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思わず溢れでる心情

「ほら、出ておいで」


ユリシスのその言葉におずおずと前に出て来たのは、紛れもなくリリーシュだった。ルシフォールは目をこれでもかという程見開き、勢いよく立ち上がる。その瞬間彼の座っていた椅子が大きな音を立てて倒れたが、そんなものはルシフォールの耳には全く入っていなかった。


「ルシフォール様。ご機嫌はいかがですか?執務中にお邪魔してしまい、申し訳ございません」


リリーシュは恭しく挨拶をすると、若干不安そうな表情を浮かべる。ユリシスに誘われるがまま着いてきてしまったが、本当に良かったのだろうかという気持ちが拭えなかったのだ。


「ルシフォール。何か言ってあげたら?」


にやにやといやらしい笑みのユリシスを、殴りたいやら褒めたいやらルシフォールは複雑な心境だった。リリーシュがずっと不安げにしているので、彼はグッと拳を握る。


「ユリシス。お前無理矢理連れてきただろう」


「心外だなぁ。君の為にと思って頑張ったんだよ?何故か色んな人に邪魔されたんだけど、そこはまぁこの僕だからね」


パチンと得意げにウィンクしてみせるユリシスを無視して、ルシフォールはそのアイスブルーの瞳をリリーシュから逸さなかった。


「あの。やはり私執務の邪魔になってしまうのでは」


「ならない」


「えっ」


「あ、いや…」


ルシフォールが食い気味に答えたので、リリーシュは驚く。そんな彼女を見て、ルシフォールはバツが悪そうに後ろ頭に手をやった。


「そうですか。良かったです」


ルシフォールの言葉にリリーシュは安堵し、ふわりと笑顔を浮かべる。ルシフォールの瞳がまた、まるで時が止まったかの様に見開かれた。


リリーシュはそんなルシフォールの様子に気付かず、嬉しそうに手にしたバスケットを揺らした。


「ユリシス様から、ルシフォール様があまりお食事を摂られていないと聞いたので、チーズを挟んだパンを持って来たのですが。宜しければお召し上がりに」


「会いたかった」


ルシフォールの言葉に、次はリリーシュの瞳が見開かれる番だった。ヘーゼルアッシュの瞳が、部屋に差し入る陽の光を浴びキラキラと光っている。


「会いたかった、リリーシュ」


ルシフォールは半ば無意識の内に、もう一度そう言った。リリーシュは思わず、手にしていたバスケットをとさりと落としてしまった。


「あ、あのルシフォール様」


今までこれでもかという程ルシフォールから辛辣な言葉をぶつけられていた所為で、流石のリリーシュもすぐには頭が追いつかなかった。


頬をピンク色に染め、取り乱した様子であたふたしている。それがとても可愛らしくて、ルシフォールは今すぐにでも彼女を腕の中に閉じ込めてしまいたい衝動に駆られた。


「僕もいるって事、すっかり忘れられているなぁ」


ユリシスは腕を組み、部屋の隅の壁にもたれながら小さく笑った。

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