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殿下の苦手なもの

それからもユリシスは、何故かリリーシュの側を離れようとはしなかった。とてもお喋り好きな男性なのだと、彼女は思う。


そしてふと、エリオットに想いを馳せる。彼は今何をしているのだろうか。


(もう、私の話は耳にしているわよね。どう思ったかしら。何も知らせなかった事を怒っているかもしれないわ)


リリーシュは、自分が家の犠牲になったとは考えていなかった。自らの意思でここに来たのだから、それを誰かの所為にした所で現実は変わらない。それならば少しでも楽しいことを考えた方が、きっとこの先の人生も得だ。


それでも、エリオットを思うと胸がちくりと痛んだ。もう、二人で笑いながらお菓子を食べることも叶わないのだろうか。


ーーリリーシュ、君は本当に可愛いね


何度も何度もそう言って、蜂蜜のような蕩ける笑みを見せてくれたエリオット。どうせいつものことだと流さないで、素直にありがとうと伝えれば良かった。


(もしもまた会えることができたなら、その時はきっと伝えるわ)


リリーシュは、ここへ来てから毎日欠かさず身に着けているエメラルドグリーンのネックレスを、無意識に指で撫でた。


「アンテヴェルディ嬢、どうかされましたか?」


急に黙ってしまったリリーシュを不思議に思ったのか、ユリシスが顔を覗き込む。彼女は、大丈夫だというようににこりと微笑んだ。


「会話の最中に申し訳ございません、少し考え事をしてしまって。あの、もし宜しければ私の事もリリーシュと呼んでいただけると嬉しいのですが」


「ぜひ喜んで、リリーシュ」


人当たりの良いユリシスに、リリーシュはとても癒された。ここでまともに相手をしてくれるのは、執事のフランクベルトと侍女のルルエだけだった。加えて結婚相手となろう人が酷く辛辣だった所為で、リリーシュは自分で思うよりずっと疲弊していたらしい。


これが策略であろうと単なる興味であろうと、優しくしてもらえることが彼女は嬉しかったのだ。


「そういえば、今ルシフォールが何をしているのかご存知ですか?」


ユリシスが、唐突にそんな台詞を口にする。リリーシュの返事はもちろん「いいえ」だ。


「物凄く不機嫌な顔をして、部屋で毛布に包まって暖炉の前を陣取っているんですよ」


「まぁ、殿下がですか?」


「彼実は、寒いのが苦手なんです。それ程雪の積もっていない場所で私と乗馬をしていたんですが、たまたま端に寄せていた雪に足を突っ込んでしまって。それでそんな有様なんです」


そのシーンを思い出しているのか、ユリシスがくつくつと喉を鳴らしながら笑う。リリーシュは、自分も笑っていいものかいまいち分からなかったが、そんな殿下は想像もつかないと思った。


「雪など大嫌いだ、こんな場所に積んでおくなと、八つ当たりされましたよ」


「そうですか。それは、大変ご苦労様でした」


「リリーシュは、冬はお嫌いですか?」


「寒いのが得意という訳ではありませんが、雪を眺めているのは好きです」


「ルシフォールとは反対ですね」


穏やかな口調でそう口にするユリシスを見ながら、彼は本当に殿下のことが好きなのだなと素直に思った。


ルシフォールの話をするユリシスの顔は、どことなく嬉しそうだったからだ。

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