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卑屈な男の争い

アイスブルーの瞳が自分から逸れた事に、エリオットは内心ホッと溜息を吐いた。暴力家だのなんだのと噂されている人物、しかも国の第三王子に堂々と喧嘩を売ったにも関わらず、ルシフォールは黙り込んだまま。エリオットは彼をジッと見つめたが、やはり苛立っている様な表情には見えない。


「あの、殿下」


「…あぁ」


「アンテヴェルディ嬢は、ここでの生活を幸せに送れていますでしょうか。肩身の狭い思いをしているのではないかと、私は心配なのです」


「…どういう意味だ」


「まるで身売りの様だと、良くない噂が立っておりますので」


「っ」


ルシフォールは言葉を詰まらせ、再びエリオットに視線を移す。彼は真っ直ぐ、睨みつける様にルシフォールを見つめていた。


虹彩を取り込み、きらきらと輝くエメラルドの瞳。その奥は澄み切っていて、彼の人柄を指し示しているかの様に見えた。


「彼女がそんな視線に晒されて生きていかなければならない事が、僕は耐えられません」


「だから奪うと?」


「…それは」


ルシフォールは今すぐこの場で“リリーシュは俺を好きだと言った”と声高々に叫びたい衝動に駆られた。今までの自分なら即座にエリオットを罵り、罰を与えていた事だろう。


しかしこの男は、彼女の幼馴染。恋愛感情抜きにしても、大切な存在である事は確かだ。


それに、言っている事は間違いではない。まだリリーシュがここに来て間もない頃に、執事のフランクベルトから何度か報告を受けていた。


その時は彼女の事などどうだって良かったし、寧ろ居心地が悪い方がすぐに出ていきたくなるだろうと、使用人や城に住まう貴族達の態度を改めさせようとはしなかった。


上の立場に立つルシフォール自身がリリーシュを蔑んでいたのだから、下の者が自然とそれを真似するのは仕方のない事なのだ。


リリーシュはそういった不満を一切口にしないので、部屋を移った今もそういった状況であるのかは分からない。


部屋が隣になった事や想いが通じ合った事に浮かれ、彼女の立場を慮る事が出来なかった。そもそもルシフォールは、元よりそういう配慮の出来ない男でもあった。


リリーシュの為に変わりたいと思ったのに結局自分は何一つ変わっていないと、エリオットの指摘を受け改めて痛感したのだった。


「政略結婚など、当たり前の世です。だからといって、彼女が不幸への道を歩まなければならないのはあんまりだ」


「…随分と舐めた口を聞くな。所詮は親に頼らねば生きていけぬ子供の分際で」


「…っ」


遂に本性を表したと思ったエリオットは、彼を睨みつけたままじりと一歩下がる。リリーシュの立場を考えればルシフォールに喧嘩を売るなどもってのほかだと頭では分かっていても、エリオットは自分を止める事が出来ない。


リリーシュにこっそりと手紙を渡した時のあの反応に、エリオットは嫌な予感が脳裏をよぎった。


例え借金がなくなったとしても彼女はルシフォールを選ぶのではないか、と。


目の前のこの暴君を選ぶなど、あの控えめなリリーシュに限ってそんな事はあり得ない。


そう思いながらも、彼は言いようのない焦燥感に苛まれていたのだ。


そしてそれは、ルシフォールも同じ。好きだと告げられた、彼女の言葉を疑っている訳ではない。それでも、今までの行いを鑑みれば自信など持てる筈もなかった。

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