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幼馴染の在り方

アンテヴェルディ家の面々に久々に笑顔と明るい雰囲気が戻った事を、使用人達はとても嬉しく思っていた。王妃陛下からの使いがこの屋敷に来るまで、夫妻はおろか冬期休暇から帰ってきたカルスも暗い顔をしていたからだ。


特にラズラリーの変わりようは酷いもので、絶対に欠かした事のない念入りな化粧やヘアセットもそぞろに、いつだったか画家に描かせた家族の肖像画を見つめながら、さめざめと泣き暮らしていた。


使用人達は正直に言えば、母親としてのラズラリーはあまり宜しくないものとそれまで思っていた。というよりも、リリーシュに然程興味はないのだろうと。


実際彼女の事は殆ど乳母や家庭教師に任せ、自分はやれお茶会だ夜会だのとそちらの方にばかり精を出しているようにしか見えなかった。


それが今回、リリーシュの忠告を無視した所為で起こしてしまった借金の件で、流石のラズラリーも良心の呵責に苛まれてしまった。


若干まるで自身が悲劇のヒロインであるかの様な素振りはあったものの、それはまぁ元々の性分もあるので致し方ない。


なにはともあれ、再びこうしてアンテヴェルディ家に灯りが灯った事を、誰もが嬉しく思っていたのだ。


「カルス、どうだい学校は」


夕食を共にしながら、ジャックがカルスに視線を向ける。カルスはカルスで、父親よりも断然ジャックの方を尊敬していた。


「経営学というのは奥が深いですね。理論だけで成り立っているものではないと、学生の内から思い知らされますよ」


「貴族の男というのはその辺の駆け引きが上手いかどうかだからな。まぁ私は、ワトソンの様な人間の方が好ましいがね」


「私かい?」


にこにことラズラリーやリリーシュを見ていたワトソンが、自身の名前が出てきた事に反応する。ぽかんとしたその姿を見て、カルスは苦笑いを浮かべた。


「父は…そうですね。友に恵まれた人です」


「ははっ、それは光栄だ」


実際ジャックが居なければ、アンテヴェルディ家はワトソンの代でとっくにどうにかなっていただろう。しかし裏を返せば、ワトソンがこういう人物でなければジャックは手を貸したいと思う事はなかったのだから、彼はある意味稀有な才能を持ち合わせているとも言える。


「そういえばエリオットは生徒会長になったんだって?凄いじゃないか、父親そっくりだ」


「ありがとうございます、ワトソンさん」


ワイングラスを手にしたエリオットが、にこりと穏やかに微笑む。綺麗なエメラルドの瞳がグラスに反射し、宝石の様にきらきらと輝いていた。


「卒業後が楽しみだね」


「後一年以上ありますから、今以上に精進します」


「おいおい、もう充分だろう。たまには息抜きも必要さ」


「それをお前が言うのかワトソン」


「やめてくれよジャック。私だって今は精いっぱいやっているんだから」


「ははっ、そうだったな」


軽口を叩き合う二人を見ながら、リリーシュは羨ましいと思った。もしも性別が同じであれば、自分とエリオットもこんな風にいつまで仲睦まじく過ごせていたのかと思うと、ズキリと胸が痛む。


それを誤魔化すように、彼女はぐいっとワイングラスを煽った。しきりに話しかけてくるリザリアに、ふにゃりと笑顔で対応する。


「……」


そんな彼女の心情を見抜いていたのは、この場でエリオットただ一人だった。共に過ごした時間というものはそれ程尊く、そして残酷だ。


しかし彼は決して、リリーシュを傷つけたい訳ではないのだ。想いは届かなかったけれど、たった一つの願いは今も変わらないまま。


どうか彼女に幸せが訪れますように、と。

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