55.話
昼の十二時頃、整備された山道を白い獣が引く馬車が走る。
「カノン、ハロールまで後どのくらいなんだ。」
ワルドがカノンにスラル王国の首都ハロールまでの時間を聞いた。
「詳しくは分からないけど、このペースだと、後二日三日くらいだと思う。」
ハクの引く馬車のペースは落ちており、その理由としては出発時ぐらいの速度で走られると馬車が壊れるだかららしい。また、途中に魔獣が大量に沸いている場所があったりなど、トラブルは遠回りを重ねたため当初予定していた日よりも大幅に遅れていた。
「やっぱ、あれやらないか、空中移動。魔獣も出てこないし暇だ。」
「あれはやらんと出発前に決めただろう?ヘーテスにも本気で止められたしな。船の時より短いだろ。」
さっさと町に行きたいワルドにアルマスはそう言った。
今回彼らはリアナ区域からカルワルナに向かった時のような無茶な空中移動法は使っていない。理由としては、とても疲れるのでやりたくない、担い手を探すために細かい村にも寄っていった方が良いなどあるが、一番はヘーテスに止められたのが大きい。どうやら、今の空は物騒らしい。なので、彼らは馬車を使ってゆっくり旅をしている。
「船上はなんやかんややることあったから暇しなかったんだ。釣りもあったしよ。そうだ、ハク。馬車引くのやらしてくれよ。」
「僕はいいよ。」
「いや駄目だろ。ハクはまだしもお前は完全に怪物じゃないか。また誤射されて揉めるのは勘弁だ。」
ハクは馬車を引くのを変わってもいいというスタンスであるが、アルマスがそれを却下した。アルマスとしてはリアナ区域のように揉め事になることは面倒なので避けたいようだ。
また、ハク自身も暇つぶしのために走っているような状態のため、強制労働させられているということではない。また、ハクが走りたくないと言ったならばアルマスは歩く気満々であった。
「じゃあ、皆で徒歩で良いんじゃないでしょうか?時間に関しては特に何もないのでしょう?」
風丸が話に参加して来る。さっきまで刀の手入れをしていたが、もう終わったようだ。
「それだ!」
ワルドは風丸の意見に賛成する。彼の暇つぶしは徒歩で出来るらしい。
「私はどっちでもいいわ。馬車は楽だけど、体動かすのは大切だしね。」
カノンは歩くことは問題無さそうだ。
「じゃあ、歩くか。」
アルマスはそう言うと全員馬車から降りて、簡単に分解してアルマスが本に収納した。ハクは人型になり、五人は徒歩での移動を始めた。
カノンによって良い感じにそよ風が吹き、たかってくるような虫はアルマスの術によって対策されている。アルマスの本から取り出される料理されたてで保管された食料で食べ歩きを楽しむ。ジャングルの時と比べ、整備されている道を進んで行くためかなり快適な歩き旅である。
周囲ではアルマス達から離れすぎない程度の森の中で黒い尻尾を生やした男と犬くらいの大きさの白い獣が凄まじい速度で追いかけっこをしている。その動きは流石の一言に尽きる。
「ワルドってやっぱ、素の身体能力高いというか異常だよな。」
アルマスはワルドを見ながら言う。カノンや風丸は確かにと反応した。
「イグテスの話だとワルナトロティカの力は結晶の操作や生み出すことだから、結晶を体に纏わせたりして結晶を操ることで間接的に強化しているんじゃない?」
カノンがイグテスの話を思い出しながら考える。確かにその理屈ならば結晶を上手く操作できればあの異常な身体能力は説明できる。
「しかし、それだと尻尾の説明が出来ません。」
ワルドが人間であることはトルクスや悪魔の眼からも明らかであり、混血でも無い為尻尾は能力から来るものであるということが考えられる。
「元々何かしらの能力を持っていて、それがワルナトロティカに上書きされたからバグったのか。」
アルマスはそう考えた。
「能力についての詳細を知らないから、的外れかも知れないけど、あのワルナトロティカに塗り潰されても影響力を維持している元々あった力って結構ヤバい物だったりして。」
カノンはアルマスの考えからワルドの能力について考えた。三人のワルドの能力についてから始まった話はだらだらと内容がどんどん変わりながら続いた。
「で、浦島はどうなったんだ。」
「彼は煙に包まれた後に一気に老化してしまったというオチです。」
今はどうやら風丸が昔読んだ話について話していたようだ。
「そんな御伽噺があるのね。製本化したら売れるかしら。」
カノンは風丸から聞いた話を本にして売り出そうか考えた。
「バットエンドだから俺は買わんな。それにしても海を潜るとか恐れ知らずにも程があるな。」
「それはあんたの好みの話でしょ。第一、環境が違う遠く離れた土地の物語なんだから私達の常識を持ち込むな。最後アルマスの番よ。」
カノンは風丸よりも前に昔読んだ話について話していたため、最後のアルマスの番が話す番が回ってきた。
「分かった。でも、カノンが話した物と被るからな。どうしようか。」
アルマスは何を話そうか迷っている。先にカノンがハルル諸島に存在する数少ない御伽噺を複数話したせいでもう話が残っていない。ちなみにカノンは意図的に複数の御伽噺をしていた。カノンは困ったアルマスの様子を見て面白がっている。
「そうだ。昔シャルから聞いた話をしようか。始まりは確か、、、」
アルマスは遠い記憶を頑張って思い出す。
「昔々、ある赤ん坊が村で生まれました。赤ん坊が生まれるとその村は豊かになり、村の人達は丁重にその赤ん坊を育てました。赤ん坊はすくすくと成長し、立派な青年になっていきました。彼は村の人の願いを叶えていきました。
ある日、その青年の所に隣の村の女性が訪ねてきました。その女性は彼女の村も豊かにしてくれと頼みにきました。青年は当然のようにその願いを叶えました。
その内その評判を聞きつけた別の村の人達が自分の村もと押し寄せました。青年は困ったことにそれだけの人の願いを叶える程の力を持っていませんでした。なので、自身の力を全ての人に与えることにしました。しかし、人の数は多すぎて一人一人に与えられた力はとても弱くなってしまいました。
人々は願いました、再び彼のような存在が現れることを。、、、すまん。ここから先は忘れた。」
アルマスの話は忘れてしまったという理由で唐突に終わった。
「忘れたって結末も覚えてないの?」
カノンはあきれ気味に聞く。アルマスは親指を立てて反応し、カノンはため息を吐いた。
「仕方ないだろ。七、八年前に一回だけしか聞いたことないんだから。当時の俺はそんな記憶能力が高くなかったんだよ。」
アルマスはシャルから大分前に聞いたことを盾にカノンにそう言った。カノンも確かに仕方ないかと呆れるのをやめた。
「少し続きが気になります。後、前に聞いた人の持つ信仰や思念の力に似ている要素があったので、そこも気になりました。」
風丸はこの話と前の話を組み合わせ考える。アルマスとカノンも確かにと思い、話し合いは加速していきそうであったが、
「猪取ってきた。食おうぜ。」
話し合いはワルドとハクが戻って来たため終了した。




