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失意のエリオット

帰りの馬車で、エリオットは終始無言だった。両親とは別の馬車に乗り込み、腕を組んでただ外を見つめる。行きと帰りで道のりも馬車の種類も変わらない筈だが、やけにガタガタと乗り心地が悪く感じた。


エリオットはルシフォールに腰を抱かれたリリーシュの姿を思い出し、泣きたくなるのを必死に堪える。こんな事で涙を流すなど、十六の男がする事ではない。それは充分分かっていたが悔しくて堪らなかった。


ずっとずっと大好きだった。幼馴染で、友達で、たった一人の大切な女の子。


エリオットは、決意した筈だった。彼女を取り戻すためならばどんな事でもしてみせると。


男色家で女嫌いで、従わせる為ならば暴力も厭わない非常な男。あんな男に、リリーシュは任せられない。


今日対峙したルシフォールは噂に違わぬ嫌味な男だったと、エリオットはしかめ面をした。リリーシュに寄り添い、あの氷の様な色の瞳で彼女を見下ろす。そこに優しげな雰囲気などなく、やはりあの男はリリーシュを無理矢理従わせているのだと確信した。


例え勝ち目がないと思える程の人格者であったとしても、リリーシュを渡したくはない。しかしそれに輪をかけて、ルシフォールだけは絶対にダメだと強く思う。


あれだけ美しい容姿であれば、例え噂が最悪なものであっても引く手は数多だろう。たまたま借金を背負ったアンテヴェルディ家に白羽の矢を立てたのは、優位に事を進める為に他ならない。


思ったよりも彼女は元気そうだったと、エリオットは思った。見たところ暴力を振るわれた様な形跡はなく、ルシフォールが傍に立った時もリリーシュに怯えた様子は見られなかった。


まさか、上手くいっているのか。いやそんな筈はない。高位貴族が多く集まるあんな場所で、こちらに見え透いた牽制をかけてきた。表情も冷たく、とても婚約者候補に向ける様なものとは思えない。


大方、従兄弟である自分がリリーシュと幼馴染であるという事が気に入らないのだろう。万が一、アンテヴェルディのご令嬢が第三王子よりもウィンシス家の息子を選んだなどと言われ、恥をかきたくないといったところか。


「…絶対、彼女を不幸にはさせない」


ガタガタと揺れる馬車に乗り心地の悪さを感じながら、エリオットは改めて決意を固める。大切な女性が不幸になるのを黙って見ている事など、出来はしない。


ただ一つ、エリオットには引っかかっている事があった。


リリーシュがもう自分達に関わるなと言ったのは、ウィンシス家の立場を考えての事。それは充分に理解できる。


しかし、彼女のあの言葉。ルシフォールを見つめながら、彼女は言った。


ーーもし宜しければ、部屋まで送って頂けませんか?


あれは本心だろうか、いやそんな筈はない。そう思いたいのに何故か、心がザワザワと騒いで仕方ない。


もしもリリーシュが、あの第三王子を好きになってしまったら。


もしもルシフォールが男色家などではなく、リリーシュを気に入ってしまったら。


もしも二人に、政略結婚以上の絆が生まれてしまったら。


そんな事考えたくもない。それなのに、あんな場面を見せられるとどうしても想像してしまう。そうしてまた、叫び出してしまいそうな程に胸は苦しく痛むのだ。


「好きだリリーシュ。僕は君を失いたくない…」


揺れる馬車の中、エリオットは膝に額を付けて目を閉じた。


ーーどうか、手遅れになりませんように


と。

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