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聖剣の担い手探し  作者: かざむき
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86.遭遇

「ああ、有意義な話ができた。感謝する。後日正式に城への入城許可を出そう。正式な話し合いはその場で行う。良いか?」


「はい。ありがとうございます。その時にはもう一人の仲間のアズラも同伴しますので。」


 カラン、コロン、と鳴る鐘の音と共にトルクス、カナ、皇帝のハガンと近衛のヨークス、そして魔女のナーニャは喫茶店を出た。話し合いは良好に進んだようで、ハガンは笑顔を浮かべていた。

 魔女の乱入により、一瞬の緊張が流れる場面があったが、問題は特に起こらず五人とも喫茶店の食事を楽しんだ。むしろ、ハガンはナーニャから各地の異常事態についてを知ることができて有意義であったとも思っている。


「ああ分かっている。あの武器屋だろう? 実は俺や部下も度々世話になっている。」


 ヨークスの言うことからもわかる通り、実はアズラは武器商としてタノラに滞在していた時期があった。

 彼の武具はどれも高級品ではあるが、それに見劣らない性能をしていると話題で近衛騎士団では重宝されたとのこと。

 世間は意外と狭いものである。いや、この場合はアズラの顔が広いのだろうか。


 トルクス達三人はハガンと別れて、アズラが取ったであろう宿屋に向かう。

 事前にどこに泊まるつもりであるかは、カナに伝えられており、三人は町の地図を買って四苦八苦しながら道を歩く。


「飛んじゃだめかな?」


「ダメだろ。特に魔女ってこの町ではあまりよろしくない存在なんだろ?」


「そうらしいわね。でも空を飛ぶくらいの能力を持っている人もいるんじゃないかしら?」


 ナーニャは歩くことが面倒臭くなったらしく、飛ぶことを提案したが、トルクスに却下された。


「この国ではむやみやたらに能力を使うことは禁じられてるので魔法も基本的にはNGですよ。」


「へぇー。法を意識したことなかったから知らなかった。」


 ナーニャは悪魔たちにかなり面倒を見て貰って不自由ない生活をしていたため、そこら辺の感覚が抜けていることが多々ある。ちなみにカナもトルクスも学校に通っていたため、近隣諸国の常識や法などはある程度知っている。


 三人は町を流れる川にかかる大きな橋を渡る。

 川の名はタノートラス川。川幅が百メートルを超え、立派な石造りの大橋が岸を繋いでいた。流れる水は神聖とされ、洗礼の儀で使われるのだとか。

 この橋は数千年前には既に出来上がっており、神がお造りになったということになっている。


 三人が橋の中腹を歩いていると、その前にはずぶ濡れの二人が立ち塞がる。一人は純白の法衣を身に纏った青年。もう一人は修道服をきた少女であった。

 どちらにしても高そうな服だ。クリーニング代のことを考えると少し頭が痛くなりそうだな。


「え~っと。何か御用でしょうか?」


 トルクスは彼らがずぶ濡れなことは置いておいて、服の高級感から少し敬語を意識して話しかける。


「あなた達が魔女と行動を共にする一団でございますね。」


 少女はトルクス達にそう聞く。


「私はノクステリア=スターズリー。法王の代弁者であり、敬虔なる信徒でございます。」


 少女は自己紹介をして、三人に少しお辞儀をした。


「自分で自分のことを敬虔な信徒っていう奴にロクな奴いないイメージあるんだけど。」


 ナーニャはそう言いながら、ため息を吐き、二人を警戒する。

 彼女の眼には青年は兎も角、少女は得体の知れない力の塊のように見えていた。善良で邪悪、冷酷で温和、全てを内包しているような、まるでその気になればこの世界の法則ごとひっくり返してしまうような怪物のような力。

