73.カイニャール
「えーっと、国籍はウォルフ。旧スラルか。ハルル諸島出身ね。目的は?」
「物資の補充、休息ですね。」
「商売の目的は?」
「今回はなしで。」
「滞在予定は?」
「一週間程度。」
「わかりました。二週間の滞在許可証を発行しとくね。滞在期間が延びる場合は連絡をよろしくお願いします。」
「最後に同行メンバーの身分証等の提示をお願いします。」
「はい。」
「んー、問題ないし。では、そのまま奥に進んでいってください。」
検問兵に促されて、レンガ造りの通路を抜ける。
ワイワイと賑やかな商店街。旅人達で潤っている宿。狩人や採集者の集う役所。うるさいぐらい訓練兵の声が聞こえてくる修練所。何より、大きな歓声が響き渡る闘技場。
ここはカイニャール。カイニャール連合軍の拠点であり、この大陸の砂漠で五指に入るほど栄えている都市である。町を覆う巨大な壁と深い堀は外敵の侵入を防ぎ、壁内の町の安全を保障している。
アルマス達五人は地図を見ながら取り敢えず、宿の確保に動いている。ヨドリ達は何度か入場したことがあるらしく、アルマス達よりも審査が早くどこかに行ってしまっている。契約に関しても、カイニャールに送り届けるまでであったので特に問題もない。
「海楽しかったよね。」
ハクが移動中のことを言う。
「お前だけだろ。普通の人間は蛇の大群に追われたらトラウマもんだよ。」
ハクにアルマスは若干呆れながら言う。
アルマス達はヨドリ達と共にカイニャールに来る最中に砂漠に面していた海に寄っていた。アルマスは半日程度そこで休憩をするつもりであったが、ハクとテル、アリスがいろいろとはしゃいでやってしまったため、大量の生物に襲われることになってしまったのだ。その雑魚はヨドリの電撃で一掃できたのが良かったが、一部の強力な個体は知性を持っていたのが厄介だった。
「今回は商売はしない感じ?」
カノンがさっきの検問所の話についてアルマスに質問した。
「ああ、需要とか市場規模は確認するが、サーサである程度稼いだからな。残ってる数もそんなに多くないし」
どうやらアルマスの収納していた品に底が見え始めてきたらしい。また、残っているものも食料だったり、鉄鋼などの材料系なので有事の際にも備えておきたい気持ちもあったりする。
「じゃあ、一週間は自由ってこと?お小遣い頂戴!」
「はいはい。カノン、適性金額ってどんくらいだと思う?」
「ハクはあったらあるだけ使うから一日ごとに少額ずつ渡すのが正解だと思うよ。アルマスは研究漬けだったから知らないと思うけど、ハクは貰ったお金は次の日には全て使い切ってたから。」
カノンはカルワルナでのハクの生活を思い出してながら言う。
「それはそうだろうな。金が生命と繋がっている人間の金に対する価値観と繋がっていない野郎のそれに対する価値観はまったく違うからな。」
アルマスは本から金を取り出してハクに渡す。
「晩には帰って来いよ!」
「はーい!」
ハクは金を受け取ると走って何処かへ行ってしまった。
「あと、風丸とワルドにも、手持ちはあるだろうが取り敢えず渡しておく。給料みたいな物だと思って受け取ってくれ。増額要求は受け付けるから言ってくれ。」
「やったぜ!」
「ありがとうございます。」
「宿の確保は俺達でやっとくから二人共自由行動でいいぞ。ワルドは知らんが、風丸は調査とか行きたいだろ?」
アルマスがそう言うと、風丸とワルドもその言葉に甘えて、町の何処かへ行ってしまった。
その後、アルマスとカノンは宿場で宿を確保して、昼食がてら酒場に入った。
「二人でこういうとこ来たのいつぶり?」
「二人で来たって意味なら三ヶ月も経ってないぜ。最近が濃密過ぎたんだよ。」
「この時期はまだ学校で勉強しているつもりだったのにね。」
カノンは少し寂しそうに言う。
「その話はよしとこうぜ。悲しくなる。だがまあ、どんな悲劇でも起こったことには結果がある。結果があるなら意味がある。意味があるなら価値がある。その価値の積み重ねが今の価値だ。積み重なっていくなら必ず今は過去より価値あるはずだ。過去は重要だが、今をないがしろにしたら意味がない。過去が重くてしんどくて、今を壊してしまいそうなら、忘れて楽になったほうがいいと俺は思う。」
アルマスはカノンを気遣ってか、自論を言った。
「そういう考え方もありね。でもそれじゃあ、肝心なところは乗り越えられなくない?もし、またその障害が現れたら?」
カノンはからかう感じで言う。
「そん時は、、そん時は、、、そん時の俺に任せればいいだろ。昔は耐えれないくらいしんどいことも今では笑い話なんてよくあることだろ?」
「確かにね。それでも耐えれそうにないなら?」
「それでも乗り越えられないことは、、そうだな。いっそ死んでみるか?もし、命を掛けれる程の眩しい夢があるなら、その夢に全部賭けてみろ。夢がなければ夢を見つけることに全力を出せ。そんな夢にすら目指せなくなる程耐えれないようなことなら、夢破れたのなら、賭けたものを失って俺達は死んでいるはずだ。しょうもない夢でもいい。俺はそんな破滅街道まっしぐらを行く馬鹿を知っている。」
「物は考えようね。」
カノンは笑った。
「おいおい、そこの白い兄ちゃんら。こんなところで難しい哲学話してないで、飲んで騒ごうぜ!」
アルマスに対して近くに座っていたおっちゃんがそう言って酒を進めてくる。
アルマスは「昼間から酒は、、」と言って断っていたが、ちょっと話している間に意気投合して思いっ切り騒いでいる。ちなみにアルマスは体質上酔わないので素で騒いでいる。
「今日は俺の奢りだ!!!」
「「「うおおおおお!!!!」」」
「アホか!!!!!!!」
アルマスの頭にカノンの拳骨が落ちたのは言うまでもないだろう。




