ブリーフィングと戦いと 2
幸人たちが入場すると、どおおっ、と、歓声が上がった。
闘技場の観戦席は、大勢の学生や観客で埋まっている。チーム対抗戦等、特別なイベントが行われる時に限っては、島の外部からも観客が訪れるらしい。その大半が、政府や企業のスカウトや視察なのだそうだ。
幸人は目前に、対戦者の姿を捉える。闘技場の舞台の広さはテニスコート三つ分程度ぐらい。舞台には、もう既にチーム上杉の面子が揃っていた。チーム上杉は、全員が、武者鎧を思わせる武装で身を固めている。上杉を含め、全員が同じ弓を背負っていた。
やがて、幸人たちも分霊を終えて、アバターへと魂を移す。そうして舞台に上がると、ルールの説明が始まった。
◇◇◇
一つ。
勝敗は、どちらかのチームの全滅か降参。
二つ。
舞台から落ちた選手は、十秒以内に舞台に戻れなかったら失格。
三つ。
十秒以上のダウンも失格。
四つ。
あまりにも卑怯な行為については、実行委員の審議により裁定。
五つ。
何らかの方法によって召喚された存在はメンバーに含まない。呼び出された存在の行為については、召喚者の魔法効果とみなす。
六つ。
制限時間は十分。決着が付かなかった場合は、五分間の延長戦を行う。それでも決着が付かなかった場合は、実行委員の判定により決着。
七つ。
科学兵器、生物兵器、核兵器の使用は禁止。
八つ。
範囲魔法については効果範囲を限定して使用する事。観客等、無関係な者に被害を出した場合は永久的失格とみなし、以後、二度と決闘を行えない。
九つ。
試合当日は、開始の合図がかかるまでは、魔法と超能力の使用は禁止。(あらかじめ精霊を召喚した状態で舞台に上がる。等の行為は禁止)破ったら失格。
◇◇◇
説明を聞き終わり、幸人は光に耳打ちする。
「五つ目の、召喚魔法? に関する事なんだけど。召喚魔法じゃなくて何らかの方法、と、してる理由はなんだろう?」
「ああ。それは簡単よ。マジックアイテムとかで呼び出すのもアリって事だからよ。要は、どんな方法で召喚しても良いの」
「ふうん。それは良い事を聞いたな」
何故か、幸人の口角が上がる。
こうして説明が終わり、実行委員の自称学園のアイドル、寧々《ねね》ちゃんがマイクを手に観客に挨拶をする。寧々ちゃんは長い髪をツインテールにして、何故かビキニの水着姿だった。
「では、いよいよ本日の第一試合目を始めますよおっ!」
寧々ちゃんの声に、観客はヒートアップする。
舞台には、強い緊張感が漂っていた。
チーム明智の面々が、そして、チーム上杉の面々が、試合開始の合図を待ち、身構える……。
「双方位置につきましたね。では、試合、開始!」
開始の合図がかかるなり、幸人は駆け出した──。
★ ★ ★
時間は少し巻き戻る。
幸人は作戦を立てる際、光と池田せんりに、いくつかの質問をした。
「チーム上杉は優勝候補と言っていたけど、どういった点がそんなに脅威なのかな?」
幸人は言う。
「ナーロッパでは、射手は不人気職業なんです。理由は、解りますよね? 魔法を覚えさえすれば、ランクFの攻撃魔法でさえ、戦車を粉々にするぐらいの威力を発揮しますから。呪文詠唱に時間がかかるという欠点はありますけど、その弱点だって、詠唱短縮のスキルがあれば補えます」
せんりが答える。
「うん。まあ、そこまでは解るんだけど。だったら、弱い筈の弓矢の攻撃が、どうして恐れられているのかな?」
「理由は【エルヴンボウ】というマジックアイテムにあります。エルヴンボウは、ナーロッパでは中の上ぐらいのレアリティの武器なんですけど、普通の弓矢の四倍程の攻撃力を誇ります。そして、矢を番える必要がありません。弦を引けば、自動的に魔法の矢が装填されるんです。しかも、放った矢は標的を追尾して、ほぼ百発百中の命中精度を誇ります。有効射程も通常の弓の三倍を超えます」
「成程。速射スキル持ちの射手が使えば、重機関銃で無限に撃たれ続ける。みたいになる訳か」
「はい。射手は不人気職であるが故に、本来入手し辛いマジックアイテムでも、競争率低めで手に入りやすいんです」
「成程。凄く厄介だね」
幸人が呟くと、今度は光が口を開く。
「警戒すべき相手は、射手だけじゃないわよ。直江兼倉君は手強いけど、それ以上に上杉謙鋼君の剣術も厄介なの。上杉君の剣術はランクB。正直、幸人君の棒術で太刀打ちできるかも、わからない。その上、上杉君は一つだけ、Sランク魔法を使える。何の魔法かはわからないけど、発動されたら負けと思いなさい」
「ならば尚の事、僕が引きつける必要があるね。光はエルヴンボウへの対処で手いっぱいになるだろうから」
「ええ。今回の鍵は幸人と……」
光はそういって、羽柴秀実に視線を送る。秀実はプレッシャーを感じて、ゴクリと、唾を呑み込んだ……。
★ ★ ★
さて、試合へと戻ろう。
開始の合図がかかり、幸人は颯爽と駆け出した。狙うは上杉の首一つ。対するチーム上杉は、既に幸人目掛けて無数の矢を繰り出していた。
幸人の集中力が高まる。その目に映る全てが、スローモーションへと変わる。
沢山の矢が、もう、幸人の眼前に迫っている。だが、幸人はそれをお構いなしに進む。
刹那──。
ドンッ! と重低音がなり、チーム上杉の射手三人が、同時に吹き飛んだ。彼らが放った無数の矢も、弾き飛ばされて消滅する。
そう。
秀実が衝撃波を(と、いう事になっている)放ったのだ。
吹き飛んだ三人の射手は、二〇メートル近く宙を舞い、壁に叩きつけられて落下する。その瞬間、三人の内、一人の射手が光の粒子へと変わり、消滅した。
開始早々、秀実が一人を仕留めた。衝撃の威力が上がったのは、秀実が持つ『豊臣のハンマー』のおかげだ。しかし、秀実は無理をして呼吸を止め過ぎた。その反動で秀実も膝を折り、ゼイゼイと息を荒げる。
(な、なんなんすか。一人につき、一〇回近くハンマーで殴ったのに……一人しか倒せないなんて。ナーロッパ帰りはどれだけ頑丈なんすか!)
