77.日記
カイニャールからの出発を明日に控えて、荷造りを終えたアルマスは久しぶりに纏まった時間を取って、本の解読を行っていた。
「なに、よんでる?」
正式にハクの眷属となったフェリンが不思議そうな顔をして本をのぞき込んでくる。
「残念ながら読もうとしているが、大半は読めていない。一部の単語や式から推測を重ねて解読しようとしているだけさ。」
「ふーん。おもしろい?」
「未知への探求は一部の人間を魅了するのさ。何より、幼かった俺はこの本の内容を理解することを人生における目標としたからな。楽しいかどうかは二の次さ。」
「むかしにとらわれてるの?」
フェリンの言葉にアルマスの顔が一瞬固まる。
「確かに見方を変えればそうなるな。」
少しアルマスは考えた後、そう言葉にした。その後、会話はしばらく続かず、アルマスは本の解読作業をもくもくと進め、フェリンは隣に座って本を眺めていた。
「そう言えば、フェリン。お前、ハクから何か課題を出されていなかったか?」
アルマスは昨日の夜の晩をふと思い出してそう呟いた。それと同時にフェリンはあっ、とした顔になった。
「わすれてた!アルマスおしえて!」
フェリンは机の上からいろいろ問題の書かれた紙を持ってきた。どうやら、ハクは彼女に基本的な知識を教えるために宿題的なものを作成したらしい。
アルマスはちらっとその内容を見て、思わず二度見した。
「これは、、、普通に、、難しいな。」
そこに書かれていたのは、しっかりと学を修めた人々が限界まで頭をひねって解けるかどうかというレベルの問題が数問書かれていた。
アルマスは作問者のハクを心の中で賞賛した後、まともに勉強したことのない少女にこの問題を出すのかと困惑した。
「お前解けるのか?」
アルマスはフェリンに聞く。勿論、フェリンは首を横に振ってアルマスに助けを求めた。紙の下の方を詳しく見てみると、小さく「わからなかったらアルマスに聞いてね!ワルドはダメだよ!」と書かれており、アルマスはこの問題の難易度に納得した。
「俺前提かよ。」
アルマスは気分転換がてら、フェリンと共に問題を解いていく。
フェリンの学習能力はアルマスの想定を越えており、どんどんと問題を理解していく。この学習能力はハク譲りのものか、彼女自身の才か、それとも両方かどうかは今となってはわからないが、人の領域では十分天才と呼ばれる程度であろう。
「このしきがこうなるってことは、このもんだいはこう?」
「そうなるな。あと常人はそこからそこまで一気に論理を飛躍させて理解するのが難しいから相手に伝えるときはもう少し細かくしておけ。」
「はーい」
ハクからの宿題は順調に進み、アルマスが当初予想していた一時間の半分、三十分程度で終了した。
アルマスは課題が終わるとまた本を開いて解読を始める。フェリンもアルマスの隣で本をのぞき見している。
「これって、、にっき?」
「えっ?」
フェリンは読めるはずのない本を見てそう呟き、アルマスはその言葉に思わず声をもらした。
「読める、、、のか?」
アルマスは半信半疑でフェリンに問うた。
「ぜんぜん、てきとうにいっただけだよ?」
「そうか。、、そうだよな。」
アルマスは何だか、がっかりしたような、それともうれしそうな声色でそう呟いた。
「しかし、日記か。その見方は無かった。図鑑や説明書のようなイメージで推測していたが、これは少し、方向性を変えてみるべきかもな。」
その日より、アルマスの解読速度は少しだけ加速した。




