7.最後の一
白い獣と黒い怪物が衝突する。怪物は辺りの一帯を駆け回り、隙を見て、獣に四本の腕で切りかかっている。
グオォーーン!!!!
獣はワルドに咆哮するが、それは風丸の転移でかわされる。風丸は転移を用いて、獣に斬りかかるが、刃は通らない。獣は炎を放出するが、風丸は転移し、炎の勢いはカノンの暴風で減衰させられる。獣は苛立っているのか、辺りの炎は勢いを増していた。
カノンは焦っていた。まだ、戦闘が始まってからまだ3分も経過していない。獣が疲れる気配はない。アルマスが起き上がって来る気配もない。アルマスが動けない以上、疲労の回復、結界による防御などは望めず、残り数分で三人による耐久が崩れるのは確実であった。ワルドの爪も風丸の刃も獣の毛を突破することすら叶わない。彼女に関しては普通の人間であるため、高温によりまともに呼吸が出来ていない。そして、彼女の視界は暗転した。
カノンが倒れる。能力の使いすぎと酸欠だろうと風丸は判断した。カノンが倒れた以上、風で乱されることのなくなった獣は正確に彼を狙ってくる。辺りは火の海で逃げ場はどんどん減る一方だ。刀は高温に晒され使い物にならなくなるのも時間の問題だ。
「風丸!奥の手あるんだろ!!さっさと使っちまえ!」
ワルドが声をかける。風丸の覚悟はその一言で決まった。
「どうなっても知りませんよ!」
風丸は相手の座標を意識し、自身の能力を最大限引き出す。
「死ね!歪曲せよ!!」
獣の周囲の空間が歪み、捻れ、引き伸ばされる。空間がいくら歪んだところで、そこにあるものには影響は余り及ぼされない。しかし、無茶に変化し、変化について行けなかった空間には極小の穴が開く。穴からは外界からの莫大な異物が穴が塞がるまでの限りなく少ない時間もたらされ、獣の周囲には絶大な破壊がもたらされた。
ワルドは奥の手が発動される前にカノン、アルマスを保護、退避した。瞬間、獣方向から、途轍もないエネルギーを感じた。急いで風丸のもとへ向かう。辺りは負のエネルギーで満ちている。ワルドが目にしたのは、瀕死の風丸と、少しかすり傷を負った程度の白い獣が立っていた。
「流石だな、ラストワン。」
ワルドは最後の一については軽くだが、知っていた。彼が知っていたのは、種が残り一体、最後の一体となったとき、その種の面影と神掛かった強さを持った生命体が誕生するということだった。
「愚者と嗤え!俺がここで貴様を倒す!」
ワルドは鱗を纏って、獣に突撃する。獣はただ炎を放出して、辺りは爆炎に飲み込まれる。
「舐めるなぁ!!」
ワルドの手刀が獣に突き刺さり、白い毛は赤く染まる。獣はワルドを蹴り飛ばし、炎を照射した。ワルドは吹き飛び、火の海に転がった。
「ざまあみろ!一矢報い、て、、や、」
ワルドは倒れた。彼が倒れたのは獣からの攻撃もあったが、獣の表面を貫くために操作した負のエネルギーの影響もあった。
自然豊かなジャングルは火の海と化した。獣は既に傷を治し、悠然と火の海に立っていた。