第8話
「さて、次は早速魔法の練習です。」
「いよっ!待ってました!」
「ハイテンションですね、坊ちゃま。」
そりゃあそうだ。だって待ちに待ったファンタジー要素だもん。
「まず始めに。」
そういうとアンリさんは手の平を上に向けた。
「坊ちゃまも同じようになさってください。」
「ええと、こうか?」
「ええ、上出来です。」
「で、ここからどうするの?」
「ええとですね、」
そしてメイドは笑顔たっぷりにこう言い放った。
「こうやって時空を歪めます!」
「...ふざけてんのか?」
「いえいえ、今回は至って真面目です。」
その澄ましたような表情に無性に腹が立った。
「いいですか、坊ちゃん。天文学をお教えした際に話した、星をも飲み込む恐ろしい暗黒を意識するのです。」
なるほど、ブラックホールを生み出すイメージか.........いや、いいのか?
「ねえ、アンリさん。それって、危ないんじゃない?」
「ふふふ。坊ちゃま、魔法は使用者の魔力、そして空間中に漂う魔素の量に従って強くなります。坊ちゃまの保有されておられる魔力はその適切な処置により並みの人間よりは多いものとなりましたが、正直なところ、それっぽっちの魔力で星を滅ぼすことなど不可能です。自惚れるのも大概になさってください。」
ひどい言いざまである。俺の鋼の心が少し傷ついた。
ブラックホール、実物は見たことないが、何となくこういう物だろうというのはある。それをいかに具現化出来るかが問題なのだが.....
「あ、出来た。」
「流石でございます、坊ちゃま。」
あっさりとやってしまった。なんとも拍子抜けなことだ。
それにしても。
「ねえ、アンリさん。これ、なんだかしょぼくない?」
「確かに坊ちゃまのその魔法は私のものに比べかなり貧相なものでございますが、別にさほど問題ではありません。」
「.....なんか今日はよく煽るね。」
「お褒めに預かり恐縮です。」
いや、褒めてないから。
「それで、問題無いってどういうこと?」
「これは時空魔法の根本的な話に関わってくるのですが、時空魔法とはすなわち、時間と空間を操る魔法なんです。ただ、必ずしもこの二つを相互に関連させなければならない訳ではなく、時間だけに干渉、空間だけに干渉することもできます。」
「なるほど?それで?」
「ただいま坊ちゃまがお出しなさったその時空の歪みは、どちらかと言うと空間への干渉に近いものでございます。」
「ごめん。やっぱりよく分かんないから簡潔に頼む。」
「ヒドい!今からがお話の佳境でしたのに......まあ宜しいでしょう。端的に申し上げますと、その魔法は物を収納できる可能性もあるのでは?ということです。」
あれ?それはかなり便利だぞ。
「しかし、いざ魔法で物を収納するとなると、常に空間の歪みを保持するか、その空間座標を記憶しなければ再度取り出せなくなるので注意が必要です。」
前言撤回。かなり不便だ。
「そんなことはございません。私の友人には氷魔法と組み合わせて食料保管庫にしている者もおりましたので、ちゃんと使えることは確かです。」
なるほど。そんな強者もいるのか....だが、そういうことができるのならば、いずれはそこを目指しても良いかもしれない。