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幼馴染は永遠に

それからまた月日は経ち、アンテヴェルディ家が進めている紅茶とそれに合う輸入菓子の取引、及びあまり質の良くない宝石を加工したアクセサリーの販売は、予想以上に上手くいった。


それは周囲の協力も大きく、ランツ侯爵夫人やウィンシス家、ユリシスも力を貸してくれた。


そして一番の功績は、リリーシュがせっせと人脈作りに精を出した事。元々あまり感情で動く性分ではなかった彼女は、貴族や商人達の望まんとするところを冷静に読み取った。


繋げるべき縁は繋ぎ、こちらから搾取しようと目論んでいる人間は切る。アンテヴェルディ家は一度騙されているからこそ、今度はワトソンも一層慎重になったし、ラズラリーも口を出さなくなった。


それからやはり、リリーシュの後ろにいるルシフォールの存在は大きかった。男色家で大の女嫌いの暴君と言われていた彼は、すっかり様変わりしたと貴族達だけでなく平民の間でも噂となっていた。


彼を変えたのがリリーシュであり、そんな彼女と付き合う事は得しかないだろうと誰もが考えた。家の借金など、とうの昔に王家が何とかしているだろうと。


しかし実際には、アンテヴェルディ家はリリーシュの意向により借金の返済を自分達で行っていった。額が額なのですぐに全額完済とはいかないが、この調子だとそれも遠くない未来だろう。


リリーシュはその事を特に周囲に話したりはしなかったのだが、彼女の知らぬところで何故か広まっていたのだ。それを裏で操作していたのは王妃であるオフィーリアであり、協力したのはアンクウェルだったのだが、リリーシュがそれを知る事はないだろう。


こうして誰もが“男色家で女嫌いの暴君王子”と“難攻不落の鈍感令嬢”の恋物語を、少々美化し過ぎた形で噂したのだった。





ーー


十八になったリリーシュは色とりどりの花が咲き誇るアンテヴェルディ家の庭園に経ち、うっとりと目を細めそれを眺めている。


(ルシフォール様にも、この景色を見て頂きたいわ)


「リリーシュ」


爽やかな声で名を呼ばれ、リリーシュはくるりと振り返る。そこにはエメラルドの瞳に優しげな笑みをたたえた、エリオットが立っていた。


「エリオット」


「久し振りだね」


「えぇ、本当に」


寄宿学校を卒業し父であるウィンシス卿の元で学んでいるエリオットは、以前よりもずっと大人びた表情を浮かべている。


彼は相変わらずの美青年であり、温かな陽射しに照らされた花達が、エリオットの来訪を喜ぶかの様にゆらゆらと揺れた。


「いよいよ明日だね。君が宮殿に輿入れをする日」


「知っていたのね」


「だからお祝いに来たのさ」


月日が流れた今も、リリーシュの姿を見ればエリオットの胸は高鳴った。しかしもう、彼女をルシフォールから奪いたいとは思っていない。


リリーシュはとても美しく、そして強くなった。


その原動力がルシフォールであるならば、エリオットに彼を攻撃する理由などないのだ。


「向こうに行っても、どうか幸せに」


エリオットはにこりと微笑んで、右手を差し出す。リリーシュは一瞬迷ったが、同じ様に手を差し出した。


「ありがとう、エリオット」


繋がれた手から、今までの思い出が走馬灯の様に流れ込んでくる。エリオットは瞳を閉じ、もう二度と触れる事はないだろうその温もりを心に刻んだ。

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