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ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。  作者: 清澄 セイ


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小さな子供の様

「あの、殿下」


いつまで経っても黙ったままのルシフォールに、リリーシュが恐る恐る声を掛ける。今のルシフォールは何だかただならぬ様子で、自分の回答はまずかったのかと彼女は不安になった。


「…もう良い」


「えっ」


「この話は終わりだ。さっさと食事を摂れ」


「殿下」


「もう良いと言っている」


良いと言うなら、良いか。リリーシュはそう考え、それ以上何かを口にする事を止めた。今日のルシフォール殿下は何だかおかしいと思いながらも、取り敢えずまだ追い出されずに済みそうだと、内心胸を撫で下ろした。


それにしても、だ。


(エリオットにも、昔言われた事があったわ)


父の知り合いの貴族に同じ年頃の息子が居て、一時期良く我が家に遊びに来ていた。活発な子で、リリーシュもその子と遊ぶのは楽しかった。エリオットも一緒にと何度か誘ったが、彼はただ嫌そうな顔をするだけ。


そして、言われたのだ。


ーーリリーシュは、好きでもないヤツに媚を売っている


と。


(あの時は意味が分からなくて、嫌われたのかと悲しかったわ)


暫くするとその貴族の子は来なくなり、エリオットもそんな事は言わなくなった。幼馴染を取られた様で、寂しかったのだろうか。


きっとルシフォール殿下も、ユリシスを取られた気分になったのかもしれない。


「…ふふっ」


半ば無意識に、リリーシュはルシフォールを見つめながら小さな笑みを浮かべた。自分に対してはこんなにも嫌な男なのに、ユリシスを取られたとヤキモチを妬くなんて可愛い所もあるではないかと、微笑ましく思ったのだ。


近頃ルシフォールに接すれば接する程、リリーシュはエリオットを思い出す様になっていた。その所為で、彼の嫌味すら可愛く思い始めている。


リリーシュの心は自分でも気付かない内に、エリオットと会えない寂しさを紛らわそうとしていたのだ。


「…お前は」


「はい」


「いや、良い」


(また、言い掛けて辞めるのね)


正直に言ってあまり良い気分ではないが、考えても仕方ない。いつの間にか目の前には料理が運ばれており、ピカピカに磨かれたグラスにワインが注がれる。ルシフォールはすっかり口を閉ざしてしまい、また黙々と食べ進めている。


それはもう、本当に美味しくなさそうに。


リリーシュは気を抜くとまた笑ってしまいそうになる頬を、キュッと引き締めた。リリーシュがここで食事を摂る事に、ルシフォール殿下は異議を唱えない様だ。


リリーシュは給仕係に丁寧に礼を言うと、フォークを使い前菜を口に運ぶ。いつも部屋に運ばれている料理と同じものである筈なのに、やけに美味しく感じる。


「とても美味しいです」


感想を述べても、返事は返って来ない。もとより期待もしていなかったリリーシュは、気分を害する事もなく美味しい食事に舌鼓を打ったのだった。

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