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いざ、王城へ

アンテヴェルディ家にも馬車はあるが、王城から寄越されたものは比べ物にならない程豪華だった。これに乗れば嫌でも目立ってしまうだろうなと、リリーシュは思う。


「お父様、お母様、行ってまいります」


「あぁ…リリーシュ」


「おぉ…リリーシュ」


二人は目元にハンカチを当て、まるで牢獄に送られる者を見送るかのように悲壮な顔をしている。両親がずっとこんな様子なので、逆にリリーシュ自身は冷静になれた。


これは、昔からだった。リリーシュが感情を露わにするよりも先に、両親がそうする。だからリリーシュも彼女の兄も、側からみれば落ち着いた性分のように見えるだろう。


リリーシュが素直に自分の気持ちを面に表すことができるのは、様々な顔を持った幼馴染の前でだけだったのだ。


「お父様。もしもエリオットがここを訪ねてきたら、くれぐれもリリーシュは悲観などしていなかったとお伝えください。間違っても助けなど求めないで」


今回の件でウィンシス家に助けを乞えばどうなるかは、流石のワトソンでも理解しているようだった。万が一王家とウィンシス家が仲違いしてしまうようなことになれば、それこそが最悪の事態だとリリーシュは思う。


エリオットには、幸せになってもらいたいのだ。





(腰が痛いわ。やっぱり、豪華と言っても馬車は馬車ね)


腰を摩りたかったが、リリーシュは我慢した。馬車を降りた彼女の元に、別の馬車で来ていた侍女のルルエが駆け寄る。王城にはたくさんの侍女や使用人が居るだろうけれど、リリーシュはルルエにやってもらいたかった。


社交界デビューもまだの彼女が王城を訪れるのは、初めてだった。緊張から胸がドキドキと痛んだが、国王の暮らす場所なんだから豪華絢爛で当たり前だと思うことにした。すると、少しずつ心臓の鼓動が緩やかになっていく。


リリーシュは、物事を受け入れるのがとても得意な娘だったのだ。


「リリーシュ・アンテヴェルディ公爵令嬢、ようこそお越し下さいました。私はこの執事のフランクベルトと申します。用がございましたら、いつでもお申し付け下さい」


フランクベルトと名乗る初老の執事が、リリーシュの前で恭しく頭を下げる。その後ろにはズラッとメイドが並び、彼女は思わずパチパチと目を瞬かせた。


(もしかしたら、ルルエに肩身の狭い思いをさせてしまうかしら)


自分のことだけしか考えていなかったリリーシュは反省し、後ろで私のバッグを持っているルルエに視線を向ける。


彼女はリリーシュの考えを見透かしたように、小さく微笑んで首を横に振った。


今日は到着したばかりということで、取り敢えず客間に案内された。これから、リリーシュの自室は将来夫となるルシフォールの塔に用意されるのだろうか。母親が言うには彼は周囲に女性を寄せ付けないという話だが、自分はどうなるのだろうか。


リリーシュは元より、どう考えてもルシフォールはこの結婚に乗り気ではないだろう。彼女にとって何よりも困った事態は、愛のない結婚をして夫に暴力を振るわれるよりも、数日でここを追い出されてしまうことだった。


家の為にやってきたのに、破談になれば元も子もないのだから。


(だけど、痛いのは嫌だわ。今のうちに体を鍛えておいた方がいいかしら)


アンテヴェルディ家の一番豪華な客室など比べ物にならない程の豪華な部屋を見回しながら、リリーシュはぼんやりとそんなことを考えた。

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