3.会話
出港して1日が経過した。カノン、アルマスは舵を、ワルドと風丸は見張りをそれぞれ交代で行っていた。カノンにより嵐は事前に避けられ、何も起こらない平和な時間が流れている。見張りや舵以外にも洗濯や掃除、飯の準備と仕事はあるので基本的には暇にはならない。また、暇になったら釣りをするのがこの船の決まりだったりする。
「船旅は大抵こんな感じで暇がないものなのか?」
ワルドがアルマスに質問する。現在、見張りは風丸、舵はカノンが行っており、ワルドとアルマスは船の掃除をしていた。
「いや、まず、こんな少人数で航海を行うこと自体が異例だ。普通ならもっと人を雇っている。俺らの場合は俺とカノンの能力が船旅に対して相性がいいから成り立ってるだけだ。だから、説得力の欠片もないが俺らのまねごとはやめとけよ。死ぬから。」
「はいはい、わかりましたよ」
このような感じで適当に会話していると、アルマスは
「アルマス~!変わって~」
というカノンの一声で甲板へと舵を交代しにいった。
しばらくして、アルマスと変わってきたカノンもワルドの方に掃除を手伝いにきた。
「まだ、1日しか経ってないけど、船旅は問題なさそう?」
「特に問題はない感じだ。そっちこそ無理してないよな?アルマスに聞いたが結構無謀な航海らしいじゃないか?それほどまでにお前らの力は海特攻なのか?」
「私は風の力で正直怪獣が出ない限りは予定通りに航海できるし、アルマスに関しては準備さえすれば、物資及び食料には困らないからね。大抵の海は二人で事足りるの。」
「ちょっと待て、アルマスは只のバフ配る奴じゃなかったのか?」
「彼の力は異質でね、何でも魔法の本で収納とか魔法とかなんでもできる能力らしいのよ。本人曰く、まだ、本の解読がまったく終わってないからほとんど力を発揮出来てないらしいけど。そういえば、あなたの能力は何?昨日の朝は手足どころか全身真っ黒だったけど。」
流石にカノンはワルドに昨日の姿について質問した。
「あ~、嘘ついて悪かった。俺はざっくりいうと、真っ黒い鱗に覆われた怪物になる能力だ。全力は出したことないから知らん。まあ、大陸の魔獣相手にいろいろ試すつもりだ。」
グダグダと話しは続き、それはワルドと風丸の見張り番の交代まで続いた。
現在、風丸は釣りをしている。ワルドに見張りを変わって貰ってからやることが無かったので、ずっとこうである。彼は釣りをしながら、先ほどまでのアルマスの会話を思い出す。
「風丸、お前、その角からして鬼との混血か?」
「はい、その通りです。和のにしゆめ姫の納める地からやってきました。」
「お前、大陸行ったら何するつもりなんだ。まさか、賞金目当てとかではないよな。どうせ、国から調査を依頼されたクチだろ。」
「ばれてましたか。まあ、問題ないんですが。正直さっさと終わらせて帰りたいです。どうせ、いつもの様に大陸に問題なしって報告することになるだろうし。」
「そりゃ、御愁傷様。がんば!」
「そういえば、あなたに聞きたいことがありました。」
風丸は少し真面目な口調で質問した。
「あなたは純粋な人間ではないんじゃないですか?」
アルマスは黙ったままだ。いや、少し悩んでいるような感じもある。そして、
「多分、そうだろう。只、俺も良く分かっていない。カノンには伝えないで欲しい。少なくともこうなったのはここ数年の話だからな。」
「わかりました。」
じゃばじゃば
気が付くと竿が引かれている。魚が釣れたようだ。風丸は難しいことは忘れて久しぶりに魚を捌こうと台所へと向かった。