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裏側の男達

「なぁ。君はどうしてこんなおもしろい事をしているんだい?」


ルシフォールの執務室にやってきたユリシスは、アンティークチェアに腰掛けながら優雅な仕草で脚を組んだ。その顔には、実に愉快だと言わんばかりの薄ら笑顔が張り付いている。


「煩い。お前の所為だ」


ルシフォールは苛々とした様子で、机の上に置かれた書類を睨みつける。いつもならばこの程度の量すぐに捌けている筈なのに、ここ最近気を抜けばすぐに意識が他の場所に飛んでしまうのだ。


「僕の所為?それは一体何故かなぁ」


白々しい。この男は本当に、食えない性格をしている。優秀であるが故に様々な事に頭が回り、常に先手先手を打って相手を負かす。更にタチが悪いのは、一見そうは見えない物腰の低い優男風であるいう事。口八丁手八丁で、気が付けばすっかりこの男の術中という訳だ。


「お前は一体何が目的なんだ」


「目的?そんなものはないさ。僕はただ純粋に、リリーシュとの時間を楽しんでいるだけだよ。それを過剰に気にしているのは、君だろう?」


「俺は別に、過剰に気にしている訳ではない。庭園になど何の興味もない癖に、毎日の様に足繁く通っている事が不可解だと言っているんだ」


「あれ、どうして僕が庭園に通っていると知っているの?あぁそうか、君の部屋の窓からは庭園が見えるんだっけ」


「この…」


「あーはっは、何て面白いんだ」


目の前で高笑いするこの性悪の従兄弟を、今すぐ斬り捨ててやりたいとさえ思ったルシフォールだが、剣に伸びる手を必死に抑え盛大に溜息を吐いた。


「で。話を戻すけど、どうして君はこんな面白い事をしているの?リリーシュを夕食に誘っておいて、君はただ黙って食べているだけなんだって?それ、何の意味があるのかな」


「…」


「まったく、都合が悪くなるとすぐだんまりなんだから」


「お前には関係ないだろう」


「そんな事はないさ。僕はリリーシュのお友達だからね」


「友達、だと?」


「そうだよ、お友達。彼女とても嬉しそうにしていたなぁ。ここでの生活は、やっぱり寂しいみたいだから」


ユリシスのその言葉に、ルシフォールは食堂での出来事を思い出す。リリーシュが、ユリシスを「家族の様」と表現した事を。そしてあの、物悲しそうな表情。


思えば一番最初に食事に招いた時も、彼女は「一人で食べるのはつまらない」と言っていた。あの時は、どうせ自分に取り入るための嘘だと思い歯牙にも掛けなかったが、どうやらあれは本音だったらしい。


いや、本音だからどうだというんだ。自分には全く関係のない事であり、夕食に招く様にしたのも只の気紛れ。変な事をしでかされないか見張る、監視の意味でしかない。


「君達二人は良く似ているよ。ねぇそう思わないかい?ルシフォール」


「よせ。そんな筈ない」


プイッと突っぱねれば、ユリシスは溜息を吐いて立ち上がりルシフォールの前にやって来る。


「もう良い加減強がるのは辞めなよ。今までとは違うと、君だって気付き始めている筈だ」


「俺は何も違わない。今まで通り、あの女が何か一つでも変な素振りをすればすぐにここを叩き出す。女など絶対に信用できない」


「ふぅん。まぁそう言うなら、僕はもう何も言わないけど」


ユリシスは言いながら、机の上にあるルシフォールの指先がそわそわと動いているのを見て、内心にんまりと口角を上げたのだった。

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