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ご機嫌斜めの王子様

指導官と数分会話をした後、リリーシュはくるりと向きを変えルシフォールをジッと見つめた。そしてにこりと微笑むと、それは丁寧なカテーシーをしてみせる。


「殿下。貴重な訓練のお時間を邪魔してしまい、大変申し訳ございませんでした」


「全くだ。こんな場所が見たいなどとは、まともな公爵令嬢とは思えないな」


「殿下の仰る通りでございます。私はこれにて、失礼させていただきます」


「は?」


思わずそんな一言が口をつき、ルシフォールは慌てて手を当て誤魔化した。先程まではあんなに楽しげにユリシスや指導官と会話を交わしていたというのに、王子である自分とはたったの数言。それなのに、何故か彼女は満足そうな笑みを讃えている。


意味が分からないと、ルシフォールは非常に不愉快だった。こいつは一体、ここに何をしにやってきたというんだ。まさか本当に、ただ見物に来ただけというのか。こんなにも寒く、殺伐とした、ただ訓練をする為だけの場所に。


「…何が目的だ」


ルシフォールの地を這うような声色に、リリーシュの肩がピクリと反応する。ルシフォールはアイスブルーの瞳を細めながら、一歩彼女に近付いた。


「お前は一体、どんな方法で取り入ろうとしている」


「殿下、私は」


「良い加減、目障りで仕方ない」


最近のルシフォールは、以前にも増してピリピリと苛ついていた。自分自身も、この腹立たしさが一体何処からきているのか分からない。分からない事が、余計に彼を苛立たせた。


リリーシュは何も言わず、ただジッとルシフォールを見つめた。彼女は頭の中で、次に何と言えば良いのかを考えていたのだ。目の前のルシフォール殿下は、何故か急にこちらに対して怒りを露わにしていた。それは一体何故、どうしてなのか。


邪魔になるという理由ならば、もっと前から叩き出していた筈。鬱陶しそうにしながらも、私がいる事については何も言わなかったのに。


(そうだわ。そういえばエリオットの時も、こんな事があったわ)


あれは確か、貴族の子供らが母親に連れられて集まった時の事。それぞれが、得意な事を披露していた。リリーシュはどの子の時も、満面の笑みで賛辞の言葉を口にした。すると不思議な事に、その場に居たエリオットの顔がどんどんと不機嫌そうになっていったのだ。


(今思えば、彼はとても可愛らしい子供だったのだわ)


思わず微笑みそうになる顔をキュッと引き締め、リリーシュは自らルシフォールに一歩近付く。予想外の行動だったのか、今度は彼の肩が一瞬ピクリと反応した。


あの時、エリオットに掛けた言葉と同じ事を、リリーシュはなぞった。


「殿下のご気分を害してしまって、申し訳ございません。ですが誓って、私に他意はなかったのです。例えひと時でも殿下の住まう場所に足を踏み入れ、そのお姿を拝見できた事を、私は光栄に思っております」


「…」


「先程殿下が馬に乗り颯爽と掛けているご様子、私は視線を逸らせませんでした。誰よりも凛としていらっしゃって、本当に素敵でしたから」


(嘘は吐いていないわ。ただ少し大袈裟に話しているだけだもの)


心の中で言い訳しながら、リリーシュは自身が出来る精いっぱいのとろりとした笑みを浮かべてみせた。昔からエリオットは、彼女がこうすると必ず口を閉じたからだ。

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