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サイキック&ウィザーズ ─異世界帰りだらけの教室─  作者: 真田宗治
幸人編 異世界帰りだらけの学園。
32/83

幕間の衝撃 2



 池田せんりは、秀実ひでみの胸に耳を当て、神経を研ぎ澄ます。


「鼓動が弱っています。それに、この呼吸音……」


 せんりは秀実の服を捲り、肌の状態を確認する。肌には青黒い発疹が浮かんでいた。


「かなり熱があるのに汗を一切かいていません。それにこの発疹。これはほぼ間違いなく、異界の猛毒によるものです。ナーロッパの、ヒトゴロシ草の症状と一致しています」

「毒……だって? せんりちゃんのスキルで治療できるかい?」


 幸人ゆきとは、静かに問う。


「ごめんなさい。私の医療・薬学スキルではランクが足りません……」


 せんりが言うと、幸人はすぐに立ち上がった。


「幸人、何処に行くの?」

「回復魔法を使える人を探してくる。確か、水属性と無属性の回復魔法であれば、状態異常を治療出来た筈だよね」

「待ちなさい。無駄足になるわ」

「ど、どうしてさ?」

「水属性でも無属性でも、致死性の猛毒を消去するにはランクB以上の回復魔法が必要なの。でも、この学園に、ランクB以上の回復魔法を使える人はいないのよ」

「なんだって……?」


 幸人ゆきとひかりと言い合って押し黙る。その顔には絶望が浮かんでいた。

 パチパチパチパチ……。

 突然、幸人の背後で拍手の音が鳴る。幸人が振り向くと、近くの壁際に、やせっぽちの男子生徒がいた。前髪で片目が隠れており、目にはクマが浮かんでいる。やけに陰気な印象の生徒である。


風魔ふうま……」

 光が、怒りを込めて言う。


 風魔──。こいつが……。

 幸人は風魔ふうま小次郎こじろうを見据え、棒をしかと構えた。幸人の傍らでは上杉と直江も肩を並べ、素早く武器を構える。


「おっと。やめとけよ真田。上杉たちも、な。これがなんだか分かるな?」

 風魔が、懐から小瓶を取り出して見せつける。小瓶には、何かの液体が入っていた。

「そうだよ。解毒薬だよ。ここで争って、うっかり割れてしまったら大変だ。そうだよな?」


 言い終わり、風魔はニヤケ顔を浮かべる。


「じゃあ、やっぱり、あんたが秀実ちゃんを……!」


 光が、怒りを露に踏み込む。その瞬間──。

「おっと」

 風魔は薬瓶を床に投げつけた。当然、薬瓶は割れ、中の液体が床に広がる。そこに、ボッ! と、小さな火球が打ち込まれ、解毒薬が焼却される。火球は風魔の掌から発生した。

 忍術の類か──。

 察すると共に、幸人は唇を噛む。


「だからやめとけと言ったのに。おかげで解毒薬はもう、一つしか無い。本当にな」


 風魔ふうまに言われ、光は動きを止める。幸人もまた、動けなかった。


「まあ、そう怒るなよ明智。真田もな。せっかく解毒剤を持ってきてやったんだぜ?」

「そうか。じゃあ、解毒剤をくれないかな? 見ての通り、うちのメンバーが大変なんだ」

「あ? 何言ってるんだ真田。馬鹿なのか? タダで渡す訳がないだろ」

「そこをなんとか。頼むよ」

「だから馬鹿なのか? 羽柴秀実が毒を受けたのは俺の指示で起こった事なんだよ。少しは考えろ。間抜け!」

「そんな事はわかってるよ。だから、お願いしてあげてるんじゃないか。今ならまだ、引き返せる。僕も冷静でいられると思うんだ……」


 幸人の視線が、鋭く風魔に突き刺さる。風魔は、ゾクリと悪寒が沸き上がり、少々後ずさった。


「渡してやっても良いぜ。但し、お前らが、これから言う条件を呑んだらな?」

「……条件? なにかな」

「対抗戦は、戦う人数が多いってだけで、基本的には決闘と同じだ。つまり、魔法契約を適用できる。お前達には、次の試合では「忠誠と服従」を賭けて試合をして貰う。当然、負けてくれるよな?」

