れた。
地竜は、巣穴の王なのだ。
巣穴の奥には、広々とした台座がある。そこは、地竜専用の王座だった。地竜は、若い竜たちを横目に王座に進む。そして、大きな台座に辿り着くと、ゴオオオッ! と、一声放つ。すると巣穴の竜たちが、一斉に頭を垂れる。
それに満足して、地竜はゆるりと台座に腰を下ろす。だが──。
次の瞬間、地竜の頭部から、ズズ。と、無数の金属の針が突き出した。針は見る見る数を増し、伸びる……!
やがて、地竜の頭が破裂して、巨体がどっと、台座に倒れ伏した。
「クソ不味い……こいつ、本当に中層六角なのか……」
本願寺が、地竜の頭部を割いて姿を現した。本願寺は、地竜の肉片をムシャムシャと食み、周囲の竜たちに睨みを利かす。
「お前らは、美味えのか……?」
本願寺は気だるげに言い放つ。すると竜たちは怒りを発し、ドオオオッ! と、咆哮を上げながら本願寺へと突進した……!
★
数分後、巣穴には、夥しい竜の死骸が散乱していた。
唯一、蠢く者は、本願寺の後ろ姿だけだった。
「不味い……」
本願寺が、竜の火炎の残り火で、肉を焼いて噛みちぎる。だが、どれだけ食べても満たされない。それは、本願寺自身も承知の上だった。
モンスターを食べてはいけない──。
これは、冒険者のみならず、地上の人間にも知られている知識だった。
◇
二か月ほど前、人類はある実験を試みた。
モンスターを食べてみる。ただ、それだけの実験である。その動機は、大谷竹美という少女の証言に端を発している。
陸上自衛隊は繰り返し、大谷竹美から聞き取りを行った。そして、とある仮説に行きついた。
大谷竹美の攻撃は、霧の中でもモンスターに通用した。まるで、異世界帰りの冒険者の攻撃であるかのように……。だとしたら、その変化は何処で起こったのか?
仮説は、〝大谷竹美がドラゴンの血を口にしたからだ〟。と、結論した。
だが、試してみなければ仮説は仮説のままだ。
そこで、自衛隊はカウンセラーシティの冒険者にモンスターの捕獲クエストを出した。程なくしてモンスターが捕獲され、勇士の自衛官が食してみる事になった。
ゴブリン、大蜘蛛、人食い蝙蝠、ドラゴン、小悪魔。五匹の魔物を、五人の自衛官が食した。勿論、彼らは魔物に傷をつけられないから、異世界帰りの冒険者が調理を担当した。
そしてその結果……。
五人の自衛官全員が、半日もせず全員、血を吐いて死亡した。
ちなみに、ナーロッパ帰りの冒険者は、この実験に猛反対していた。ナーロッパにはそもそも、言い伝えがあったのだ。
『能力を持たぬただの人間は、モンスターを食してはいけない』。と……。
勿論、本願寺はただの人間ではない。だから、モンスターを食しても死にはしない。だが、食べたからといって、腹が満たされる訳ではない。食べた傍からモンスターが胃の中で消滅してしまうからだ。
但し!
ナーロッパの帰還者たちは、とある秘密を地球人に開示せず、秘匿したままにしていた。
『金眼だけは別だ』
金眼とは、文字通り、金色の眼を持つ珍しい個体の事である。金眼のモンスターは数百万匹に一匹とか、数億匹に一匹しか生まれないとされる。そして金眼のモンスターを食した者には魔法とは違う特異な力が備わり、世界を統べると言い伝えられている。
金眼の狼を食せば狼の如く。
金眼の人魚を食せば人魚の如く。
金眼の竜を食せば竜の如き力を授かり、世界を統べる──。
この言い伝えについて知っているのは、一部のナーロッパ能力者だけである。つまり、政府や諸外国の諜報機関はこの事を知らない。シャングリラ能力者ですらも、知る者は殆どいない。知っているのは本願寺ぐらいだ。かつて本願寺にこの情報を語ったのは、三好三人衆の岩成友子だった。
そう。本願寺の目的は、政府に媚びを売ってこれまでの罪を帳消しにして貰う事ではなく、政府と取引して報酬を得る事でもない。真の目的は、金眼の探索だったのだ。その為に、NSJの提案を吞んで織田信秋包囲網に加担した。と、見せかけたのである。
◇
本願寺は食事を終えて、ゆらりと立ち上がる。が……。
「ぐ……あ……」
突然、吐血して倒れ込む。まだ、明智光との戦いで負った傷が癒えていない。死を偽装する為に敢えて光の攻撃を受けはしたが、先程ポーションを飲んだ。それなのに、傷の治りが遅すぎる。
見ると、体中に、濃い赤紫色の痣のような物が広がっていた。
「く、そが。なんの病気だよ」
本願寺は苦痛にのたうち回り、歯噛みして苦悶を漏らす。
全身の強烈な痛みに倦怠感。眩暈に吐き気に高熱。そして、かなり汗を掻いてるのに少しも喉が渇かない。明らかに、身体に異常が起こっている。
何故だ。
考えを巡らす本願寺の脳裏に、一人のシャングリラ能力者の顔が浮かぶ。
『なんだよ? 余計な手出しをするなとでも言いたいのか? ダラダラやってるから撃っただけだろ。あ、言っとくけど、もう勝負はついたからな?』
伊達正治。あの眼帯野郎か──。
本願寺が気付いた時には、もう、肉体は手遅れになりつつあった。
伊達正治のシャングリラ能力は【未知のウィルスを発生させる】。である。伊達は、マグナム弾にウィルスを付着させた状態で本願寺に撃ち込んだ。その攻撃は本願寺の頬を掠め、病気が発症。まさに言葉通り、本願寺を倒していたのである。
途切れそうな意識の中、本願寺はそれでも這いずって進む。時に四つん這いになり、ふらふらとした足取りで、朦朧と溶岩地帯を行く。そして……。
ぐらりと、本願寺が揺らめいて、倒れる。その足は崖から滑り落ち、仄暗い、奈落の底へと落下していった。
★
ぽたりと、水滴が落ちる。
飢えと激痛で、本願寺は目を開ける。
そこは暗く、とても寒い場所だった。
耳が痛く成る程に静かで、全く見覚えがない景色。迷宮の下層まで落ちて来たのか……。
どれぐらいの時間が経過したのかは分からない。だが、このままでは確実に死ぬ。
本願寺は最期の力を振り絞り、凍えながら這いずり始める。その目の前に、ズシリ、と、巨大な足が踏み下ろされる。
現れたのは、大きな黒翼の悪魔だった。
がっしりとした三メートル程の体躯に、黒い肌。突き出た牙に、金色の眼……。
金眼の大悪魔だ。
「お前、美味そうだな」
本願寺が、途切れそうな声で言い、そっと腕を上げる。腕は、じわじわと金属で覆われていった……。




