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ウィンシス夫妻の胸の内

ジャック・ウィンシスは、学生時代からの友人であるワトソン・アンテヴェルディのことを好意的に見ていた。昔から自分では物事を決められない優柔不断な面はあったものの、優しくて誠実な男だとジャックは思っていた。


男の貴族社会程醜いものはなく、口では方便を使いながら裏ではいつ寝首をかいてやろうかと画策するような輩ばかり。貴族として成り上がる為にはそういった気概も必要であることも、ジャックは理解していた。


しかし、時折どうしようもなく虚しくなる。家族以外の誰も信頼できないと、疑心暗鬼になる。そんな人生の中で、ワトソンはある種異質とも言えた。


良くも悪くも、彼には成り上がりたいという気持ちがなかった。ワトソンの父親が病死し彼が爵位を継ぐことになった時も、彼は全く喜んでいなかった。泣きそうな顔で、自分はこれからどうすれば良いのかとジャックを頼った。


ワトソンの頭の中に「もしかしていつかジャックに裏切られるのではないか」という疑いの感情は、一切存在していなかった。ジャックはそれが嬉しく、彼もまたワトソンのことを心から信用していた。


やがてラズラリーと結婚した時、ジャックは正直に言えば不安だった。ワトソンは伯爵令嬢だった彼女に一目惚れし、熱心に求婚した。それ故に、結婚前からラズラリーには一切頭が上がらない彼の様子を、ジャックはずっと見てきたのだ。


ラズラリーは目を見張る程の美女だったが、派手好きで浪費家で、ワトソンと結婚することになった時、彼女の実家は漸く金銭苦から解放されると、泣いて喜んでいたらしい。


決して悪い女性ではないと分かってはいたけれど、彼女の手綱をワトソンが握れるとは思わなかった。


お互い子宝にも恵まれ、その子供達も交流をさせた。リリーシュが大きくなるにつれジャックもマリーナも、彼女とエリオットが結婚すれば良いのにといつも思っていた。


結婚もビジネスの内、しかし自分の子にも彼の子にもなるべく幸せな道を歩んでほしい。全ては本人達が決めることだと決して口は出さなかったし、エリオットにはくれぐれも軽率な行動は控えるようにと何度か釘を刺した。


その所為もあり彼がリリーシュに対して数年拗らせた態度を取っていた訳だが、彼らはそれがエリオットの我儘から来ていることを理解していた。故に、殊更にリリーシュを可愛がった。


ジャックは、ワトソンが自分に何の相談もなしにこんな事態を引き起こしてしまったことが、とてもショックだった。しかし、それだけならば何とでもやりようはあったのだ。


それがまさか、王家から婚約話が舞い込むとは流石の彼も寝耳に水だった。


エヴァンテル王国の王妃でもあり姉でもあるオフィーリアからは、以前から何度かリリーシュについて聞かれたこともあった。


しかしそれは一種の世間話のようであった為に、彼女が自分の三男の伴侶にリリーシュを考えているなんて予想できなかったのだ。


ジャックは、昔から姉であるオフィーリアを理解できなかった。恐ろしく頭が切れ、豪快で怖いもの知らず。悪人だとは思わないが、だからといって善人だとも思えない。


今回の件には必ず、彼女の思惑がある筈だとジャックは思っていた。絶対に、悪評高い自身の息子に少しでもいい娘と結婚して欲しいという、純粋な親心だけではないと。


普段冷静なウィンシス夫妻は、今回の事で珍しく動揺している。そんな自分達の姿をオフィーリアが高笑いしながら見下ろしているようにしか、彼には思えなかった。


そして、先日自分が送った手紙が今頃息子であるエリオットに届き、それを読んだ彼がどれ程ショックに打ちひしがれていることか、想像するだけでジャックの胸は酷く軋んだのだった。

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