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君が笑ってくれるなら

リリーシュがバルコニーに出てしばらくした後、エリオットも同じ様にバルコニーにやって来た。手にはブランケットを持っている。


「リリーシュ。夜風は冷えるから、これを羽織って」


「ありがとう、エリオット。だけど貴方の分がないわ」


「僕は大丈夫だから、君が使って」


エリオットは柔らかな笑みを浮かべて、彼女の肩にふわりとそれを掛ける。リリーシュはそれ以上何も言わず、有り難く好意に甘えた。


「今夜は月も星も出ていないな」


「明日は雨が降りそうな空ね」


揃って雲で覆われた夜空を見上げる。二人は幼い頃からこんな風に、同じ景色をその瞳に映してきた。特にエリオットは、ずっとリリーシュと生きていけると信じて疑わなかった。


これからの人生を別々に過ごし、彼女が自分ではない他の男性と寄り添って幸せそうに笑っている姿を見なければならないと思うと、今でも胸が張り裂けそうだ。


しかしあの日リリーシュにハッキリと「ルシフォールが好きだ」と言われてからは、もう追いかける事をやめようと決めた。


かといって再び幼馴染に戻れるかと言えば、心情的にはまだ時間が必要であるが。


「あのね、エリオット」


「どうしたの」


「私ここへは、現状を変える為に帰ってきたの」


「それは、アンテヴェルディの借金のこと?」


エリオットの問いかけに、リリーシュはこくりと頷く。現状に抗おうとしている幼馴染の姿を、今までの自分は知らなかったと思う。


彼女を変えたのがルシフォールである事が、エリオットは悔しくて堪らない。やはりそう簡単に気持ちは切り替えられないのだ。


「こちらに負い目があるままでは、いつまで経ってもルシフォール様が悪く言われてしまうから」


「周りなんて放っておけば良いじゃないか。本人達さえ理解し合っていれば」


「そういう訳にはいかないわ。彼には立場があるもの」


「当の本人は、そんな事気にしなさそうだけど」


「それにこれはあの方の為だけではないわ。私自身と、アンテヴェルディ公爵家の名誉の為。今更かもしれないけど、やられたままで終わらせない事にしたの」


「何とも君らしくないね」


「ふふっ、私もそう思うわ」


口元に手を添え小さく笑うリリーシュを見て、エリオットは無意識の内に伸ばした手を既の所で下に下ろした。


「ウィンシス家にできる事があれば、いつでも遠慮なく言うんだよ。これは君だけの問題じゃないんだからね」


「とても心強いわ。ありがとうエリオット」


「どういたしまして」


ふわりと柔らかな表情を浮かべるエリオットを見て、リリーシュは思う。


(私はきっと、気付かない内にエリオットにも恋をしていたのかもしれないわ)


封じ込めた恋心に自分自身さえ気付かないまま、それは親愛へと形を変えた。


ルシフォールに初めて出会った時とは違い、リリーシュはずっとエリオットには幸せになって欲しいと願っていた。そしてそれは、自分との結婚では叶わないとも。


エリオットにとっては皮肉かもしれないが、リリーシュはリリーシュなりに心の底から彼の事が家族の様な存在として大切なのだ。


「リリーシュは、変わったね」


未だにリリーシュからプレゼントされたエメラルドの飾りボタンを外す事の出来ないエリオットと、もうエメラルドのネックレスを着けていないリリーシュ。


とても哀しい事だが、少しずつ受け入れていかなければとエリオットは思った。そうでなければ、リリーシュだっていつまでも気にしてしまうから。


「これからも幼馴染として、僕は君に力を貸すよ」


「…本当にありがとう」


こんな時でさえ自分を気遣ってくれるエリオットの姿に、リリーシュは自分もこんな人間になりたいとすら思うのだった。

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