1.人集め
ある酒場で二人の男女が話している。
「最近、いろいろと物騒だな、君のところは最近どう?俺の所は船が借りられなくて、物を運ぶどころか海にすら出れていない。」
アルマスはニ年前、事故で船を失ってからも船を借りて、運び屋の仕事を続けてきた。しかし、最近、怪獣が出るやら、災害がよく起こるため、船の損失を恐れてどこも船を貸してくれない。結果、この村で日雇い労働をして、船を買うための貯金をしつつ生活している状態である。
「私のところは大儲けさせて貰ってますよ。強敵が消えたのと海を渡るのにリスクが高いお陰で、依頼人からは正当な理由で大金を貰えるし、適当に持っていった商品も高く売れるんですよ!もう、サイッコー!!」
アルマスの話相手になっている彼女はカノン。アルマスとは幼馴染であり、数年前までは良き競争相手であった。しかし、アルマスが事故で船を失ってから、実質的に彼女の独占状態にあると言える。
「あー、聞かなきゃよかった。もう少し頑張って、もっと早くに船を買おっかな~。例の件もあるし、大陸の方も行きたいし。」
「例の件って何?何か大型の発注でもあったの?」
カノンは例の件という言葉に食いついた。アルマスは必死に誤魔化そうとしたが彼女の質問責めの前に大人しく白状した。
「いや、前遭難したときに質の良い鉱石を大量に拾ってさ、最近まで、本にしまいっぱなしだったことを忘れてて、大陸ではあんまり採掘できないものだから、そろそろ売り付けに行きたいな~とか思ってたんだよ。」
ちなみに彼が最近まで忘れていたことについては事実である。これに対し、彼女は
「じゃあ、私の船で行く?次の依頼が大陸案件で正直、用心棒が欲しかった所なのよねぇ~。最近、大陸の国がどっかと戦争してて物騒なのよ。後、荷物の運搬が楽になるし、あんたの本って便利そうで羨ましい。」
アルマスは正直、ニ年前まで、強かったが怪獣相手に立ち回れるかというとそうではなかった。しかし現在では、ある程度までなら、航海中に普通に討伐して、次の島で売り捌くなどはよくやっている。なのでカノンはずっと遭難中何があったのか気になっている。
「どっかってどごだよ?後、その話乗った!」
アルマスは正直、良いタイミングだと思った。鉱石関連で荒稼ぎできそうというのもあるが、戦争中ということは英雄が生まれやすい。ということは聖剣に値する人物が現れやすいのではないかと彼は思う。
「ありがとう。でどこかという問題なんだけど、相手が人外というか、魔獣ばっかで良く分からないらしいよ。あっ、出港は一週間後だから準備しといてね。乗組員は正直私たちで事足りると思うけど後2~3人くらい戦闘員が欲しいかな。プラスで、もし、大陸に行きたいって人がいたら数人程度なら問題ないよ。この人らからお金は頂くけどね!後、会計よろしく!」
といって彼女は酒場から出ていった。
ちなみに彼らはまだ酒は飲めない。しかし、酒場ではデマを含め多くの情報が入りやすいので、主に運搬業を営む彼らにはとても重要な場所なのだ。
「おい、ちょっと待て!お前結構食ってなかったか!?、、行っちまったか。それにしても戦闘員か。役所で声かけてみるか。」
アルマスは酒場を出た後、彼は村の役所へと向かった。役所では討伐した魔獣の素材の取引場という側面があり、討伐、輸送、採取の依頼なんかも来たりしている。なので、ある程度の強さを持った人が結構いるのだ。
役所は人だかりができていてなかなか中に入れない。何か、あったのだろうか。彼は適当なおっさんに話しかけてみた。
「おっさん、今日何かの特売でもあったりしたのか?」
「おっ!運び屋か。俺も詳しくは知らんが大陸の方で何かあったらしい。それで兵が欲しいっていう依頼がいい報酬で来ているそうだ。それで、狩人とか傭兵とかいう腕っぷしに自信がある奴らが集まってきているらしい。」
ちなみにアルマスとカノンの名はこの地域では知れ渡っており、ちょっとした有名人でもある。
「情報あざっす!俺はもうちょい詳しく見てくるよ!」
彼は役所の掲示板に書かれていたことを読んできた。内容を要約すると、「最近戦争が激化して戦える人が少なくなってきたので、人が欲しいです。相手は基本魔獣で報酬はいっぱい出します。この村からは100人程度募集します。選考会は三日後です。」という感じだった。アルマスの住む地域は小さな島が大量にある諸島であり、ハルル諸島と呼ばれている。大陸へは普通に船で行くには1か月かかるぐらいの距離だった。この感じだとハルル諸島からは合計1万の兵を集めたいみたいな感じだろう。
アルマスは選考会に落ちた奴らに声を掛けようと思って、今日は家に帰って荷造りした。
次の日の夕暮れ
アルマスとカノンは役所の前にいた。役所では選考の結果が張り出されている。彼らの依頼もカノン名義で隣で小さく張り出させている。内容は「大陸に物を輸送するので、ついでに行きたい護衛の出来る人を募集します。報酬は普通、食料はこっちで負担します。」みたいなものだ。
結果からいうと、二人の冒険者が依頼を受けた。一人目は大男で尻尾が生えている。名をワルド。尻尾は黒い鱗で覆われており、戦闘時は腕と足も鱗が出現するようだ。性格は陽気で特に問題はなさそうだ。フィジカルがとても高い。選考に落ちた理由が魔獣に似ているところがあり、毛嫌いされたかららしい。
「あんたらの船にのせてもらうことになったワルドだ。中型の龍くらいなら安定して殺してみせるぜ、よろしく。」
二人目はワルドほどの衝撃はなかったが額から二つ角が生えた青年であった。名を風丸。帯刀しており、体力もあるので問題なし。性格は大人しい。落ちた理由もワルドといっしょだ。
「風丸です。どちらかというと対人戦の方が得意です。よろしくお願いします。」
こうして、護衛メンバーはアルマス、ワルド、風丸の三人に決まった。