31.イグテス
アルマス達が蛇ゴリラとやりあっている上空で、巨大な龍とハクが睨み合う。ハクは炎を纏い、いつでも戦いを始められる体勢だが、龍は何もせず、ただ空中で停止しているだけだった。ハクが先制攻撃しないのは、本能が勝てないと警告を発しているからだった。
「話し合いは無理そうか?出来るならそちらの方が俺はうれしいんだがな、ラストワン。楽だし。」
龍は突然、ハクに語りかけた。どうやら、戦うのは面倒臭いらしい。
「いいよ。じゃあ、質問するね。何で来たの?要件は?」
ハクは龍に問い掛ける。
「その前に自己紹介をしておこう。俺はイグテス。伝承とかに出てくるイグテスで間違いはない。で、ここに来た理由だが、」
「ちょっと待って。イグテスって鳥じゃなかった?」
ハクは龍が自分のことをイグテスと呼んだことに驚く。ハクは学校にいる間に歴史や伝説についても勉強しており、伝説の中ではイグテスは巨大な鳥と記載されていたためだ。
「それについては、伝承が間違っている。俺は決まった姿を持たない。出力が高くて、コスパが良いのが鳥の姿なだけだ。第一、俺がイグテス本体ではなく、分身体であることも関係している。分身体は独自の自我、性格、価値観を持っているが、知識や根本的な部分は変わらないし、常に共有されている。だから、交渉とかに関しては、どの個体で来ても問題ないというわけだ。今回はたまたま、龍の俺が近くにいたから来ただけだ。」
「納得したよ。それでここに来た理由は?」
ハクは警戒を解かずに聞いた。
「そうだった。ここに来た理由はメヤタルナの要塞が起動されたからだな。あいつの作品でかなり昔に作られてるから、最悪、暴走して、辺り一帯を吹き飛ばしかねんからな。だが、その心配は無さそうだし良かったんだがな。面倒臭い気配を感じてここにとどまってるって状態だ。」
イグテスは蛇ゴリラとアルマス達の戦いを見ながら喋った。ハクは更に質問する。
「面倒臭いっていうのは何?生物?君より強い?」
「俺とはどうかはわからないが、本体よりは弱い。心当たりとしては、魔とか天使、伝承レベルの怪物の気配がしたんだが、あっ、お前も面倒臭い奴のカウントに入るぞ。人と普通に生活するラストワンとか、十分に世界のバランスに影響与えられるし、俺に傷を与えられるからな。」
イグテスはハクを指差しながら笑う。
「今のところは基本的に個人にしか、力を貸さないから大丈夫だと思うよ。人という種に肩入れするかどうかは長い時間を掛けて判断するよ。」
ハクは若干笑いつつ答えた。
「それは良かった。十分に悩めよ。人は醜いが面白い。決断を急ぐな、我々は不老なのだから。」
イグテスはハクの言葉を受けて機嫌が良さそうだった。
「そういえば、その剣、誰から貰った?」
イグテスは突然、ハクが背負っている剣に注目した。
「あの蛇を押し潰してる人だよ。」
ハクはアルマスの方を見る。イグテスもそちらを向く。視線の先のアルマスは尻尾の蛇に杖を打ち出したところだ。打ち出された杖は蛇の頭に引っ掛かり、一瞬、眩い光を放つ。
「あの光は、、、面倒なことになることが確定してしまっていたのか。役職は運搬、、運び屋か?ならば、その剣は虚剣になるのか。」
イグテスは思考を巡らせ始めるが、ハクは関係なく質問する。
「この剣って虚剣って言うんだ。で、虚剣って何?」
「虚剣は簡単にいうと、聖剣から中身を抜いたものだ。人類はまだ、解明してないようだが、万物は自分の世界を持っており、基本的にそれは様々なもので構成れて、満たされている。虚剣と聖剣は物質的には製造された瞬間は同質だ。聖剣の世界は聖剣たらしめるもの、つまり、愛とか勇気とか希望とか、そういう綺麗な物で構成されているんだ。まあ、そんな者を固めて造ってるから、一部の相性が良い奴しか使えないんだが。虚剣は完全にそこが抜け落ちており、世界に関しても器があるだけでなにもない。で、ここからが面白い特性何だが、虚剣は自身の世界を持ち主の世界と同一にしてしまう。つまり、使い続ければ、自分専用の剣が出来るんだ。性質、材質、形状も変化するぜ。俺達の人系個体達も持ってるぜ。槍とか弓とか盾とか、何なら鎧もいた。お前の剣がどうなるか楽しみだ。あと…」
イグテスの話は止まらない。風丸が時間稼ぎを始めるときぐらいに、イグテスが若干、雰囲気を変えて話す。
「最後にこの世界が面倒なことになることについて話しておこう。聖なる道具が現れたということは、明確な悪が出てくることの証明であることは知っているか?」
ハクは問い掛けに答える。
「聖槍とか、聖弓の話なら知ってるよ。」
イグテスは満足そうに頷く。
「この世界において、最初の剣は人を殺すために造られた。つまり、敵は人、人類であることが考えられる。これまで、世界を変革してきたのはいつも人類だった。武器という概念を創る、神を封じる、そして空を閉じたのも人類だ。力を持った人は必ず世界を変革する。気を付けとけ、最悪、法則すらぶっ壊れるぞ。ハルルとか、俺達の本体がでしゃばることがないことを俺は願う。まあ、ワルナトロティカも封印されてるし、神を復活させて、空を開けない限り、そんなことはないと思うけどね。ガハハハ、、、は!????」
イグテスは豪快に笑っていると、ワルドが巨大な黒い怪物になり、蛇ゴリラを消し炭にした。
「ワルド、デカっ!」
ハクはワルドの変化に普通に驚く。
「はぁ~、俺達も巻き込まれることが確定したようだ。」
イグテスは大きなため息をついて、この世界の行く末を憂いた。




