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ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。  作者: 清澄 セイ


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頑張るユリシス

ユリシスには、リリーシュの視線の先があの二人のどちらにあるのか分からなかった。彼の個人的な思いとしては、それがルシフォールであれば良いと願わずにはいられない。


ユリシスにエリオットとの関わりはほとんどなく、何かの集まりで挨拶を交わした事くらい。それでも彼がどれだけ評判の良い男であるのかは知っていたし、今目の前で剣の太刀筋を見ても、ルシフォール程ではないにしろ中々のものだ。流石は、あのウィンシス卿の息子だとユリシスは思った。


「リリーシュ」


「はい、ユリシス様」


「君はエリオットと、とても仲の良い幼馴染だったんだよね」


部外者があまり踏み込んでも良い結果には繋がらないと思うユリシスだが、ルシフォールの心情を鑑みると気になって気になって仕方がなかった。


「そうですね。家ぐるみで懇意にさせて頂いておりました」


「女性にこんな事を聞くものではないと分かっているんだけど」


ユリシスはそう前置きをした後、リリーシュに警戒されないよう努めて軽い口調で尋ねた。


「それだけ仲が良かったなら、婚約話が出てもおかしくなかったんじゃないかな?」


「まぁ。そんな事は考えた事もございません」


「それはどうしてか、聞いても良いかな」


「同じ公爵家とはいえ、アンテヴェルディ家とウィンシス家では格が違います。エリオット様にはもっと、相応しいご令嬢がいらっしゃいますから」


「だけど彼には、まだ婚約者は居ないよね」


「その辺りの事情は、私には分かりかねます」


「じゃあ質問を変えよう。君は、彼との婚約を望まなかったの?」


「…ユリシス様」


「あっ、ごめんね。失礼だったかな」


流石に気分を害したかとユリシスは思ったが、彼女の表情を見る限りそういう風には見えない。


「仮にエリオット様から婚約を申し込まれたならば、私は考えるまでもなくその話を受けたでしょう。ですが“もしもこうならば”という仮定の話は、全く意味がありません」


「…まぁ、そうだね」


「ユリシス様の質問の答えにつきましては、幼い頃は確かに彼に憧れた時分もありましたと、それだけ」


「うん、充分だ。ありがとう、リリーシュ」


「いいえ」


にこりと人当たりの良い笑みを浮かべるリリーシュにつられて、同じ様に微笑んでみせたユリシスだったが、心中は複雑だった。


リリーシュの真摯な態度には好感が持てる。しかし、その胸中はいまいち謎のまま。彼女が本当はエリオットをどの様に見ていたのか、ユリシスには知る事が出来なかった。


ルシフォールはもう、彼女に聞いたのだろうか。そして彼女は、何と答えたのか。


結局のところは当人達にしか分からないのかと、ユリシスはほうっと溜息を吐いたのだった。

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