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女嫌いの王子様

部屋に置いてあるカクトワールに腰掛けたリリーシュは、今頃ウィンシス家の人達にこのことが伝わっている頃だろうかと考えた。


王妃様がウィンシス家の出でなのだから、もしもリリーシュがルシフォール殿下と結婚すればエリオットとは親族ということになる。つまり彼と縁が切れることはなくなるのだから、喜ばしいことだと彼女は思った。


なのに、なぜだろう。リリーシュの心はちっとも踊らなかった。


(エリオットは今頃何をしているかしら)


今までと同じように手紙のやり取りをすることを、彼は許してくれるだろうか。他の男性の妻になるのだから、誤解されるようなことは控えた方が賢明だろうか。


いつも彼が寄宿学校から送ってくれる手紙を楽しみにしていたリリーシュは、それがなくなるのはとても寂しいことだと思った。





ーー


リリーシュが宮殿での生活を始めてから、約一週間。彼女は窓の外に舞う雪を眺めるくらいしかすることがなく、未だにルシフォール殿下と顔を合わせることすら叶っていなかった。


今までのご令嬢達もこんな扱いを受けていたのだとしたら、成る程それは怒って当たり前だとリリーシュは思う。彼女には貴族のプライドというものが特にないので、まだ追い出されていないから良かったくらいにしか考えていないけれど。


正式な婚約の取り決めもまだであるリリーシュは、妃教育も受けられない。かといってあまり宮殿の中をウロウロするのも良くないかなと、リリーシュは客室から出られないでいた。


食事は豪華なものが運ばれてくるが、一人。リリーシュだって、突然家族と離れて寂しい思いをしている。どう見ても一人分ではないご馳走に囲まれたって、虚しいという気持ちしか沸かなかった。


時折執事のフランクベルトに頼んで本を持ってきてもらい、それを読んで退屈を紛らわせた。どうしようもない気分になったら、客室の窓から見える雪景色を見て心を落ち着かせた。


そんな生活を送っていたリリーシュだったが、遂にルシフォール殿下への謁見が叶うこととなったと、フランクベルトが知らせにやって来た。


たくさんのメイドに囲まれて準備を整えたリリーシュは、食堂に呼ばれた。そこに居たのは、ただ一人。アイスブルーの瞳に、まるで彫刻のように整った顔。輝く長い金髪を、後ろで一括りに結っている。表情は堅く、冷ややかな態度を隠そうともしていない。


(この方が、ルシフォール殿下だわ)


今日着せられたドレスは、いつもの何倍もコルセットがキツい。只でさえ苦しいのに、ルシフォール殿下からヒシヒシと感じられる圧のせいで、リリーシュの胸はギュッと締め付けられるようだった。


「初めまして、ルシフォール・ダ・サラマンダー・エヴァンテル殿下。私はアンテヴェルディ公爵家の長女、リリ」


「興味がないことは、口にしなくて良い」


名前さえ、最後まで名乗らせては貰えなかった。長い睫毛に縁取られた宝石のように美しい瞳を伏せたまま、表情と同じく感情の籠らない声色でそう言い放った。


「自分が選ばれたなどと、思い上がらないことだ」


怖いと、リリーシュの体は素直に震える。美しい人程、迫力が増すものなのだと。


しかし、噂に聞いていた通りの傍若無人ぶり。これはやはり、体を鍛える必要があるかもしれないとリリーシュは思った。

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