秀実は地べたに四つん這いで、心中に愚痴を漏らす。
直後、秀実の眼前に大量の水の塊が舞い降りる。水の塊は渦を巻き、光、秀実、せんりの三人を守るように、巨大な龍へと形を変える。
「ごめんなさい。ルールのせいで、すぐに水を呼び出せなくて。でも、ここが小さな島で良かったわ!」
光は叫んで手をかざす。すると、龍がガパッと口を開け、水のビームを吐き出した。
水は、残った二人の射手を襲う!
一人は落下後のダメージですぐに動けず、水流をもろに受ける。
「ぐああああっ!」
水のビームが直撃した射手が、光の粒子へと変わり、消滅する。水のビームは、更に直江兼倉にも襲い掛かる。
「うおおおっ!」
直江が、雄叫びを発しながら猛烈に矢を連射する。絶え間なく放たれる矢が、衝撃波を伴って水のビームと激突。それはやがて、水圧に押し勝って光へと襲い掛かる!
輝く矢が、光の眼前に迫る。その瞬間、舞台がグッと盛り上がり、分厚い壁へと変わる。矢は、壁に突き刺さって消滅。光は事なきを得た。
光が振り返ると、そこには小さな精霊がいた。精霊はとても背が低く、ずんぐりむっくりの体型に三角帽子を被っている。土の精霊、ノームだ。
「とりあえず精霊を呼びました。アースアーマーの詠唱終了まで、守って下さいね」
せんりが、光にウインクをする。
「はっ。壁ぐらい……」
直江は走り、壁を蹴って高く飛び上がる。そして高々と宙を舞い、眼下に光たちを捉える。
「くらえ!」
直江が矢を放つ。光は対抗して、水龍を飛ばす。水龍は真っすぐに直江に飛ぶが、直江は何故か、一矢だけを壁に放った。その一矢は水龍を無視して壁に跳ね返り、せんりを襲う。
「きゃっ」
兆弾と化した矢を胸に受け、せんりが吹き飛んだ。
「せんりちゃん!」
光が叫ぶ。その眼前で、せんりが光の粒子へと変わり、消滅する。
「うわああっ! よくもせんりちゃんを!」
「そっちもやってくれただろっ!」
光は、水龍を直江へと突っ込ませる、直江も、対抗して猛烈に矢を打ちまくる。その衝撃で、水龍と直江とが、互いに弾き飛ばされた。
「ぐっ……うおおっ!」
直江は空中で身を捩り、舞台へと着地する。その瞬間──。
直江の足が、ずぶりと、舞台に沈んだ。
「な、これ……は?」
直江の下半身が丸々、舞台に沈んでいる。直江の周囲が沼のように変化して、足を捉えたのだ。困惑する直江の眼前には、土の精霊の姿があった。土の精霊が、地面に手を当てている。
あいつの仕業か──。
直江が気が付いた次の瞬間、水龍と、秀実の衝撃波とが直江を襲った。その攻撃は、モロに直江に直撃する。
「ぐ……あ……」
直江兼倉は光の粒子となり、砕け散った。同時に、ノームも、さらさらと砂に変わり、消滅する。
一方その頃、幸人は、上杉と激しくやり合っていた。
研ぎ澄まされた上杉の斬撃が、次々と幸人を襲う。幸人は幸人で素早く棒を繰り出し、攻撃をいなし、弾き、反撃する。
だが……。
「くっ……!」
幸人は攻撃を受けきれず、弾き飛ばされた。その間にも、上杉の口が動き続けている。
何か、呪文を詠唱しているのだ。
「させるか!」
再び、幸人は突進する。その鋭い連続攻撃は、上杉の刀で、ゆるりといなされた。
「天に星あり地に陣列あり。光の理は次元の境界を揺るがしたり。那由他の時空を超えて聴け。上杉謙鋼の名において命じる。盟約の鎖もて領界の狭間より力を示せ! 光の剣よ、直ちに顕現せよ。ライトウェポン!」
遂に、上杉は詠唱を完了させ、魔法を発動する。詠唱が終わるなり。上杉謙鋼の眼前に、輝く光の剣が現れた。
静かに、上杉は剣を手にする。
「勝負あり、だな」
呟いて、上杉は横薙ぎに剣を振り抜く!
幸人は咄嗟に飛び上がり、ギリギリ、攻撃を回避した。だが……。
ライトウェポンがぐっと伸び、幸人の背後を切りつける。
伸びた剣は、秀実の胴体を切り裂いた。秀実は、時を止めた直後で息を切らしており、突然の攻撃に対処できなかったのだ。
「真田、様……」
秀実が、華奢な手を伸ばす。次の瞬間、秀実は光の粒子へと変わり、消滅した。