 一瞬彼女の脳裏に殺害の二文字が走ったが、何とか思いとどまった。


「聖なる者。邪竜の後継。魔女。なんとも言えない組み合わせで、はっくしょん!・・・ですね。」


 ノクステリアはくしゃみをして鼻を啜る。ずぶ濡れは流石に寒いのだろう。

 状況としては喫茶店付近に跳ぼうとしたが、ミスって川に落ちたという感じだろうか。


「ノクス。ここは一旦退散しよっ、しませんか? 威厳も何もないですよ。この人達も特に厄災を振りまくつもりは無さそうですし、帰って着替えましょう。」


 青年は彼女をノクスと呼び、体調を気に掛ける。青年はいつもの調子で普通に喋ろうとしたが、人前であるので丁寧な言葉を使おうと心掛ける。


「いえ、大丈夫です。この後、喫茶店でお茶するという計画がありますので。」


「真面目に職務をこなそうとする真面目ちゃんだと思って損しました。」


「私はいたって真面目です。」


「職務に対してって言わなかった? まあ、明日行きましょう。だから今日はここで引き上げますよ。」


 そう言うと青年はトルクス達に向き直る。


「少し引き留めて失礼しました。私はハルディー。この国で法王をやっているお偉いさんです。」


「この国はどうなってやがんだ。」


 トルクスは嘆く。

 それもそうだろう。トルクス達には心底同情する。軽い気持ちで観光していたつもりが、この国のトップと教会のトップと立て続けに出会ったのだから。


「ハガン陛下から聞いてると思うけど、魔女及び悪魔は神敵だからですから。害がないことを頭の固い人達に説得するには実際に見て判断したという結果が必要なんです。」


 ハルディーは軽く弁明する。


「私達としては魔女は昔の法王(欲深い馬鹿)のせいで扱いが大変なんです。」


「ここ数代はまともです。」


 ノクステリアは少しむすっとする。


「そうですね。先人に対する配慮が欠けていました。前言撤回。腐敗が一番進んだ時代のアホどものせいで、ですね。」


「よろしいです。」


「めっちゃボロカス言うじゃん。」


 トルクスも思わずそう思ったことを零す。

 ちなみに、過去の法王を批判することは「先人を敬うべし。」という教えがある教会としてはあまり行ってはいけないのだが、法王たちがこれなので、最近は結構議論の対象になっていたりする。ハガンが結構ズバズバ言う性格なのもそれに拍車をかけていたりもする。


「取り合えず、害は無さそうなので私達としてはあなた達をタノラに歓迎します。多少教会の人達とごたごたになることがあるでしょうが、その時は私達が認めたということを盛大に利用して貰って構いません。」


 ハルディーはそう言うと、ナーニャとカナに銀章を渡した。


「法王が認めたという証です。この国では少なくとも有効なのでなくさないでください。」


 その銀章の名は”不邪の証”。法王のみが与える権利を持つ証。有事の際に本来なら敵であった者に協力を仰ぐために相手の立場を教会が一時的に認めるという意味を持つ。まあ、超法的手段の一つとでも考えて貰えばいい。


「これってヤバいものじゃないですか?」


 カナはこれを知っており、信じられない物を見たような顔をした。

 それもそのはず。これはあくまでも有事の際での苦渋の決断でのみ使われるべきものであり、普段使いすれば、弾劾されるような代物である。


「私は平民どころか国籍も持たない浮浪者の出ですので難しいことはわかりません。ですが、あなた達と敵対することの恐ろしさは理解しているつもりです。」


 ハルディーは悪意のない顔でそう言いきった。


「更に言いますと、今は有事です。何でも明確に知恵のある魔獣が現れたのだとか。こんな時に中立である門番を相手にするようなアホはいません。あなた達のタノラでの活躍、期待していますよ。」


 その言葉と同時に、ノクステリアは黒い水晶を取り出して詠唱を始める。


「黒く、黒く、黒く。境界は黒く曖昧に。時空よ、歪め。天上の導きに従い、我らはいざ彼方へと至る。さあ、主よ。我らを導き給え!」


 黒が広がり、二人はそれに包み込まれる。

 黒が消えると、そこに人はいない。あったのは滴っていた水のあとだけ。


「なんか、嵐みたいだったな。」


「まあ、悪い人じゃなくて良かったと思いましょ。」


「教会への考え方は見直した方が良さそうね。」


 三人は歩くのを再開させる。


 夜になる前までにはアズラの指定した宿に付いた。

 今日の話をすると、アズラは少し仰天したが、「まあ、あの皇帝さんならそんなもんだな。ハルディーの坊主も立派に成長しやがって。」と言って、笑いながら武器の手入れをしていた。




 最後に、正直どうでもいい話なのだが、翌日の昼頃トルクス達はタノ―トラス川で大きな水しぶきが上がった所を見た。近辺の目撃者によると高そうな服を着た教会の人っぽい感じの男女の二人組だったらしい。

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