85.ハルディ―法王
「法王様。連絡がございます。皇帝陛下が魔女と接触致しました。」
白を基調として組み上げられた巨大な塔。その最上階にて、法王と呼ばれた真っ白な法衣を着た茶髪の男と黒い布で顔を隠した少女がいた。
「えっ、まじ!? 何処で?」
「みんな大好きないつもの喫茶店です。」
「あの人は何してんだよ。あー、マジで昔の法王が恨めしい。何で悪魔と魔女を神敵認定したんだよ。」
タノラの教会で悪魔が神敵と認定されたのは千年前。当時の法王は「神託があった。」と言っているが、神託があったかどうか真偽は不明だ。
「そこまで言うなら解除したらどうですか? 権限はありますよ。」
「バーカ。それこそ教会が揺らぐ。分裂しないように妥協点を見つけてやってきた苦労が水の泡だ。内乱で滅ぶぐらいなら外から侵略されたほうがましだ。」
「法王様としては、まだそれほど苦労していないのでは?」
「はいはい。俺はまだ、法王になって一年のペーペーですよ。」
彼の名はハルディー。最近成人したばかりで、去年に法王となった者であり、平民の出自、異例の若さで法王に就任した異端児である。
「そこまで不貞腐らなくても良いんじゃないですか? 法王様は教会の財政を立て直し、腐敗した幹部連中を一掃しました。」
そして、この少女の名はノクステリア=スターズリー。事情があって歴史ある名家の最後の一人であり、ハルディーとはここ五年の付き合いである。
「で、何でお前はそんな姿をしているんだ? しかも、顔も隠してるし。」
彼女は今、ちょっと露出の多いメイド姿をして、掃除をしていた。
「男の人なら喜ぶと聞いて。顔が隠れてると何か奴隷みたいな雰囲気も出ますし。」
「アホか!? 教会でトップクラスに神聖な場所で相手の欲情を狙うな!」
「相手の喜ぶことをする。これは教えにあることです。」
「理論的にはそうだけどね。雰囲気ってもんがあんじゃん。ニュースになるよ、『悲報!!法王、御付きの少女にふしだらな恰好をさせる!!』みたいな感じで!」
「責任を取って貰えば問題ないと思います。」
「そう言うことは簡単に言ったらだめだよ。まだ今年で14でしょ。素敵な出会いがあるって。」
「既にありました。あとで視察という名目で喫茶店にいきましょう。」
「着替えてくれたらいいよ。」
「わかりました。」
すると、ノクステリアの服は一瞬で修道服に変化した。顔にかかっていた黒い布も無くなり、青い瞳が良く見える。髪は水色でよく手入れが行き届いていた。
「それでは参りましょうか。」
「ちょっと待ってお忍びじゃないの?」
「魔女と皇帝がいるんです。堂々といっても何も言われません。」
「大有りだよ!」
「主よ。御業をお借りします。」
ノクステリアはそう言うと黒い水晶玉を取り出した。
「ちょっと待って!? マジで行こうとしてない!」
「黒く、黒く、黒く。境界は黒く曖昧に。時空よ、歪め。天上の導きに従い、我らはいざ彼方へと至る。」
水晶玉を中心に黒が空間を侵食し、二人を飲みこむ。
「神秘の力をこんなしょうもないことに使うのかよ。」
「さあ、主よ。我らを導き給え!」
黒は一瞬にして縮小し、もうそこに二人はいない。残っていたのは脱ぎ散らかったメイド服だけだった。




