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第5話 新たな敵が討伐者を追う

「来ました。どうやらエンペラー・ワイバーンのようです。」


「随分と大物だな。」


「まあ、地竜ドライアスの棲家を狙うとしたら、それなりの竜種か飛行できる大物でしょうから。」


地竜とはいえ、ドライアスが棲家としていたのは竜種が好む地形である。魔力が滞留し、他の生物や弱い魔物では長期間居座ることが難しいほどの環境であるため、そこの後釜として寄ってくる存在は限定されるといっていい。


エンペラー・ワイバーンは、一般的なワイバーンとは比較にならないほど強大だ。ドライアスと比べると弱いが、通常のワイバーンを遥かに凌ぐ力を持っている。希少種ゆえにあまりデータは残っていないが、その強さは竜種のなかでも上位に位置するといっていいだろう。


「私がひとりで狩るわ。」


「危険です、フィア様。大事の前の魔物狩りなど、他の者で対処します。」


「それだと少なからず犠牲が出るわ。それに、エンペラー・ワイバーンくらいひとりで倒せなくては、彼に勝てる道理は無い。」


「ですが···」


「くどいわ。剣聖の称号を持つ私に向かって言う言葉じゃないと言っているの。」


フィアは眼光鋭く目の前の男を威圧した。


「も、申し訳ございません。」


フィア自身はこのような物言いをするのが好きなわけではない。ただ、立場だ権威だと投げ掛けてくる者に対しての意趣返しのようなものだった。


目の前にいる者も、国から派遣されたお目付け役なのである。


ただその国で生まれたからといって、首に縄をかけようとするのは腹立たしいことだと思う。ただでさえ、種族の違いで迫害されてきた歴史があるのだ。


王家に対して自ら懇意にしようとは思わなかった。しかし、自分が従順でない限り、彼らはまた同じ歴史を繰り返すだろう。剣を極め、名を馳せることになってからは、故郷を人質に取られて上手い具合に使われているようなものだ。猜疑心は日々強くなっていた。


だからこそ、今回の任務は失敗できない。


反逆を企てているレヴェナントと呼ばれる男を倒すこと。それさえ叶えば、今のような状態からは抜け出せる。そのように約束を交わした。


王家や機関のことを信頼できるかといえばそうではない。しかし、非公式であっても契約を交わしたからには完遂させるしか道はなかった。


レヴェナントは有名な討伐者で、その実力も史上最強といわれている。


他の討伐者が複数でパーティーを組むのに対して、彼はずっとソロらしい。しかも、実名や素性が謎に包まれており、失敗したことがない。だからこそ、いつしか幽鬼(レヴェナント)という異名を持つようになった。


わかっているのは男性で魔法も剣の実力も凄まじく、数多の魔道具を使いこなすということくらいである。


冒険者ギルドや魔道具の線から身元調査を試みたが、厚いベールに包まれ情報を得ることはできなかった。詮索するわけではないが、もしかすると王家と何か関わりがあるのではないかとすら思っている。


「距離、800メートルです。」


余計なことを考えているうちにエンペラー・ワイバーンが近くに迫っていた。


飛行速度を考えれば、数分と待たずに接敵するだろう。


フィアは腰を落とし、剣の柄に手を添えた。


目を閉じて気の集中と魔力の集束を同時に行い、剣を抜く。


利き腕から下げた剣に魔力と気を通して、予備動作無しで前方に迫るエンペラー・ワイバーンに向けて突き放つ。


摩天楼(スカイスクレイパー)!」


数十メートルに迫ったエンペラー・ワイバーンに向けて、地表から強い気流が発生した。固形のような質量をもった鋭角な風。エルフが得意とする風の属性魔法と掛け合わせたフィアの剣撃が、夜の空気を豪快に斬り裂いていく。


刹那、エンペラー・ワイバーンの頭部はそれに巻き込まれて爆ぜるように消失した。




「そうか。わかった。」


冒険者ギルド本部から連絡を受けた俺は、小さく息を吐く。


ネームドの討伐後に他の魔物が縄張りを広げるために動きを見せることはよくあることだった。最悪の場合はスタンピードに発展することもあり、事後処理に多大な労力を割くこともある。しかし、最近ではランクの高い冒険者が事前にその対策に動いてくれているため、大事には至っていない。


今回はドライアスという存在が断ち消えたので、かなりの衝動が予想されていた。これで終わりとは言い切れないが、数日間は次の魔物が動きを見せないか監視体制は続行されるだろう。


しかし、エンペラー・ワイバーンが昨日現れ、それを瞬殺した冒険者がいると聞いて少し安心した。自分がいなくてもそれなりの実力を持った者が代わりを務めるだろう。


やはり潮時かなと思った。


思考にふけようとした矢先に、ふと違和感に勘づく。


先ほどまでは聞こえていたはずの虫の鳴き声がしなくなっていたのだ。


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