第7話
「坊ちゃん、私は今から、最後の授業として時空魔法を教えて差し上げます。」
「は?」
予想外すぎる話に、俺は暫しの間呆けてしまった。
「待って、アンリさん。魔法ってあるの?」
「はい、ございます。」
満面の笑みで答えるメイド。
ちょっと待って欲しい。おかしいじゃないか。だって、今の今まで魔法の“ま”の字でさえ出てこなかったんだぞ?
「それはですね、坊ちゃま。魔法は教える直前までひた隠しにしていた方が覚えが速いからですよ?とある偉い人の研究によると魔力と生命力との互換性を弱め、いえ、詳しい話はこの辺にしておきましょう。つまり、魔法を使う上では魔力を生命力から独立させなければならないのですが、事前に色々と誤った知識を身に着けてしまうとその解離がうまくいかなくなるのです。」
ええと...要するに、魔法について間違った固定観念があると魔法が使えなくなる?
「大体そういう認識で構いません。その為、坊ちゃまには申し訳ないのですが、これまでは魔法に関して一切喝采を秘匿して参りました。」
「なるほど。魔法について聞いた時にいつも言葉を濁していたのはその為だったんだね。」
「左様で。」
「そっか...............いや待って、時空魔法ってさっき言ったよね!?」
「ええ、そう申し上げましたが?」
こてん、と可愛らしく首を傾げるメイド。
「ええ、じゃなくて。あの、それってかなり高度な魔法じゃないの?」
「そんな事はございません。時空なんて大層な名前が付いているだけで、正直な話、概念が理解できなくともうまく使える便利なものでございます。」
「そうなのか」
「そうなのです。というわけで、早速始めてみましょう。」
こんな感じで、アンリさんの最後の授業が始まった。
「まずは魔力と生命力を分離させます。」
「どうやるの?」
「それには様々な工程が必要で、結構大変です。」
あれだな、魔力を感じたりするやつだ。確かにそういうのって大変そう。
「なので、今回は時間短縮の為、これを使います。」
そう言って取り出したのは大きいナイフ、いや、マチェット。
キランって異様に輝いているし、なんか奇妙な靄が見える。紫色に歪んだ空間なんて初めて見た。あれ、もしかしてこれ.......
彼女はニヤリと怪しく笑うとそれを大きく振りかぶり...
「アンリさん、タイムタイムッ!!そんなので切られたら僕死んじゃうから‼‼待って、動けないッ。なんで!?」
「.....坊ちゃん、男の子には、覚悟を決めなければならないときがあるのですよ♪」
そういって、無慈悲にマチェットを俺に向けて振り下ろした。
その日、屋敷中に子供の悲鳴が鳴り響いた。
まあ、いつものことなので家の者達はあまり気にしなかったようだが。
「はぁはぁ、死ぬかと思った。」
「でも死ななかったでしょう?」
やかましいわい。
「そんな拗ねないでください。」
「拗ねてなんかないやい。なんだよ、今の。明らかに僕切られたよね。」
「はい。坊ちゃまの魔力と生命力との繋がりは私がこの魔道具で切断させて頂きました。」
「え、なにそれ凄いじゃん。」
「まあ物理的に切断するので偶に死人が出るのが難点ですが。」
「.......」
「まあそう不貞腐れずに。成功したではありませんか。それに、万が一の為の保険もかけておりましたし。」
確かに。アンリさんは俺の為に行動してくれた訳だし、ここで顔を膨らませるのは少し良心が痛む。
「....ちなみに、保険って何を?」
「生命ほ....なんでもありません。」
「今なんて言おうとした!?絶対生命保険って言おうとしたよな!!」
「冗談です。即死無効の護符を用意しておりました。」
「目が本気だったぞ......なんだ。護符とかあったのか。なら良かった。」
「怪しげな露店のご老人から購入ものですが。」
「やっぱり駄目じゃないか!!僕のこの安堵を返せっ!!」
一瞬期待した俺が馬鹿だった。
「それはそうと、本題に戻ります。どうです、体の方は?}
「うーん。そんなに変わらないかな。」
「そうですか。なら大丈夫でしょう。次のステップに行きましょう。」