「試合に負けたら、解毒剤をくれるのかな?」

「ああ。約束してやる」

「それまで、秀実が持つという保証は?」

「安心しろ。あと半日ぐらいは生きてるさ。試合の後で解毒剤を飲ませても、間に合うだろう」

「……」

「まあ、よおおおく、考える事だな。じゃあ、後でまた会おうぜ」


 言い終わり、風魔小次郎は床に何かを投げつけた。何かは床で破裂して、濃い煙をまき散らす。その煙に紛れ、風魔は姿を消した……。


「……くそ」

 幸人は悔し気に呟いた。


 一方、直江なおえ兼倉かねくら上杉うえすぎ謙鋼けんこうは小さく頷き合う。


「気に入らねえ。全く、気に入らねえよ大将」

「そうだな。俺も風魔には虫唾が走る」


 上杉うえすぎは、直江なおえと言い合って、せんりの傍で腰を屈めた。


「池田せんりさんと言ったね。君の医療・薬学スキルのランクは?」

「C、です」

「そうか。じゃあ、もしも、池田さんの医療・薬学スキルがランクBであったなら、羽柴秀実を救えるか?」

「え? はい。ランクBのスキルであれば対処できます。でも……」


 言いかけたせんりの言葉を掌で制し、上杉は首元のネックレスを外す。


「では、今だけ、この首飾りを君に貸そう。このアイテムの名は【スキルブースター】。装備している間、任意のスキルを一ランクだけ、上昇させる効果がある」


 上杉は言いながら、せんりの首にネックレスを付ける。


「スキルのランクを上げる……?」

「ああ。本来、俺のライトウェポンのランクはAだ。スキルブースターで水増ししていたのさ。あ。これは他の連中には秘密だぞ?」

「は、はい。はい! ありがとうございます」

「では、イメージして。池田さんの医療・薬学のランクはBだ。復唱してごらん」

「私の、医療・薬学のランクはB……」


 せんりは上杉と言葉を交わし、目を閉じてイメージする。すると、首飾りの青い玉石が、淡く輝き始めた。


「……あ。あああ……見える。知恵が。知識が……」


 呟いて、せんりは目を開ける。そして、すっと立ち上がる。


「すぐに治療に取り掛かります。それと、幸人さんと光さんにはお願いしたい事が……」


 せんりは鞄を開き、様々な道具を取り出した。



 ★ ★ ★



 一分後、光と幸人は、大急ぎで医務室へと向かっていた。


『解毒剤を調合するのに、材料が足りません。ここの医務室に、ゲマトリアの花が保管されている筈です。大至急、持ってきてくれますか?』


 せんりの言葉を受けて、薬草を取りに向かったのである。


「あった。あそこよ!」


 光が指を差す。そこには医務室の扉があった。幸人と光は医務室に駆け込んで、係の異界医師をまくし立てて、ゲマトリアの花を分けて貰った。


 ★


 幸人ゆきとひかりは医務室を飛び出した。薬草を手に駆け出すと、通路の曲がり角付近で急に、幸人が光の後ろ襟を引っ掴んで引き戻した。


「う。ぐっ……急に何するのよ?」


 光は、引き戻されて床に尻もちを衝く。それを尻目に、幸人は棒を伸ばし、通路前方の足元を探る。すると……。

 ギ。ギギギ……。

 何かが棒に触れ、軋むような音を放つ。光が目を凝らすと、とても細い、ワイヤーのような物が、壁から壁へと張られていた。そこに、幸人は懐からペンを取り出して投げる。ペンはワイヤーに当たって真っ二つに切断された。


「凄い切れ味だ。危うく足を切断されるところだったね。それよりも……」

 幸人は言う。


「そうね。出て来なさい。居るのは解ってるのよ」


 ひかりも、事態を察して言う。すると、通路の曲がり角から、黒髪ポニーテールの女子生徒が歩み出た。通路沿いには大きな鏡がかけられており、少女の姿が映り込む。色白で、すっきりとした目元。小柄だが、程よく鍛えられた肢体……。

 それは疑いようもなく、妖艶で、美しい少女だった。


霧隠きりがくれ才華さいかさん、よね。風魔に言われてあたし達を見張っていたのね」

「ええ。明智光さん。その薬草、こっちに渡してほしいの」

「断るわ。欲しければ、力ずくで奪い取りなさい!」


 光は叫び、鞄からペットボトルを取り出した。が、幸人は手ぶりで光を制す。


「光、駄目だ。大会のルールを忘れたのかい? 失格になるよ」

「あ……」

「ここは僕がやる。光は薬草を持って戻って。遠回りになるけど、違うルートから薬草を届けてほしい」

「でも…………」

「さっき、僕を信じると言ったよね」

「……わかったわ。負けるんじゃないわよ?」


 言い残し、光は、元来た通路へと走り出す。才華さいかは追いかけようとしたが、その前に、幸人が立ちはだかる。


霧隠きりがくれ才華さいかさん、だっけ? 残念だけど、君には行方不明になって貰う事にしたよ」


 言いながら、幸人は棒を構える。才華は懐からくないを取り出して、低い構えを作る。


「へえ。私に勝つつもりなの。真田君、貴方って、女を殴れる人なの?」

「殴る必要はないさ。そこにがあるからね」

「なにを言ってるか分からないの!」


 言い合って、二人は踏み込んだ。



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